御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×杉本達」 第4話

『ウンナンの気分は上々。』や、一世を風靡した「未来日記」のディレクションを手がけた杉本達さん。高須さんとのタッグでドキュメンタリー要素を多分に含んだ企画を多く撮り、ヒットさせた彼はいかにしてディレクターへの道を歩んできたのか?若かりし日の苦労話、名優・松田優作さんとの思い出から、「人の心」を見せる演出へのこだわりまで余すところなくうかがいました。
取材・文/サガコ

インタビュー

第3話

2001.01

『桜吹雪は知っている』『ウンナンの気分は上々』

杉本

『桜吹雪は知っている』って作家陣が豪華で、本当にすごかったのよ。
誰もが一本チーフで番組を任されてもおかしくないようなぐらいの
人たちばっかり集まってて、俺は正直ディレクターとして
どうまとめていけるんやろ、と不安になったぐらいやった。

高須

そうやなぁ。

杉本

高須光聖、おちまさと、海老克哉、右近亨…。
とにかく第一線の作家と呼ばれてる人間が全部入ってた。
そして高須ちゃんのことは「そうはいってもダウンタウンの高須」
っていうイメージもあった。それに自分が大阪の出身だから、
同じ大阪の人間をちょっと見下してる部分ってあるやん?
こいつちゃんと出来るんかぁ? っていう(笑)。

高須

わかるわかる(笑)。

杉本

でも、自分の中で「あっ、この人や!」っていうのが
高須ちゃんに対して出て来た瞬間ってのがあってね。
それはセットイメージを会議で俺が伝えたときに、
一番早くピンときてくれたのがキミやったんよね。
『桜吹雪』はセット自体が裁判所になってて、席が上がり下がりして……と、
言葉だけではどうも分かりにくいというか、
伝わりにくい雰囲気の世界観だったんよ、確かに。

高須

でも、俺はすぐに話を聞いてピンと来たよ。
セットってすごく大切で、下手したらとんでもなくダサイものに
なってしまう可能性もある。
まして「裁判もの」となると、画がとてつもなく平面になったりすれば、
ただの茶番劇みたいになってしまって、まるでコントになってしまうわけ。
そこへ、杉本ちゃんが「こんなんどうやろ?」と言い出したセットプランを
聞いてみたらすっごくかっこよかったし、納得できる世界観だったんだよね。
分かる分かる、それでオッケー、とすぐG Oサインを出した。

杉本

その話がばっちりかみ合った瞬間に、俺も高須ちゃんへの見方が変わった。
「あ、分かってくれる!」っていうののスピードが半端じゃなかった。
もちろん、そのあとに他の作家さんたちもすぐ理解してくれたけど、
やっぱり高須ちゃんのそのスピードと、世界観がわかった瞬間の
「もうこの番組はこれで大丈夫」みたいな感じは、俺にとってもすごく自信になったんだよ。
うれしかった。
他にも企画の方向性がかみ合ったりというか、視聴者に叩き付けたいもの、
これを見せたい! ていう情熱の部分が結構似てたりしてね。
それが必ずしも視聴率っていう結果を導き出したわけではなかったけど、
でも、俺はなんか「ダウンタウンの高須」じゃなく「高須光聖」って作家を
ちゃんと認識できたな。その一致感みたいなもので、ね。

高須

気づくの遅いっちゅーねん!

