御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×山名宏和」 第9話

松尾貴史さんらとの出会いを通じて、放送作家としての幅を広げていった山名さん。テレビのことを深く考えつつ、二番バッターとしての存在感や、逆に作家が持つブランド力についての話で盛り上がりました。そして当時のテレビやメディアを取り巻く社会的な環境がいかに「やってはならないこと」をやっていたか…「恋空」などの具体的な例を出しつつ、真正面からテレビはどうあるべきか、作家はどうあるべきかを語らいました。

インタビュー

第8話

2008.11

高須光聖がキク「高須光聖×山名宏和」

テレビはなぜおとなしくなったのか?

山名

でも、テレビの話は難しいですよね。
「最近のテレビはつまらなくなった」ことをどう思うかってよく聞かれるんですけど、
じゃあ、そういう質問をした人が望むような、かつてあったようなバラエティを
作ったら作ったで、今度はそういうのを嫌がる人もいるわけじゃないですか。
視聴率が悪いみたいな物言いもあるけど、
やっぱりテレビって芸術品じゃなくて製品や商品だと思っているところがあるから、
お客さんが求めていないものを並べてもしょうがないと思うんですよ。どんないい
製品だって作り手が言っても、誰も買う人がいなければ、それがゴミですから。
だからといって、お客さんに媚びすぎると、あっさり見透かされるし、
その按配が難しいですよね、今のテレビは。

高須

昔は各業界にカリスマと呼ばれる人達が沢山いたじゃない。
なのにエンターテイメントという枠組みの中ですら
カリスマが生きられない土壌になってしまってることに
問題があるような気がするわけ。
芸人って普通の人が考えないようなバカなことをしたり、
喋ったりして拍手とお金を貰っていたはずなのに、
最近はお行儀いい芸人しか画面の中で生きられない。
まぁそれはアーティストもそうやろね。
ライブでパフォーマンスするにも無茶な事出来へんようになってくるし、
役者にしても昔の勝新太郎さんみたいな人は今の世間では生きていけない。
それは映画監督もテレビのディレクターも放送作家もみんな、
なんとなくそうなってるんじゃない。

山名

どっちなんですかね。
昔はそういう人たちを支持する層があった訳じゃないですか。
今は支持する層がなくなったからそういう人たちがいなくなったのか。

高須

いや、だからさっきのおっぱいと一緒で。
おっぱい出してビビらない世の中だったのよ。
だからテレビに期待もしてないし、テレビ過剰な品格も求めてなかった。
テレビって何かを表現する単なる新しいツールだったから、
こんなんもあんなんもまるごとひっくるめて放送されていたわけだから、
もちろんダメものも良いものも一緒くたになってわけじゃない。
ところがある時変わってきたわけ。
世の中が少子化になってきて子供がひとりの時代になった途端、
視聴者の目線がいきなり厳しくなってきた。
大切な子供に悪影響があるような番組は少しも観せたくないと思うわけじゃない。
働いてお金稼ぐって事よりも子供のためにそういうのなくすって事に
時間を費やす人が増えてきたって事やん。
しょうがない事やで。おっぱいが許されへん感覚になってる訳やから。
でも昔はおっぱい許していた人たちやから、たぶん無茶なカリスマを観ても
なんとも思わなかった訳やん。
だからやっぱり観ている人たちが変わってきた気がすんのよね。

山名

そうですね。でも、おっぱいを許さない人たちだって、
自分たちが子どもの頃は普通に観ていた訳じゃないですか。
それを自分たちには封印していくっていうのは不思議ですよね。

高須

不思議やねん。
子供の頃、野球拳がゴールデンで放送されてたからね。
おっぱい出すかもしれなくて、みんなウェーイ!!って喜んで
あんな半狂乱みたいな、飲み屋の最後のほうみたいな。

山名

ひどいもんですよね(笑)

高須

ほとんど酔っ払いがやっているような事を、しかも公共のテレビで
カワイイと言われるタレントや女優さんが踊りながらじゃんけんしてたらかね。
なんとその司会が、日本の良心とまで言われていた欽ちゃんだったんだから。
今だったらあんな事やっているテレビ局なんて信じられへんみたいなね。

山名

まぁ、なりますね。

高須

その理由は何かって言われたらわからんけどね。
でも少子化とういうものもその一端を担ってる気がするのよね。

山名

うちは基本的には、子どもは何を観ても一応オッケーなんですよ。
まあ、食事の時は観ないけど。
それもテレビが点いていると僕が観たくなるからで。
基本的にはオッケーなんですけど、ただひとつだけ言っているのは
「観る時はちゃんと観ろ」「なにかしながら観るだったら消せ」
BGVにするんじゃなくて、ちゃんとテレビの前に座って観るんだったら
なにを観てもいいって。
少なくとも、自分では小学生の子どもが観たらマズいと思うような
ものは作っていないし、例えば、いじめを増長するって
非難される罰ゲームだって、そこにいたるまでのルールや流れがあるわけで、
むやみやたらにやっているわけじゃないってことは
ちゃんと観ていればわかるんだけど、表面だけチラッと観るから
罰ゲーム=悪いことって思われちゃうんですよ。
子どもと罰ゲームの話もするけど、罰ゲームをやっている姿が
おもしろく見えるのは、芸人さんだから、普通の人が同じことをやっても笑えない。
あれはあれで芸、だから見世物になっているんだみたいな説明をしますね。
どこまで理解しているかわからないけど。
テレビのことを無闇に悪く言う親とかいるけど、そうやって文句言う親に限って、
テレビはちゃんと見てないと思うんですよ。

