御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×杉本達」 第3話

『ウンナンの気分は上々。』や、一世を風靡した「未来日記」のディレクションを手がけた杉本達さん。高須さんとのタッグでドキュメンタリー要素を多分に含んだ企画を多く撮り、ヒットさせた彼はいかにしてディレクターへの道を歩んできたのか?若かりし日の苦労話、名優・松田優作さんとの思い出から、「人の心」を見せる演出へのこだわりまで余すところなくうかがいました。
取材・文/サガコ

インタビュー

第2話

2001.01

ディレクター事始め

杉本

でも、実際その助監督の仕事はものすごくハードで。
きつくてきつくてヘロヘロで、その割には給料もそんなには高くなかった。
とにかくしんどかったよ。で、そんなこんなしてたら二十歳になって……。

高須

まだ二十歳かよ!?(笑)

杉本

そうやで?

高須

どんだけ喋る気だよ。もっとさばけっ、ショートカットしてっ(笑)。

杉本

聴けっちゅうねん(笑)。
二十歳になってどうなったかというと、
結局学校の流れでにっかつの撮影所に就職しなさい、と勧められた。
けど、その就職先って言うのが「美術部」。
給料訊いたら「月給7万です」って言われてビックリや。
当時で、家賃が四畳半木造2階建て風呂なし共同便所で一万五千円ぐらいやったから、
それでは絶対キツキツなわけよ。だからその話は蹴って、もう京都に帰ったのさ。
ちょうど友達が大阪で制作会社を作るって言う
話が持ち上がってたからね、その時。就職のめどもたつし、安心して帰ることができた。

高須

でもそういうタイプの話に、ええ話ってあるかな……?

杉本

そう、あるわけがない。(笑)
で、あてにして帰ってみたら「そんな会社作りませんよ」ってなってしもた。
そしたら、それじゃあんまりだってことで、
会社作るって言ってた人がバイトを紹介してくれた。
ビラ配りのバイト。

高須

新聞配達とか、ビラ配りとか、つらいのぅ……。
戦後のどさくさに生きてたんやなぁ、お前一人……。

杉本

うっさい!(笑)
そんなこんなでビラを配って、2ヶ月3ヶ月ぐらい経った頃かな。
そのビラ配りの会社の人が、当時大阪ではトップの放送作家だった
寺崎要さんと知り合いだったんだよね。

高須

寺崎さんと言ったら、大阪のテレビ界で知らぬ者無し、ってぐらい
有名だったよね。

杉本

そう。で、何の因果かその会社の人が
「寺崎さんがADを探してるらしいから、お前行ったら?」
ってことで、俺は制作会社の「スタッフトゥーワン」っていうとこに
紹介されて入ったわけ。
そこから、大阪の吉本系の仕事にいろいろ関わっていった。
一番最初の仕事は、さんまさんのコンサートだったなぁ……。

杉本

そんなこんなでもがきながら、ADとして働いて、
一番最初にディレクターとして関わった番組が『サブローシローの今夜はねむれナイト』よ。

高須

サブローシローがしばらくやった後、紳助さんにバトンタッチする番組な。

杉本

そう。俺は紳助さんに変わってからはほんの少しの期間しか
やってないけど、でもその番組内のコーナーで『ダウンタウン劇場(シアター)』
ってのがあって、それがダウンタウン人気の火付けみたいになったんよな、確か。
そして、その『ねむれナイト』の担当が終わったら、
今度は会社にラジオの構成をやってくれ、と言われてね。

高須

構成作家になりたかったの?

杉本

違うよ。当時の大阪って、システム的にディレクターより
作家の方が番組作りの上でチカラ強かったりしたでしょ。
で、番組を好きに創りたいと思ったらディレクターより作家だろうと思ったし、
師匠が寺崎さんで作家さんやったわけだから、
よし、オレも作家でやってみようって思ったわけ。
そしたら、その話と同時に『4時ですよ~だ』のディレクターやらないか、
っていう話がいきなり舞い込んできたワケよ。

高須

同じタイミングで。

杉本

そう、もうラジオの演出やります、て決めた矢先のことやったなぁ。

杉本

ラジオは月曜日から日曜日まで毎日、帯の番組全体を仕切れる。
しかも時間帯22時から24時まで。つまり『ヤングタウン』の裏番組。
ラジオのゴールデンタイムみたいなもんや。
でも、『4時』はテレビとはいえ一つの曜日を担当するだけ。
そうしたら、俺はラジオをやる方か自分にとっていいだろう、とその時判断したんよね。
結局、いろいろ考えた挙げ句に『4時』には関わらなかった。
もし、あの時俺がラジオを蹴ってたら、高須ちゃんと会ってたかもしれへんかったわけよ。

