御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×三木聡」 第9話

『ごっつえぇ感じ』などでさまざまな企画を共に手がけてきた2人。その後、三木さんは映画監督として数々の作品を手がけられるようになりました。二人がコントや企画、舞台で「くだらないこと」に全力を傾ける姿勢の中にも、じつは色気があるとかないとかで細分化されるカラーの違いがありました。そして「一万円ライブ」のウラ話など、『ごっつ』世代にはたまらないトークが満載だった一夜のレポートです。

インタビュー

第8話

2001.01

高須光聖がキク「高須光聖×三木聡」

一万円ライブが動かしたもの

高須

三木さんが「一万円ライブ」のメンバーに参加してくれたでしょ。
俺はあのライブが一番おもしろかったと思うのよ、今でも。

三木

いやいや、何にもしてないって。

高須

いや、全然してるよ、絶対してたよ!!

三木

俺ら二人して「明日の朝までに何かコントのネタ持って行かなくちゃ」
ってことで、中野坂上のデニーズでずっと書いてただけじゃん(笑)。

高須

そんなんあったなっ(笑)。
で、俺が何か思いついてバーッとテレ原(テレビ用の原稿用紙)
に書き出したら、向かいで三木さんが
「ちょっと、ちょっと待ってよ。そんな急いで書かないでよ~」
って泣きそうな顔してて(笑)。

三木

高須くんは書くの速いんだよ~。俺、遅いんだもん~。
二人で稽古した仮のコントみたいなのを、一所懸命
書き起こしたりしたんだよね。

高須

そんなこともあったなぁ……。
だいぶ昔の事みたいな気がするなー。

話はものすごい飛び方をしながら、あっちへこっちへと
繋がっては切れ、切れては繋がっていく。
時間軸は時として思い切りずれて、まるで思い出のように、
そしてまるで現在のことのように語られていく様々な物事と想い。
無邪気な子供が手に負えないような勢いではしゃぐ時、
部外者になってしまった大人には決してその心を止めたり、
捕まえて封じることが出来なかったりする。
その翻弄感にぼんやりと酔うようにして二人の会話に聴き入っていると、
突然観客として話を振られたりして、えらく慌てたりもした。

高須さんがいきなり尋ねてくる。
「タシロ、三木さんどうよ?」
とっさのことだったもので、私は何のひねりも遠慮もなく、
素直に答えてしまった。
「もっと静かで、怖い方だと思ってました。
でも、実際お話伺ってたら、柔らかい人だなぁって」
すると、高須さんは笑ってビールを傾けて、
「いやいや、なんのなんの。怖いんやから。怖い人にとっては、きっと」
と言う。
「おいおい」と、慌てて三木さんが苦笑った。

高須

いやー、怖いよ。だって、よくキレるもん(笑)。

三木

嫌われてる人には思いっきり嫌われてるからなぁ、俺は(笑)。
会って何分もしないうちに、会議室でボールペンを顔面に
投げつけられたヤツとかいるもん。
会議に遅刻してきたプロデューサーが、考えてる俺らに向かって
「ダメだなぁ、もっとユニークなこと考えたら?」
とか言ったりするもんだから、
「バカヤロウ! それを今、こっちは一生懸命やってたんだ!!」って
怒鳴ったりとか(笑)。

高須

三木さん、すぐやもんね。すぐにドンっと、火がつくのよ。
でもそれも、仕事を真剣にやってるからこその判断やからね。
むやみやたらに、ってわけじゃないから。

三木

どーかなぁぁぁ(笑)。

高須

結果、やさしい人なんよ。

三木

うーん、ただおもしろいことをおもしろいって思ってるだけなんだよ。
何にも偉そうなことなんて無いんだよ。

三木

それにしてもやっぱり「一万円ライブ」は、
時代が動く感じがした、なぁ……。

高須

あれっきり三木さんとはダウンタウンの現場で、
一緒に仕事を出来るチャンスがなかなか来ないけどねぇ。

三木

肉体的、年代的にも誰もが充実してて、本当に凄かったもんね。
俺はラジカルの舞台を初めて見た時に、笑いとかってそんなに
詳しくはなかったけど、なんか時代が動く感じはするな、と思って見てたのよ。
それで、その後にそれを感じたのは、客席であの「寸止め海峡」を見てた時。
自分が関わってて言うのもなんだけど、
ああ、時代が動くな、って感じがあったんだよね、実感として。
それは、客席に高田文夫さんとかもう一つ向こうの世代の笑いを
作り上げてきた人達が客席に見に来てたりとかしたっていう状況も含めてなんだけど。
それにしたって、おもしろかったもんねぇ。
当時、松本人志自身が人気って意味でも頂点だったから、
ただ出てくるだけでもいい、という点で、
大分核心が見えにくくなってた部分はあったけど、
それにしてもあのくだらなさは、本当にくだらなかったもの(笑)。

高須

三木さんが担当した「ランジェリーやくざの男」。
俺はねー、アレが一番好きなのよ。

三木

あれはでも、ほとんど出演のメンバーが仕上げていったコントだよ。

高須

いや、そうは言うけど、でも三木さんから発信されてる
セリフ回しや、ギャグの構築のさせ方が、絶対大切なんやって。
確実にそこにあるもの、三木聡の何かが。
……ああ、楽しかったなぁ……。

三木

幸せだったよね。あの場と、あの瞬間に立ち会えたことは。

高須

そう、幸せだった。ラッキーだったと思う。
松本自身もさることながら、やっぱり脇の連中も巧かったと思う。

三木

「ランジェリーやくざ」だって、もう立ち方さえもおかしいんだもん(笑)。
微妙なんだけど、あの格好でもってどう舞台に立っているか、
というのはあるはずで、それだけでそのコントが低俗になっていくかどうかを
決めちゃうんだと思う。そういう意味で、あの板尾と東野の立ち方と、
下着つけて出てくる時の出方は忘れられない。
悠然としてるっていうか……下着をつけてるっていう非日常性に対して、
それをものすごく日常的へと昇華させてるんだよ。

