『電波少年』を大ヒットさせた後、日本テレビの編成部長に就かれた当時の土屋敏男さんと、高須さんとのガチトーク。テレビを愛してやまない男たちが、テレビがヤバい!死にそうだ!と焦りだしたリアルタイムの緊迫感が詰まった対談です。それはまるでかつて輝いていた愛する人が歳を取り、変わり果て、弱っていくのをそばで見るような絶望。作家として、編成部長として、なによりテレビマンとして何ができるのかを探り、語り合う姿は、まさしくドキュメンタリーでした。
編集/サガコ
インタビュー
第3話
2003.01■ホントは猿岩石じゃなかった!!■
土屋
女はどうやったって剥き出しの姿を見せないっていうけど、
じゃあどうして『あいのり』は当たってるんだろう?
あれなんて、どんどん出演者が入れ替わってるわけだから、
絶対、同じ現象が起こってくるんじゃないの?
高須
ですよねぇ。僕も開始当初の頃しか見てないですからなんとも言えないですけど。
土屋
俺もじっくり見てないからなんとも言えないけど、
結果だけ言えば、数字は相変わらずいいよね。
ってことはさ…見てるヤツに見抜くチカラがないのか?(笑)
高須
ですかねぇ!(笑)
土屋
もしくはだよ、もしくはどこかでうまい仕掛けを作り手が仕掛けてるか…だよ。
ひょっとしたら題材が「恋愛」ってところで剥き出しにならざるを得ないものが
人間にはあるのかもしれないけどでも、少なくともそんな「あいのり」だって、
番組当初の頃よりはリアル感の質は落ちてると思うんだ。
高須
それは絶対そうですよ。間違いなくそれは起こってるはずなんです。
でも、生き残ってるんですよねぇ。
恋愛には、非日常的な旅が、女の防衛本能をとっぱらうという、
いい効果があるんですかねぇ…
あ、この件に関して、僕は土屋さんに聞きたいことがあったんだ。
土屋
うん、なんだろう?
高須
このリアルなドキュメンタリーバラエティー時代の走りとして、
猿岩石のヒッチハイク企画がありましたよね。
一体どうやって、あの企画に辿り着いたんですか?
あんな企画をいきなり初めてしまうのって、どれだけそれが土屋さんにとって
見えていたとしても、ものすごい勇気じゃないですか。
土屋
そうだね。
高須
あの頃にああいう企画をやるっていうのは…僕にしてみたら、
「これをやってしまったら、番組は息をひきとるぞ!?」っていう
危険性も感じると思うんですよ。
土屋
……やっぱりねぇ、番組は終わらせたくないんだけど、
俺はどうしても「びっくりさせたい」って思っちゃうんだよ。
人とテレビはこんな事が出来るんだぞ!って、視聴者にも、同じ業界のテレビマンにも、
「えーっ」と言われながら「でもアリだよな」って思われるようなことがやりたいんだよ。
ヒッチハイクをやったのは、アポなし企画を三年くらいやり続けた頃だったんだけど、
その頃はもうアポなしにも限界が見え始めてたんだ。
だけど、ちょうどスペシャルの『電波少年インターナショナル』をやった時に、
キャイーンがヒッチハイクをやったのを見て、これはおもしろいなぁと思った。
ほら、ドラマの最終回の打ち上げってさ、すごく楽しいじゃない?
「あー、終わった!」ってなもんで、みんなご機嫌で最終回を迎える。
それは終わりが○話って決まってるから。
だけど、バラエティの最終回って絶対数字が下がってきて打ち切られるから
すごーくさみしいじゃん(笑)当時、野島伸司脚本のドラマが、
最終回に30%! なんて盛り上がってた。
なんで、バラエティの最終回はそうならないんだろう? って考えた。
だから、連続ものの物語を作って、こっちも最終回を作っちゃえばいいんだ!
と思いついたんだよ。
高須
なるほど。カタルシスをもたせれば、
ヒッチハイクをするなんて誰でもよかったんですね。
土屋
だけど、企画を立てた当初は猿岩石でいいや、充分だ、なんて
全く思ってなかったんだよ~。俺はなるべく人気者でいきたかったんだよー。
高須
あはははは!(笑) あー、そうだったんですか!
土屋
あったあった! 全然あったよ、そんなの!