高須

俺それだったらね、本当に腹が立つんだけどTBSでやった映画の
「恋空」とか大っ嫌いでね、あれは最低やで。
もうビックリしたのよ。
これが何百万人って人が入って観ていると思うと、がっかりだね。

山名

僕、見てないんですよ、「恋空」は。

高須

観て。逆に観て。山名もう発狂すると思うで。
日テレの土屋さんと意気投合したんだけど、
あんなもん観て誰も文句言わないなんて日本はもうダメだって嘆いてた。
いや本当にその通りなのよ。
テレビで色々やっているけど、あんなクソみたいなものを
親が文句言わなくて、子供が観に行って、
良かったって涙している事がもう信じられないと。内容は知ってる?

山名

内容は知ってますよ。

高須

恋愛におちて、そのあとレイプされてしまって、子供ができて
子供おろされてしまって、そのあとガンになって、で死ぬ前ウーって
別れ際泣いて、単なる不幸の羅列だけやねん。

山名

もうあらすじを聞くだけで腹立ちますね(笑)

高須

人間が生きる上で、本当に必要なことがなにも入っていない映画やね。
松本(ダウンタウン)がその昔「中途半端な優しさが一番の悪」って言っていたけど
まさにそれで。
すべてが薄っぺらで、ただただ不愉快になるだけやね。
あれが良くて、バラエティーでちょっとばかし御菓子を投げたからって、
いちいち文句を言ってくるバカ親の神経が分からへん。
何が良く何がダメか本質をわかっていなのよ。

山名

あらすじとかを見ただけで、これはダメだなって思ったけど(笑)
まぁ、そのダメを体験するために観てみます。
でも、大ヒット映画なんですよね。

高須

大ヒット映画。

山名

それを支持する人たちがテレビのお客さんだったりする訳じゃないですか。
T層とかF1とか。
そういう人たちには何を投げたらいいのかわからなくなりますよね。

高須

いやほんまに悲しくなるで。

山名

罰ゲームとかお菓子を投げるとか、そういうのは非難しやすいんですよね、
わかりやすいから。
でも、それ以外にも、テレビって、よく見るといろいろなところに「え!?」
ってことが起きてるんですよ、みんな、あんまり非難しないけど。
たとえば、感動とかドキュメンタリー名のもとに、
「それアリなの!?」みたいなことが、よくあるし。
僕、難病モノって、本当にダメなんですよ。

高須

俺も苦手やわ。
俺24時間テレビって少し見てすぐチャンネル変えてしまうねん。
なんでそれをせなアカンの?って思ってまうのよね。
例えばハンディのある人を版組が探してきて
「この人の夢を叶えてあげたい」とかやるやんか。
でもその人の夢と普通に生きている人の夢と同じなんよね。
でもなんかハンディを持っている人を
あそこまでヒーローに仕立て上げてたいのか訳が分からない。
なんとなく感動の押し売りに見えてしまうっていうかねぇ…。

山名

TBSで春先にやった番組で、最後にハンディキャップのある子どもが出てきて
その子の夢は何か?って当てるクイズ番組があったの、知ってます?

高須

え゛ぇー!?なんなのそれ!?

山名

それまでは普通に常識クイズとかやっていたのに、
最後だけ、20分くらいの長いVTRでドキュメンタリーみたいになっていて、
みんな、ワイプの中でボロボロ泣いて、スタジオにおりてその子の夢を答えて、
全員正解―!みたいになって、
その後、スタジオビミョーな空気のまま終わる、そんな番組でした。

高須

へぇ~。

山名

さっき言った自分がやりたい番組の反対で、
絶対にやらない番組っていうのがあって、ひとつが人の生き死にを扱う番組。
もちろん、中には必要があってやっているものもあるし、
ちゃんと真摯に向き合っているものから、
そういう番組を全面否定するわけじゃないけど、なんていうか・・・

高須

下品に死を使うっていうね。

山名

そう、そんなふうに人の生き死にを扱う番組はやりたくない。
ハンディキャップのある人を都合よく使う番組とかも。
僕、基本的にオファーが来た番組は断らないんですけど
そういう番組が来たら断りますね。

高須

俺も断るなー、そんなの。

山名

そんなのをオフラインして
「こうした方がいいんじゃないのー」とか言ってるのが、もう嫌だし。

高須

まずナレーションつけられないはずやんそこに。
ナレーションで一体何が言えるだろうね?

山名

そうですねー。
だってそういう不幸な人を選別するんですよ、まず。
その段階でダメですね。

高須

わかるわー。
でもあれを跨げる人おんねんな。平気でな。
そんなん俺考えられへん。

山名

麻痺しちゃうんですよ、多分。
そういう感覚が麻痺するようにはなりたくないですね、絶対に。

第9話へつづく

放送作家

山名宏和 さん

1967年東京都生まれ。
古舘プロジェクト所属。
現在担当中の主な番組は、『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『この差って何ですか?』『たけしの健康エンターテイメント!みんなの家庭の医学』『ガイアの夜明け』『TheCovers』など。完全なる雑食系放送作家

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