松尾貴史さんらとの出会いを通じて、放送作家としての幅を広げていった山名さん。テレビのことを深く考えつつ、二番バッターとしての存在感や、逆に作家が持つブランド力についての話で盛り上がりました。そして当時のテレビやメディアを取り巻く社会的な環境がいかに「やってはならないこと」をやっていたか…「恋空」などの具体的な例を出しつつ、真正面からテレビはどうあるべきか、作家はどうあるべきかを語らいました。
インタビュー
第9話
2008.11企画書のない番組
高須
放送作家として、今後どういう事を。
山名
僕のテレビの原点って、「ムー一族」なんですよ。
設定は老舗の足袋屋なんだけど、伊東四朗がいて渡辺美佐子がいて、
郷ひろみがいて、樹木希林と岸本加世子がいて、
伴淳三郎や由利徹がいて、細川俊之とたこ八郎がいて、
近田春夫まで出てくる。
つまり、超人気アイドルも出ていれば、俳優も出ているし、
古い喜劇人も出ていれば、当時、かなり先端だったミュージシャンも出ている。
もう、いろいろな階層のものぐちゃっと入って混沌としているものっていうのが
自分の原点なので。
それがバラエティかドラマなのかはわからないんですけど、
そういうものは作りたいですね。
前に高須さんと一緒にやらせてもらった「アフリカのツメ」とかは
それに近かったですけど。
でも、ああいう番組って、どんな企画書を書いたらいいのか
さっぱりわからないんですよ。
だから、今後やりたいのは、企画書を書かずに作れる番組(笑)
高須
枠あげるから作っていいよって事ね。
山名
この前の、都築(浩)さんに声をかけてもらった南明奈のやつは
「企画書を書いたら絶対に通らない番組」っていうのがテーマで、
まあ、時間もなかったんで、たいしたことはできなかったんですけど。
でも、台本を書いちゃって、こういう感じっていうのを監督に話して、
とりあえず自分の頭の中の完成図に近づくよう作っていくというのは、
夢のような環境でしたね。
どうしても今のテレビはわかりやすいものが求められているから、
いろいろな要素が入り混じった混沌した番組って、
今の世の中に求められているかっていうと、決して求められていないと思うんですよ。
だから、求められる時代が来るのを待つのか、あるいは
自分でやってって「こういうものもあるんですよ」って提示していくしか
ないって思うんだけど。
混沌としているものっておもしろいと思うんですけどね。
今は一言で言えるのがいい企画とされているけど、昔のテレビには、
特に深夜には一言で言えない番組がいっぱいあったじゃないですか。
高須
あれなんなんだろうね。
でもそうじゃないと出来ないんだろうな・・・。
山名
やっぱりカリスマがいないとダメなんですかねえ。
「元気が出るテレビ」だってそうじゃないですか。
あれ一言じゃ言えない番組だった。あれも
テリーさんたけしさんっていう彼らの頭の中にしかないもの。
やっぱ頭の中にあるものって全部紙には書けないので、
作ってみないとって思うんですけどね。
あと最近ドキュメンタリーとかも面白いなって。
ちゃんと時間をかけて追いかけたものを、一緒に構成していくっていうのは
面白いと思いますけどね。
高須
何か追ってみたいものとかあるの?
山名
追ってみたいもの・・・自然ものとかやりたいんですよね。
ネイチャーものとかやりたいもん。一緒にロケハンとか行きたいですからね。
高須
へぇーー。ネイチャーものなんか俺の中にはなんにもないわ。
すごいねぇ。
山名
楽しそうじゃないですか。科学番組とか。
高須
ほらな、俺の中じゃ科学番組なんかこれっぽっちもないし。
山名
僕、科学番組の資料とか読むの全然苦じゃないんですよ。
ああいうの読むと、世の中には知らない事がいっぱいある訳だから、
それを伝えたいっていうのはありますね。そういうのやりたいですね。
あと最近そういう番組に、いいナレーションを書きたいんですよ。
あんまりナレーション得意じゃないんだけど、ある程度、時間をもらって、
ちゃんと言葉を選んで、ナレーションをつけるみたいな仕事はしたいですよね。
ラジオを通じで会いたい人に
山名
あと、ラジオの仕事は相変わらず楽しいですね。
高須
ラジオやってるの?
山名
やってますよ。
前に高須さんにもゲストに来てもらったじゃないですか。
高須
すごいなあれ~。いろんな人出てるんちゃう?