で、本命はだれかって言うと、TAKE2だったのよ。
高須
おお、今明かされる衝撃の真実!!(笑)
土屋
ところが、まあしょうがないことなんだけど、
事務所の方に丁重にお断りされちゃったの。
ちょうど深沢が田中美佐子と結婚したばかりだった。
高須
おーーー、そのタイミングですかぁ。
土屋
「田中美佐子が売れない芸人と結婚した」っていう
そんなニュースの書かれ方をしてた頃ね。
売れてないから、半年間のスケジュールは空いてる。
空いてるけど、もはや深沢には「田中美佐子の旦那」だからさー。
俺はいけるんだったら、田中美佐子を何度かスタジオに呼んで、
旦那が異国の地でひーひー言いながら苦しんでるのを見てもらうっていうのが、
すごく理想だったの!
高須
アリですねー、めっちゃアリですよ。
TAKE2はまだ売れてなかったですけど、
田中美佐子さんは売れてますからねーこのカードはでかいですよね。
土屋
ところが、向こうは断ったんだよ~。
でー、もう本当にしょうがなくて猿岩石になったんだよ~。
高須
本当にしょうがなく、て(笑)。
土屋
当時、彼らのコーナーって番組の中で4分の1しかなかった。
他には3つアポなし企画を必ず入れて、そのあとにヒッチハイク企画をやる…
保険打ってたんだよね、新しいスタイルで数字がガクッと下がらないように。
「アポなしのついでに、猿岩石のヒッチハイクを見る」っていう形にしてた。
一ヶ月かそこらでだめになる企画かもしれなかったからね。
そうやってたら、最初はついでに見てたはずだったのが
いつの間にかどんどんどんどん上り調子になってきて、半年後のゴールの時には、
「電波少年は、猿岩石のコーナーがおもしろい!」ってことになってたわけ。
その時に思ったんだ。
「人気者がテレビを作るんじゃなくて、テレビが人気者をつくるんだ」って。
それがやりながらわかっていったのよ。
高須
なるほどねぇ。
にしては土屋さん、最初から見えてたように言うてましたやんか(笑)。
土屋
いや、言ってたけどね(笑)。
高須
でも、やっぱり確信があったワケじゃなかったんですね~。
土屋
その点は、たかすちゃんの
「未来日記で人の心が動いてビックリしたんですよ!」っていうのとほぼ一緒だよ。
俺だってあれにはびっくりしてたんだ。
いや、もうホントに田中美佐子のおかげだった!!(笑)
高須
あっはははは!!
だけど、司会者の2人松本明子・松村邦洋も、あの番組が人気者にしたんですもんね。
開始当初は、そんなにメジャーとは言えなかったと思うし。
土屋さんにそのキャスティング聞いたとき、
「いやー、まぁ、うん。終わったらね、終わったでいいのよ!」って、
かなり笑ってましたもんね~。……だけど、それが10年ですか。
土屋
そうだよ~、10年……。
たかすちゃんが『電波』見て、触発された部分があって、『未来日記』をつくった。
それは当たるボールなのかどうか分からないけど、投げてみたら自分でも驚くほど当たった。
当たった、というか、まぁ…鉱脈が見つかった、みたいなね。
きっとね、周りが「テレビってこんな感じでしょ?」と思ってるものを、
「えっ、テレビってこんなこともやるの!?」って思わせようとするところから、
全てのヒットは始まったりする。
俺の場合は『電波』なら、ドラマの最終回に対して覚えた訳の分からない憤りや不満とかがあって、
それを解消すべく進んでいったら「見つけた! あった!!」んだ。
そういうテンションというか、パッションをね、やり続けて持ち続けていけば
何かが見つかると今も思ってる。だけども…その一方でだ。
たかすちゃんが持ち続けてるものと、編成部長としての俺が持っているものっていうのは、
どこかしらが「ちょっと……ちょっと待ってくれっ」ってなってしまうんだよなぁ。
高須
うぅむ……。
土屋
俺はもうどっちかっていうと、育てる側じゃない?