杉本

いや、そら『4時』のころに会えてたらまだしも、
やっと会って、ダウンタウンの高須のイメージ強かった頃だったんだからさぁ、
それは仕方ないよ。

高須

まぁなぁ、俺もウンナンの仕事、はじめてやりだした頃だったしなぁ。
お互いに「こいつとならやれる」ていうのは、ちょっとした安心感だったのかもね。

高須

それから『気分は上々』へと時代は流れて……。

杉本

高須ちゃんとの意思疎通がどんどんと濃くなっていくわけよ、結局。

高須

『上々』を作るときに、編成から「なにかコンセプト」を言われて
俺が咄嗟に言ったコンセプトは「友達」だった。
自分がウンナンと同世代ってことでこの世代、30代の自分に何が足りないか、
ってことを考えたら、「なかなか昔のように、友達ができない」ってことだった。
だからこそ、『上々』のキーワードは「友達」だ、と俺は言い張ってね。
今のウッチャンナンチャンをいかにリアルに見せるか、ってことを求めていったら
同じ世代の視聴者にとってもきっとリアルなはずだから、
友達の大切さとか、友達の密度とか、その関係性の不確かさとか、
そういうのがじわっと描ければ絶対新しくてリアルなおもしろい番組になると思った。
そしたら、そのキーワードにナンチャンも感じるものがあったみたいで
「それ、おもしろそうだね」ってことになって。
で、実際ウッチャンナンチャンの各々の友達って誰? と考えたら、
それは元々相方であったはずで……。
分かり合える友達だったからこそコンビ組もうとも思ったんだろうし、
そしたらまずはその二人を、本当の二人っきりでマネージャーも抜きで旅に出そう、
てことになったのよね。カメラマンもなくて、全部固定のCCDで画を撮る。
絶対にギクシャクして、間(ま)ができる。
間っていうのは本来「あってはならないもの」っていう認識でしょ?
テレビとかラジオで「し~ん」ってなってたら、それはすごく不安になるから、
だいたいは使わずに編集でカットしちゃう。
でも『上々』は、単純に間があってはダメでしょう、っていうんじゃなくて、
いっそその「間」を見て楽しむ、覗いて楽しめる番組にしたかったんよ。
だって日常ってそうやん。台本とかで喋ってるわけじゃないやん、誰だって。
台本とか設定とか「よーい、スタート!」で喋り出す人っていないわけだからさ、普段は(笑)。
友達同士の会話だからこそ、間ができる、隙間がある。
でも、それが当たり前でそれでええねん、という割り切り。
だって「日常」なんやから「友達」やねんから、構えが一切無くて、
煙草とかふかしてたら言葉が止まって、それが当たり前だからそれでいいじゃん、
みたいなことを『上々』では見せたかった。

杉本

そうそう。番組自体の狙いはそういうところから始まった。
まぁ、二人っきりのトークがおもしろいだろう、という意見はあったけど、
実はそのトークそのものよりも「間」のほうが圧倒的に新鮮で、おもしろかったのよなぁ。

高須

そうそう。トークとトークのあいだ、普通すぎるぐらい普通な、
その隙間がものすごくおもしろかった。芸能人らしからぬ、て感じで(笑)。

杉本

間はもう、なるべく全部使っていくようにした。

高須

今までだったら絶対に編集で切り取る部分。それを逆に使っていく。
しーんとしまくったらしまくったで、それも使う。

杉本

でも、それが間としてただあるだけでは、ディレクターとして、
番組作る側としてはあまりにもほったらかしみたいで、かなり怖さもあったわけよ。
こちら(番組側)が面白がっている「間」の存在を視聴者が汲み取ってくれるのか?
伝わるのか? マスターベーションにならないか? という心配があって、
そこからあの縦スーパーってのが生まれた。
「はじめて見る企画、映像、構成なのでどう見ていいか? が分からないとツライ!」
ということが無いように、
全くの新ジャンル切り拓いた時の視聴者の人達への心遣いって感じでね。
「間」が間としてだけでぽかーん、とあっても、
それはそれで不安感だけが増してしまったら失敗だと思ったし……。
テレビとしてもうひとつ内側へ、縦スーパーを使って「間」というものを演出しにいった。

高須

あれが「演出家・杉本達」のセンスで、俺はすごくいいなぁと思った。
演者のカメラ目線は必要ない。素の部分を観察する、
『気分は上々』は観察バラエティなんだと、位置付けて進めていけたわけ。
視聴者の持ってる「日常」と、芸能人・テレビっていうものの
「非日常」感が、うまくバランス取れたって感じかなぁ。
その見せ方のバランス感覚が、やっぱり演出としての『上々』の肝やったし、
杉本ちゃんしかでけない技やったんよね。

第4話へつづく

ディレクター

杉本達 さん

京都市出身。にっかつ芸術学院卒業。ウイルスプロダクションを経て、bladeinc.を設立。バラエティ番組を中心にドラマ・PVなどの演出家として活躍。
TBS『ウンナンのホントコ!』内の企画『未来日記』を企画・演出し、『映画版未来日記TheFutureDiaryOnTheFilm』では監督を務めた。
「俳優塾」なる新人俳優ユニットを率い、毎週ワークショップを開催している。

代表作(バラエティ)
『カノッサの屈辱』(フジテレビ、1990)
『TVブックメーカー』(フジテレビ、1991)
『ウンナンの気分は上々』(TBS、1996)
『ウンナンのホントコ!』(TBS、1998)
『フードバトルクラブ』(TBS、2001、2002)
『マジック革命セロ』(フジテレビ、2006、2007、2014)
『写真物語』(フジテレビ、2006、2007)
『CHOICE』(フジテレビ、2012)

代表作(PV)
SMAP「この瞬間、きっと夢じゃない」

代表作(ドラマ)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『そして、くりかえす』(1998内村光良主演)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『奇数』(2000柳葉敏郎主演)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『これ……見て……』(2008戸田恵梨香主演)
『課長島耕作』(日本テレビ、2008高橋克典主演)

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