御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×土屋敏男」 第5話

『電波少年』を大ヒットさせた後、日本テレビの編成部長に就かれた当時の土屋敏男さんと、高須さんとのガチトーク。テレビを愛してやまない男たちが、テレビがヤバい!死にそうだ!と焦りだしたリアルタイムの緊迫感が詰まった対談です。それはまるでかつて輝いていた愛する人が歳を取り、変わり果て、弱っていくのをそばで見るような絶望。作家として、編成部長として、なによりテレビマンとして何ができるのかを探り、語り合う姿は、まさしくドキュメンタリーでした。
編集/サガコ

インタビュー

第4話

2003.01

放送作家とは

■放送作家とは…■

高須

こないだ作家のそーたにくん、中野くんと三人で飲んだんですよ。朝の五時までですよ!
テレビがいったいどうなるかって話を一生懸命しゃべってたんですよ。
それはすごい勢いでしゃべっていて、店の人から「すいません、もう閉めますので」って
三回くらい言われてました。それくらい夢中で喋ってたんですよ。
だけど……わからなかったんですよね~。ちょっと出たキーワードが「ボランティア」でしたね。

土屋

ほう、ボランティア。

高須

そーたにくんが、ユニセフに寄付をしてるそうなんです。

土屋

うん、俺もそれはしてる。

高須

そういう精神って、なんか心地よいでしょう。
いいことやってるな、ていうあったかい気持ちになれる。
若い頃ってそういうのは恥ずかしかったり、偽善に見えたりしてたじゃないですか。
だけど、この歳になってきたら、そういうのも心地いいと思えてきたぞ、と。

土屋

歳とったかね?(笑)

高須

まだ若いつもりでも、なんか無意識の心地よさで歳くってきてますよね。やばいなぁ~。
でもね、みんなで誰かを幸せにするテレビって、あんまりないじゃないですか。
たとえば、同じプロ野球選手でも、イチローや松井みたいに脚光を浴びない
ほとんど無名な二軍選手も、各チームには何人もいるわけですよ。
若くして引退を余儀なくされ、新聞も雑誌も扱わない、名もなき選手が
ひっそり引退する日に、テレビを見ている視聴者から10円を寄付してもらい、
集まったお金で、スター選手に負けないイベントをしてあげるとか、
そういうの悪くないと思うんですけどね。

土屋

悪くないと思うんならやればいい。
どこかの局で「そうだ、そうだ」って奴を見つけりゃいいのよ。
その思う力「今テレビにない何か」を強く思う力が今必要だと思うよね。

■作家性とこころざし■

土屋

なんていうんだろう……作家性って言うのかなぁ。
テレビっていうのは「作品」ではないじゃない?
商業放送なんだから、作品だなんてふざけるんじゃない! っていうのも絶対あるよね。
だけども、俺は「作品」であることも、絶対重要だと思うんだ。

高須

そうですね、必要だと思いますよ。

土屋

つくったものを「作品」と呼ぶのなら、それは「作家」ってことになる。
作った人は「作家」と呼ばれてふさわしいわけ。
作家性があるのだとすれば、その作品を見る人々には
その作品を理解する能力が求められることになる。
そういうレベルのやり取りをどこかでやらないと、いけないと思うんだ。
最近よく言うのは「視聴率」と「志(こころざし)」っていう縦糸と横糸があって、
これを両方とも成立させてはじめてプロだよ、と。

高須

ふむ。

土屋

たまたま俺は『電波少年』という番組で、偶然にもそれがうまくいった。
ところがそれは……そうはうまくいかんものなのよ……(笑)

高須

そりゃあね、そりゃあそうですよ~。

土屋

うまくいかない。うまくいかないんだけど、でも!
それでも誰かが「視聴率と志、ちゃんと両立させようぜ!できるはずだぜ!」って
誰かが言っていかないとだめだと思うんだ。
じゃないと、もっとだめになっていくだけだと思うんだわ。

高須

いや、それはそうですよ、絶対に!

土屋

だから俺は、実際には2割3分のバッターを選んで
バッターボックスに送り込んでしまうかもしれないけれど、
1割2分のバッターなんだけど当たれば必ず場外だ!みたいなバッターに
小さな声でもいいから「俺はお前のことが好きだよっ」ってさぁ(笑)
言っていたいわけだよ、俺は! 会社の中ではでかい声では言えないけどね。

高須

なに言ってるんだ、君! って注意されてしまいますよね。危なっかしくて仕方ない。

土屋

お前の仕事は違うだろ?(笑) お前の仕事は「負けないこと」だぞ?って。

高須

あの、土屋さん、いいんですか? 対談とはいえ、そんなこと言っちゃって。

土屋

うん、だいじょうぶだいじょうぶ。たぶん、えらい人は寝てる寝てる(笑)。
この対談読まれちゃうと、ちょっとまずいけど(苦笑)。

高須

あははは!