そんな立場からヒットを生む若手を育てる方法を考えてるんだけど、
抽象的に言うと「とりあえずバットを振り回せ!」と。
とりあえず一回バット振ってくれたら、お前のフォームがどういうフォームなのかが分かるから、
こうすれば打てるようになるんじゃないかな?とかこうすればもっといい方向に
球が飛ぶんじゃないかって言うことができると思うんだ。
ところが、それをだよ、いきなり最初っからバットはこう短く持ってこんな風に振ったら
とりあえず球は前に飛ぶぞ、なんていうものすごく安全な教え方をだね、
やってしまってるんだよね…俺。
高須
ん~っ、ツライところっすねぇ。
土屋
大振りしてミスって、そいつが二軍に落とされてしまうよりは、
まだ打てていたほうが一軍に残っていられる。
残っていてほしいと思うし、本人も残りたいから残る術を身につける。
となると、振り回したがらないのよ。ってなっちゃうんだよねぇ~。
俺は「振り回せ、振り回せっ」と口で言ってるけれども、
だけど、振り回してる奴を一軍に選ぶのか?と言われたらやっぱり…
2割3分のバッター揃えちゃうんだよねぇ(苦笑)これがねぇぇ。
高須
いや、土屋さん、それはしゃあないですって。
やっぱりある意味、テレビも企業であって、一つの会社ですもん。
こういう現象っていうのは、松本に言わせれば「全部、不景気が悪いんや!!」
って一刀両断ですけどね(笑)。
ちょっと簡単に言いすぎやろーとも思うんですけど、
でも、実際にはそういう部分もすごくあるよなぁと思うんです。
スポンサー側がね、今やすごく強気じゃないですか。
いや、いつの時代だってスポンサーというのは強いんですけど、それにしたって、
今すごく強気ですよね。「いつだってお金ストップしちゃうよ?」っていう空気で
数字を求めてこられたら、こっちだって何の冒険もできませんよ。
いいもの作る時って、中世のフランスじゃないけど、パトロンがいるんですよ。
「とにかくお前のいいと思うものをドンドンつくれ!」、
そんなパトロンにスポンサーにはなってもらいたいですよ。
ちょっと何かやらかしただけで「何してんだ、お前ら」ってすぐガツンってやられちゃう。
スポンサーからも、視聴者からも、ひいては内部からもやられる。
土屋
もうそうなってくると必然的に「2割3分打法」になるだろぉ!?
高須
なるんですよ、なっちゃうんですよ!! でも、大振りする人間が絶対に必要なんですよ。
土屋
だからだよ、だからこそこんな時代に何を作ればいいのか、だよ。
それを知りたくて、俺はこの「CS電波少年的放送局」をやってるわけだよ。
今、契約者数が11788人、彼らからお金をもらってる。俺の目標は10万人なわけよ。
いろいろ考えたり、計算したりするとね、十万人の視聴者から、
月に1000円ずつもらったとすると、一ヶ月1億円。
一年だと12億円ってことになるんだよ。年間12億だと成立してくる。
それで10万人っていうのはどんな数字かっていうと、日本の人口の0.1%にあたる。
0.1%の人たちがおもしろがることで、なおかつ俺たちがおもしろがることを
やるテレビっていうのは、俺はできるんじゃないかと思ってるんだ。
高須
なるほどね~。それを求めているのが、この場なわけですね。
土屋
そう。とはいえ、まだ11000人ぐらいだから届いてないんだけどね。
高須
これは新しいテレビの始まりなわけですね、ある意味。
■おっさん人形が生まれた瞬間■
土屋
ある意味、ね。
だから、松ちゃんが今、フジテレビで早朝番組をやってたり、
それから『一人ごっつ』のDVDを出したりしてるでしょう。
これからの時代っていうのはそういう風に、とにかくビジネスとして
オンエアとは違った部分での成立のさせ方をしなくちゃいけない。
違うお金の稼ぎ方をできる番組を作っていかなきゃいけない。
要するに、赤字を出してまでやり続ける人間はいないわけだよ。
やっぱり、みんなご飯はちゃんと食べたいって思うでしょ。
その時には白いご飯だけじゃなくて、そんなに贅沢は言わないとしても
おみそ汁と漬物と、焼き魚ぐらいは欲しいかなって思うでしょう。
そのぎりぎりを自分でまかなえるだけのライフプランを持つっていうのかな。
そういう番組を作ることが、新しい可能性につながるのかな、と思ってる。
10万人の人たちが1000円。または、DVDが売れるんだからこれはアリなんです、
という説得力。それが必要なのかなと思ってるんだよね。
高須
フジの『働くおっさん人形』が始まった時ってね
たまたま僕はタレントとマネージャーが交渉してる現場っていうのに居合わせたんですよ。