高須

だって…ランジェリーやくざ、て(笑)。
有り得ないのに(笑)。
しばらくの時間、それが当たり前のように
観て、聴いてしまっとるからね、客席は。
だけど、あんなにキチガイみたいな設定からはじまって、
それを更に超えるようなキチガイじみたことって無いのかな、
という松本の発想から始まったのがあのコントで、
結果、下着なんてことは普通のことになってしまってたもんね。
……ビデオ収録の日が、一番良かったなぁ。おもしろかったもんなぁ。
同じもん、何回かやっても、やっぱり一番良い日ってのがあるんだよねぇ。

三木

それはそう。たった一回だよ、どんな繰り返しでも。

高須

俺はあの時やっと、三木さんが舞台公演やってる時に
「これがパーフェクトじゃない」って言ってたことの意味が分かった。
自分は客として一回しか見ないから「充分おもしろかったやん」とか言うてたけど、
やってる側には満足するたった一回って言うのが、やっぱりあるんだと。

三木

それは結局、欲なんだけどねぇ。
一番良いテンションで一回やると、それを役者はなぞるし。
まして、人数多くなればなるほど一致するのは難しくなるしね。

高須

俺が担当した「柳田」なんか、結構ずるずるっと行く
パターンのコントやから、一回噛み合わなかったら
結構長くなっちゃう。お互いのセリフは決まっているけど
ちょっとしたセリフの強弱や、客との笑いの間で、
どんどんズレてきてピークまで持っていくのに時間がかかるんだけど……。
でも、その日はもう、ベストだった。
ここで!! と思ったところで客の笑いがどーん、と来て、
流れが凄く気持ちよかったんよ。描いたとおりっていうか。
たった一回っていうのは、凄いことなんやなぁって思った。

第9話へつづく

放送作家

三木聡 さん

神奈川県横浜市出身の放送作家・映画監督。
他にもヘビナ演術協会やシティボーイズライブ等の脚本・演出。

テレビドラマ
・世にも奇妙な物語第3シリーズ「顔」(1992年、フジテレビ)脚本
・留萌交番日記'95春(1995年、北海道テレビ)脚本
・優香座シネマ「お湯は意外とすぐに沸く」(2002年、テレビ朝日)脚本・演出
・演技者。「いい感じに電気が消える家」(2003年、フジテレビ)脚本・演出
・68FILMS東京少女#6「臭いものには蓋の日」(2004年、BS-i・BSフジ)脚本・演出
・時効警察(2006年、テレビ朝日)脚本・演出
・帰ってきた時効警察(2007年、テレビ朝日)脚本・演出
・週刊真木よう子「チー子とカモメ」(2008年、テレビ東京)脚本・演出
・トンスラ第1話(2008年、日本テレビ)脚本・演出
・熱海の捜査官(2010年、テレビ朝日)脚本・演出
・変身インタビュアーの憂鬱(2013年、TBS)

映画
・シティボーイズライブ短編映画「まぬけの殻」(2000年)監督・脚本
・イン・ザ・プール(2005年)監督・脚本
・亀は意外と速く泳ぐ(2005年)監督・脚本
・ダメジン(2006年)監督・企画・脚本※撮影は2002年
・図鑑に載ってない虫(2007年)監督・原作・脚本
・転々(2007年)監督・脚本
・インスタント沼(2009年)監督・脚本
・俺俺(2013年)監督・脚本

舞台演出
・シティボーイズライブ「さまよえるオランダ人」(1989年)
・シティボーイズライブ「サイパン」(1989年)
・シティボーイズライブ「ワニの民」(1990年)
・シティボーイズライブ「14Cの記憶」(1991年)
・シティボーイズライブ「鍵のないトイレ」(1992年)
・シティボーイズライブ「愚者の代弁者、西へ」(1993年)
・シティボーイズライブ「ゴム脳市場」(1994年)
・シティボーイズライブ「愚者の代弁者、うっかり東へ」(1995年)
・シティボーイズライブ「丈夫な足場」(1996年)
・シティボーイズライブ「NOTFOUND 見つかりませんでした」(1997年)
・シティボーイズライブ「真空報告官(P)」(1998年)
・シティボーイズライブ「真空報告官大運動会」(1998年) 渋谷公会堂
・シティボーイズライブ「夏への無意識」(1999年)
・シティボーイズライブ「ウルトラシオシオハイミナール」(2000年)
インターネットドラマ
・インターネットドラマ「φ」(2002年)脚本・演出
・グンゼ「ベランダ」(2008年)脚本・演出

これまで担当した番組
・夕やけニャンニャン(フジテレビ)
・世界で一番くだらない番組(フジテレビ)
・タモリ倶楽部(テレビ朝日)
・ダウンタウンのごっつええ感じ(フジテレビ)
・笑う犬シリーズ(フジテレビ)
・TV'sHIGH(フジテレビ)
・北半球で一番くだらない番組(フジテレビ)
・トリビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜(フジテレビ)ブレーン担当
・ヨルタモリ(フジテレビ)

著書
・『インスタント沼』角川書店(2009年4月25日、ISBN978-4048739429) 装画 逆柱いみり
・三木聡ほか著『帰ってきた時効警察』角川書店(2007年6月ISBN978-4048737821)-第2シリーズのノベライズ。
・『帰ってきた時効警察オフィシャル本』太田出版(2007年6月9日、ISBN978-4778310677)
・『図鑑に載ってない虫『』幻冬舎(2007年4月、ISBN978-4344013179)

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