土屋

作家性と志ってさ、難しいんだよ。
「視聴者の皆さんはこんなものがご覧になりたいですよね?」っていう、
そういうのが今の姿勢。負けない姿勢。だけど、そういうことじゃなく、
「俺はこれがおもしろいと思う! で、どう?」っていうのをね、忘れてはいけないんだよ!!

高須

そうですよね。テレビマン全員がそう思えたらいいんですよ、きっと。

土屋

いや、たかすちゃん、それダメ(笑)。
全員思い切っちゃったら、それはそれで困ることになる。

高須

そっかぁ……そりゃそうかもしれませんけど、でも、土屋さんが今声を大きくして言ったことを
少しずつでも思ってやっていかなくちゃ、テレビはマジでやばいです。
業界に入った頃は、誰もが希望を胸に抱いていたはずですよね。
「俺はこんなことやらかしてーやるぞぉっ」って思ってたはず。
僕は『ごっつえぇ感じ』をはじめる時に、
「『元気が出るテレビ』よりもおもしろいもの作ったるぞぉっ!」って
ほんとにバカみたいに思ってやってましたからね。今こそ、
「高須がなんだ!? 土屋がなんだ!? 俺がもっとおもしろいものつくってやるぞ!!」って
思ってる奴等が、がっっ!! と出てきてほしい。
そして、僕らもまた、同じような魂を持ち続けているべきなのに。
ほんのすこし、どこか削がれてしまってますよね。
さっき土屋さんが言った「作家性と志」に戻りますが、
クリエイターであることとプロであることは同じようでまったく違う。
今、僕らは年齢的にも「テレビのプロ」として扱われていて、
そうやって経験積んできたわけなんだから、今更「クリエイター」だなんていいだして、
好き勝手やってもらっちゃ困るんだよ……ってのも感じる。

土屋

うんうん。

高須

だけど、そういったテレピのプロっていう部分を取り払おうとして、
「放送作家」と呼ばれることの「作家」って言葉にすがって、
もっと意味を見出そうとすると、どんどんどんどん動けなくなっていく。
だって、そんな自分をいまさら求められてないってのが、必ずわかるんですから。
だけど、そんな自分ではいたくない。なんとかしたい。
こんな自分をいったいどこへ据え置くのか……。それを僕は今すごく、迷っているんです。

■放送作家という女達■

土屋

こないだこのコーナーで、そーたにと喋っていて、その後に更に、
海老克哉、そーたに、俺の三人で飲みにいった。
すると「放送作家とは一体なんだ?」という話になったんだよ。
海老の考え方はこうだ。「ディレクターの正妻になりたい」。

高須

正妻……正しい妻、ですか。

土屋

そう。ひとつの番組があって、ひとりのディレクターがいる。
そのディレクターは旦那であって、放送作家は妻となり、同じひとつの志を持って
「私たちは一つの信念を持って、こんな番組、こんな家庭を築き上げました。どうぞご覧ください」
彼は放送作家として番組と、ディレクターと添い遂げたい、と。

高須

なるほど。

土屋

この家はねっ、私と旦那が一生懸命愛して作り上げた家なのよ!! って
胸を張って生きたい。それが彼の中の放送作家。
けれども、そーたにはちがう。

高須

ほう。

土屋

そーたには「放送作家は、立○んぼである」と。

高須

うわぁ!! それ、放送していいんですかっ!?

土屋

ああ、言葉悪かった(笑)。つまり、娼婦であると。
新大久保の街に立っていて、お金出されたら誰とでも寝て、誰にだって股を開く。
そーたには、放送作家とはそういうものである、と。

高須

なるほどなぁ~。

土屋

そうでなければ、十数本も番組抱えられないよって言うんだ。

高須

まあ、そうですね。番組によってディレクターそれぞれ違うわけですからね。

土屋

そーたには「俺は正妻になんてならないし、ならなくていい」。
まあ、この2人は極端な言い方してるけどさ。
そーたには出雲の阿国じゃないけれど、河原で踊れといわれれば踊りますよ、と。

高須

あー…それでいうと僕は……「正妻の立場を守りつつ、浮気してる」んでしょうねぇ(笑)。

土屋

うはははは!