ちょうど日テレの中居・松本特番で帰りが遅くなった日だったかな。
夜中の3時くらいに日テレのタレントクロークにいたことがあったんです。
で、吉本の人が彼のところへ来て、秋からどうしましょう?っていう話になってきたんで、
僕は席をはずそうとしたんです。したら「いいよいいよー」って松本が言うから、
近くでぼーっとテレビ見てたんですよ。
何気なく入ってくる会話を聞き流しながらテレビ見てたら、
見たこともないような演歌の番組やってたんです。
変な、見たこともないおっさんがコート着て、荒々しい波をバックに
すごい勢いで歌ってたんですよ、時間帯からしても多分ほとんど誰も見てないですよ、きっと(笑)
なのに必死で唄っている。それが僕にはおかしくって仕方なくて、
こんな番組おもしろいなぁと思ったんですね。
今は深夜でもカルトな番組ってできなくなってるじゃないですか。
僕は松本人志にはカルトな番組が必要だと思っていて、
そういう部分を持っていたほうが絶対にいいと考えてるんです。
で、僕は思わず松本のほう振り向いて「なぁ、朝の番組やったら?」って言うてしまったんですよ。
その時は「なんでやねん!」って一笑にふされたんですけど、
「でも、ほら、この番組見てみ?ちょっとおもろいやんかー」って。
もうね、このときの歌手のおっさんがホンマにおもろかったんですよ!(笑)
土屋
そりゃよっぽどだったんだろうなぁ(笑)。
高須
誰も知らないような変なおっさんが出て、たとえばそのおっさんに
めっちゃ歌がうまい人の歌とかをアテレコしたりするだけでおもしろいんとちゃう?
とかって話をしたら、「まぁ、それはちょっとおもろいなぁ」って話になったんですよ。
で、その流れで「朝の番組やってみよかぁ」という話になっていったんです。
ひょっとしたらその僅かな5分とか10分の時間っていい場所なのかもしれない。
いまや地上波では、深夜ではなくて早朝こそが「カルトなおもしろい事をやってるらしいぞー」
って嗅ぎ取ってもらえる、唯一の場所のように思われたんです。
吉本の人もそれは興味持ってくれて「枠は取れると思います」って言ってくれまして…
そりゃあ取れますよね(笑)だーれもそんなとこやろうとは言い出さないわけですから。
土屋
あはははは! そりゃあそうだ(笑)
高須
しかもですよ、一回の制作費が50万ですよ!?(笑)
僕らのギャラも松本のギャラも全部入って50万ですよ。
普通だったら成立しないんですよ。※注(諸問題で企画は少し変わりました)
でも、いいじゃないか、やろうよ、と。手弁当でもいいじゃないか。おもしろいからやろう、と。
やってみたら実際、松本本人もすごく楽しそうでね。
ろくな金にもならんけど、おもしろいからやるんですよ。
あの時間だから許されるし、あの時間だからできる気楽さもあって
もう何でもやっちゃうぞ~みたいなノリですよ(笑)
それが実現できるのはあの朝の時間しかなかった。
だから僕はずっと続けていきたいと思ってるんですけども、
なにやら今度、その下の枠にSMA Pが入るとかで(笑)。
そうなったらまた、あの時間帯がねー、カルトではなくなっていっちゃうんですよ~。
また深夜みたいになっていって、果てにはゴールデンみたいに言われちゃうのかなぁと
ちょっと心配してるんですよー。
土屋
なるかもねぇ(笑)。「たのむよー、2%超えてよ~」なんてね(笑)
高須
「じゃないと、終わらせちゃうよ?」とか言われたりしてね~。
もうそういうのが嫌だからやってんのになぁ~と思ったりもするわけですよ。
……うーん、とはいえこれからのテレビの真ん中のところでは
いったい何をしていけばいいんでしょうねー。
土屋
そうだよ! そこの話を突き詰めないと!!(笑)
第4話へつづく
プロデューサー
土屋敏男 さん
LIFEVIDEO株式会社 代表取締役社長 兼 日本テレビ放送網株式会社 編成局ゼネラル・プロデューサー
昭和31年9月30日静岡県静岡市生まれ(58歳)
1979年3月一橋大学社会学部卒。同年4月日本テレビ放送網入社。
主にバラエティー番組の演出・プロデューサーを担当。
「進め!電波少年」ではTプロデューサー・T部長として出演し話題になる。
このほかの演出・プロデュース番組
「天才たけしの元気が出るテレビ」
「とんねるずの生ダラ」「雷波少年」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」
「電波少年的放送局」「第2日本テレビ」「間寛平アースマラソン」
「岡本太郎『明日の神話』修復プロジェクト」「NHK×日テレ60番勝負」
など多数