山名
最近、放送作家の人によく来てもらっているんですよ。
それこそ御影湯に出ている人たちもたくさん来ていますよ。
あの番組は、僕が会いたい人をリクエストすれば呼べるし、
僕が聞き手もやれるし。
高須
なるほどね~。それは楽しそうやな~。
山名
仕事で楽しかったことをあげるとすると、
その番組でいろいろな人に会えてるっていうのもあります。
好きな作家、たとえば小松左京さんとか筒井康隆さんとかも呼んだりして。
中学生の頃から、SF小説が大好きだったから、まさに夢のような出来事でした。
でも、筒井康隆さんを呼んだ時は、緊張しすぎて、聞き手ができなくて、
かろうじて挨拶した程度。
その後、深夜の特番で芸能人に小説を書かせるって番組で
審査委員長をやってもらったんですけど、
その時は自宅に打ち合わせに行って、ようやく少し話すことができました。
小松左京さんは
「うちの小松は人見知りなんで一回打ち合わせに来てくれ」って言われて、
事務所に打ち合わせに行って一時間くらい話して、そろそろ帰ろうと思ったら、
「君たち、ビールぐらい飲むか」ってそこから4時間くらい酒盛り。
飲んでいるうちに「君は僕の作品では何が一番好きか?」
って聞かれて。
厳しい質問ですよ、本人から言われるの(笑)
で、アワアワ言いながら答えたりして。
それがこの1、2年ではかなり楽しかったですね。
高須
それは楽しいわ~。
山名
放送作家をやっていて、仕事始める前に自分が影響受けた人や
憧れていた人に会えたりとか、ただ会うだけじゃなくて
一緒に仕事出来たりするのがこの仕事を続けているひとつの原動力ですね。
竹中直人さんとか、YM Oの人たちとか。
しかも、ただ会うだけじゃなくて、自分の書いたコントを演じてもらったりして。
そういう収録の時は必ずスタジオに行くんですけど、話をしたくて。
でも、実際はほとんど話できないんですよ。
高須
話せばええやん、別に~。
山名
いや~・・・。
誰かがちゃんと紹介してくれればいいんですけど、なかなか自分からは。
でも、最近は以前よりはなるべく話すようにしてるし、
サインもらったりもしますけど。今度は誰に会いたいかなあ。
そんなことを日々の糧にしてます。
高須
まぁまぁそんなようなことをだらだらと聞いてきましたが。
山名
やっぱり自分の事はわからないもんですね。
高須
いや、俺は聞いてて面白いのよ。
生い立ちがなんかその人を形成しているし、
テレビ作りのポリシーはなんかみんなあんのよね。
「そんなん僕ないですよー面白い話なんかないですよー」って言いながら
なんかあんのよね。
山名
それはなんかが最初からあったのか、なんかが出来てきたのか・・・。
でも、思いますよ、放送作家はなるのは簡単だけど、
続けていくのは難しい商売だなと。
高須
続けるのはー・・・大変だねぇ。
山名
字書けて締め切りが守れればとりあえずなることはできますからね。
でも、続けるのは・・・。
実は続いている人ってみんなマジメですよね。
高須
マジメだよー。俺、秋元さんのラジオで秋元さんに
「高須くんあれでしょー。もう会議とか出ないでしょー。
荷物ファッと置いて出てっちゃうでしょー」とか言われて
「秋元さん、時代が違いますよ!」って俺言って
「えっ、うそー」って
「たぶん秋元さんの時代までですよ。僕らの時代は会議全員出てますよー」って
そしたら「えぇーー!!」って。
あの人が出ていってもオッケーな放送作家の最後の人ですよ。
みんなマジメですよ。
山名
会議の時間も早いですよ。平気で朝10時とかありますもん。
高須
早いよー。昔なんかなかったもん。
山名
あと、みんなテレビの事を一生懸命考えていますよ。
どうすれば良くなるかとか、現状に悩んだりとか。
だって作家集まると大概テレビの話してますもん。
高須
色んなもろもろの話していても、最終的にはテレビの話になるからね。
山名
大抵2軒目くらいには(笑)
高須
してるしてる(笑)
おわり
放送作家
山名宏和 さん
1967年東京都生まれ。
古舘プロジェクト所属。
現在担当中の主な番組は、『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『この差って何ですか?』『たけしの健康エンターテイメント!みんなの家庭の医学』『ガイアの夜明け』『TheCovers』など。完全なる雑食系放送作家