高須

でも、会わなかった。
そして何の因果か、それからもずっとずっと会うきっかけがなかった。

高須

それから会社辞めたんだっけ?
いろいろやらかしたんやろ(笑)、噂によると。

杉本

やらかしてしまったねぇ(笑)。
神奈川に左遷されたりして、大変でした(笑)。
でも、その神奈川時代、結構いろいろと個人で仕事を引き受けてやってたんだよね、俺。
したら、そっちの仕事の方が何となく増えてきて、
しかも東京の仕事が結構多かったからさ、これは大阪だけで制作やってんのはもったいない、
これだったら会社自体が東京にも進出していけるぞ、とある時判断したわけよ。
そこで会社に「神奈川までじゃなく、僕らも東京へ一気に進出しましょう!」って進言したら、
「そんなん勝手にやれ!」言われて(笑)、なんかぎくしゃくして会社辞めてしまった。
そしたらすぐに、内職的な仕事の方で知り合ってたCXの桜井さんっていう
女性プロデューサーから声がかかってね。
(『ウゴウゴルーガ』のプロデューサーなど務められた方)
「じゃあ君、フリーになったんだったら深夜番組やってみる?」と誘われたんだよね。
それが『カノッサの屈辱』っていう番組だったわけ。

高須

ほぉ、人生の底辺からようやく抜け出しはじめたんや。
しかも、蘇るには十分な番組での再スタート。

杉本

ようやくですよ、これ。
長いこと、だいぶ辛かったからな(苦笑)。
まぁ、流れを考えたら決してひとつも無駄ではなかったわけだけどさ。

杉本

当時はCXが若手のディレクターを積極的に養成しようとしてた頃で、
実力のある奴、可能性のある奴にどんどんチャンスを与えよう! みたいな時代だった。
局員も外部も関係なく、っていうそんな時代だったからこそ、
俺にもいろんなチャンスが降ってきてね。
俺ひとりに半年深夜ドラマの監督を任せてくれたり、
フリーのディレクターなのにレギュラーの企画書を通してくれたりって、
今ではとても考えられないような待遇だった。
『カノッサ』やって……その後『TVブックメーカー』やって。
いろいろとやってたら、何かのタイミングで個性あるディレクター陣を
深夜からゴールデンへ進出させようってことになって、
『ラスタとんねるず』の仕事が来た。
この番組は5人のディレクターがそれぞれコーナーを担当して、
一番おもしろいと思われたコーナーに尺を与える(放送時間が一番長いコーナーになる)って、
だいぶ競争めいた感じの方針やったっけな。

高須

そろそろ自慢話タイム来るな……。

杉本

そらそうや、言うときは言わんとな(笑)。
で、俺が担当したのは「ジャイアント将棋」ってコーナーでね、
それはとんねるずの2人にはまったコーナーだったんだろうね、たまたまにして。
で、代表コーナーとしてオンエアされることになった。

高須

「ジャイアント将棋」はセットというか、世界感がすごいかっこよかったなぁ。
腹立つけど……。

杉本

腹立つ言うなよ!!

高須

俺は当時あの番組を見てて変だなぁ~と思ってたのよ。
とんねるずとは全然接点のなかった大阪のタレントが入ってたりしてたでしょ、あのコーナー。

杉本

うんうん。

高須

なんで東京のスタッフが、大阪のタレントに注目するんだろ?
そんなスタッフもとんねるずは持ってるってことか? とか、いろいろ思ってたなぁ。
でも、その頃のオレは杉本達という人物を全く知らなかったから、
「おっかしいなぁ」と思うだけで、それっきりだったけどね。
不思議でしょうがなかったけど、杉本ちゃんがやってたと知った時、
なるほど、この男のテイストかぁ、と納得したもん。
それからまだまだ時間が経って、結局、俺と杉本ちゃんは
ウッチャンナンチャンの現場で初めて会うことになるわけですよ。
いやー長かったなぁ、ここまでのあんたの独白プロフィール!(笑)

杉本

キミが喋れって言うたんやんっ!(笑)

第3話へつづく

ディレクター

杉本達 さん

京都市出身。にっかつ芸術学院卒業。ウイルスプロダクションを経て、bladeinc.を設立。バラエティ番組を中心にドラマ・PVなどの演出家として活躍。
TBS『ウンナンのホントコ!』内の企画『未来日記』を企画・演出し、『映画版未来日記TheFutureDiaryOnTheFilm』では監督を務めた。
「俳優塾」なる新人俳優ユニットを率い、毎週ワークショップを開催している。

代表作(バラエティ)
『カノッサの屈辱』(フジテレビ、1990)
『TVブックメーカー』(フジテレビ、1991)
『ウンナンの気分は上々』(TBS、1996)
『ウンナンのホントコ!』(TBS、1998)
『フードバトルクラブ』(TBS、2001、2002)
『マジック革命セロ』(フジテレビ、2006、2007、2014)
『写真物語』(フジテレビ、2006、2007)
『CHOICE』(フジテレビ、2012)

代表作(PV)
SMAP「この瞬間、きっと夢じゃない」

代表作(ドラマ)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『そして、くりかえす』(1998内村光良主演)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『奇数』(2000柳葉敏郎主演)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『これ……見て……』(2008戸田恵梨香主演)
『課長島耕作』(日本テレビ、2008高橋克典主演)

ON
OFF