高須

一番最低なパターンですよ。
正妻としてつつましやかーにしておきながら、昼間、旦那の目の届かないところで
ばんばん浮気しまくってるわけですよ。僕って、そういうタイプだなぁ~。
んで、旦那に問い詰められても「浮気なんてしてないっっ」っていっちゃうんですよ。
ところが、昼間はちょこちょこヘルスのパートに行っちゃってるっていう(笑)。

土屋

最悪じゃないのー。

高須

だけど、それもこれもですね、言ってみたら家計を守るため、なわけです。
大義名分ですけどね。

土屋

だけど、タイプってやっぱりあるんだろうね、そういう風にさ。

高須

ありますよ、絶対ありますよ。

土屋

添い遂げたい海老と、家庭に入るなんてごめんだわっていうそーたに…。
おもしろいよねぇ、この両極(笑)

高須

そして俺みたいにうまくやろうとするタイプ…。
どれも扱いにくい部分は持ってるでしょうけど、
あとは好みだったりするのかもしれませんねぇ、旦那さんの(笑)

土屋

それはそうかもしれない。

高須

あとは、時代が彼女たち(作家たち)の存在のしかたと沿うか沿わないか。

土屋

だねぇ。

■放送作家なんていらない!?■

高須

僕ね、本当は放送作家なんていらないと思うんです。
だってこうやって考えていけばいくほど、ありえない職業でしょ!?
演者と技術とディレクターがいれば、本来は他にいらないじゃないですか。

土屋

本来はね、そうだね。

高須

何を勝手に居場所作ってるの? っていう話ですよ、ほんまに(笑)。
さも「必要なのよっ」みたいな顔をしているけれども、
ほんまはそこに居場所なんて何もないんっすよね(笑)。

土屋

あっははははっ! そう言われると、それを雇ってる立場としては、なんともなぁ。
俺、今『放送作家トキワ荘』ってやってるでしょう。
来週最終回なんだけど、俺はこの番組で「放送作家のインフレ」を起こそうとしたわけだよ。

高須

放送作家のインフレ!(笑) そんなんねぇ…そっとしといてくださいよ!!(笑)

土屋

そうなんだよ~、そっとしとけっていう業界の逆風を受けたんで、
終わっちゃうんだけどさ(笑)。
だけど、俺にとって放送作家はとても必要なんだってことは知っていて欲しい。
大切なキャッチボールの相手だと思ってる。
放送作家がいなければ、ボールを安心して投げられる相手がいないんだ。

高須

うんうん、なるほど。

土屋

今日のこの場もキャッチボールであると思うし、
自分が気持ちよくキャッチボールのできる相手を探してるっていうのかな。
いつもそんな感じだよね。で、その相手である放送作家に求めるのは
「俺だけにいいボール返してくれ!!」ってのはあるんだよね~。

高須

ああー、そうかそうか。そうですよねぇ。

土屋

二人のすごい密な関係っていうのを作り上げて、
それをみんなに見せるっていうのが、俺の理想の番組の作り方なのかもなぁ。

高須

だけど、土屋さんみたいなタイプもいれば、
ディレクターによってまた考え方ぜんぜん違ってくるから難しい。
もちろん楽しいともいえるんですけど。
僕、一番多い時期は18本やってました。でも、東京に出てきた頃は、
東京で2本くらいやれたら上出来だと思ってたんです。
所詮、作家て言うのは具現化できないんですよ。
どんな企画でも考えることはできるけど、それを実際にVTRにはできないんですよ。
ディレクターが作ってくれないと、形にならないんです。
キャッチボールの相手に僕らは考えの実現をゆだねることしかできない不自由さをもってる。
だとしたら、できる限り、投げる球種によっては、
「この球だったら、あなた。逆にこの球ならば、君に」って
頭の中に浮かんだビジョンによって、使い分けたかったりするんですよ。
いろんなディレクターと交流しておきたいと思ってしまうんです。
だから18もの相手(番組)を持った時期もあったんだと思います。

土屋

さすが……浮気し放題か……(笑)。

高須

うっ……まぁ、そうなるんですけど。
でもね、でもカラダはうってもキスだけはさせないですよ(笑)

第5話へつづく

プロデューサー

土屋敏男 さん

LIFEVIDEO株式会社 代表取締役社長 兼 日本テレビ放送網株式会社 編成局ゼネラル・プロデューサー
昭和31年9月30日静岡県静岡市生まれ(58歳)
1979年3月一橋大学社会学部卒。同年4月日本テレビ放送網入社。
主にバラエティー番組の演出・プロデューサーを担当。
「進め!電波少年」ではTプロデューサー・T部長として出演し話題になる。
このほかの演出・プロデュース番組
「天才たけしの元気が出るテレビ」
「とんねるずの生ダラ」「雷波少年」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」
「電波少年的放送局」「第2日本テレビ」「間寛平アースマラソン」
「岡本太郎『明日の神話』修復プロジェクト」「NHK×日テレ60番勝負」
など多数

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