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高須光聖がキク「高須光聖×杉本達」 第4話

『ウンナンの気分は上々。』や、一世を風靡した「未来日記」のディレクションを手がけた杉本達さん。高須さんとのタッグでドキュメンタリー要素を多分に含んだ企画を多く撮り、ヒットさせた彼はいかにしてディレクターへの道を歩んできたのか?若かりし日の苦労話、名優・松田優作さんとの思い出から、「人の心」を見せる演出へのこだわりまで余すところなくうかがいました。
取材・文/サガコ

インタビュー

第4話

2001.01

『ウンナンのホントコ』『未来日記』そして、これから

高須

そんなこんなで『上々』の後、更に『ウンナンのホントのトコロ』が始まるわけやけども、
当初はね、世間のほんとのところを探って紹介していこうっていう番組やってん。
それが、今は恋愛のほんとの部分という、いろんな側面を暴き出そうって感じに発展して、
「未来日記」というでっかい企画にひとつ集積されたって感じかなぁ。
でも、その未来日記も最初に説明してひっかかってきてくれたんは杉本ちゃんだけだった。

杉本

最初はロードムービーっていう案でね。
そもそもは『ウンナンの気分は上々』の番組そのものを映画にしようという企画だった。
初期の『上々』のあのロードムービー的な部分を映画にしたら面白いのでは?
って感じで、テストロケまでやったんだよな。ウッチャンと女優さんが一週間の旅に出る、
旅の途中では台本が逐一渡される、だけどその台本には台詞はなくて
ト書き(演技の大まかな解説文のようなもの)しか書かれてない。
で、男女それぞれに台本があって、男はホテルに車を入れるとか、
女は女でシャワーを浴びに行く、とか……。
でも、その台本の存在をお互いは知らないから、
どこまで台本でどこまでが本気なのかが分からない。
そして、最終的にはキスをする、という。
全部全部、お互いの「素」の間でやるしかないっていう……。

高須

その芸能人らしくない表情っていうのは新鮮でおもろいんじゃないかな? って言ったら、
杉本ちゃんがそれはおもろいわーって言うてくれて、
ナンチャンも乗り気だったんだけど、結局没になって、流れてしまったわけ。

杉本

あれはほんまに痛かったなぁ……。

高須

で、仕方ないなぁ、と俺はもうその企画を忘れてしまってた。
したら『ホントコ』やってる時に杉本ちゃんが
「あのロードムービーの企画、テレビでやれへんか?」って言い出してん。
俺は「ええっ、テレビでできるか?」と半分不安で、
杉本ちゃんは「いや、できるできる、できるって」とえらい乗り気でね。

杉本

乗り気っていうか、あかんかったらあかんかったでええか、と思ってたよ。

高須

なんじゃそら!

杉本

『ホントコ』自体が伸び悩んでた時期ではあったからさ、
どっかやぶれかぶれでやってまえってなもんやった。
視聴率を目指すコーナーを作って番組の延命処置をするぐらいなら、
番組が終わる可能性を覚悟してでも勝負したかった。
あれは『ホントコ』の初めての2時間スペシャルの時で
2時間を埋める企画が地味なもんばっかりで。
で、地味に守りの2時間スペシャルをやるぐらいなら
負けてもいいから攻めの2時間スペシャルをやりたかった。
その時の自分が面白いと自信を持ってたのは「未来日記」だった。
そうは言っても会議では反対意見も結構あったしね。
しかもほら、俺はタレントではなく、素人さんでやろうって言ってたから。

高須

素人、っていうのには俺もひっかかったし、
他のみんなはなおさら不安になってしまってたよな?

杉本

そうそう。ところがまぁ、蓋を開けてみたらまぁまぁの反応で
「いいんじゃない? よくなっていくんじゃない?」って空気になっていったんよね。
意外にも最初の「未来日記」はかなり視聴率がよかった。
「未来日記」の部分だけなら20%は越えていたし、
2時間スペシャルの視聴率も16%ぐらいあった。
視聴者には早めに支持されて、その反応は嬉しかったなぁ。
結果的にだから、『上々』と『ホントコ』は「未来日記」という企画を通じて
兄弟番組ってことになったよね。

高須

繋がってるんだよね、実は。
要素が行ったり来たりしてるというか、企画がうまく活かされる空間を
番組同士で自由にやりとりしてる感じかなぁ。

高須

さあさあ、「未来日記」も一息ついたところで、どうする? これからのテレビ。

杉本

テレビ……なぁ。
こんな事言うのもはばかられるけど、俺、あんまりテレビ見ないからなぁ(苦笑)。

高須

どんなの創っていこう……。
あ、でも俺と杉本ちゃんってところで限って言えば、
人の心が動く瞬間とか、ぶれたり、震えたり、ずれたりして動くような企画が好きやん。

杉本

せやね。

高須

だからもし、二人で何かまだやるとしたら、
絶対そういう現象を捉えていくような、
そういう「何か」になっていくような気がするよね。

杉本

言葉にはしにくいけど、見えない『何か』!
でも人間の心理的には分かる、分かるっ! という感じ。
見えないからこそ『かきたてられる何か』。ちょっと心理学入ってるけど、
テレビって映像のあるメディアで、絵はあるけど、
さらにそこに流れている空気を感じさせるっていうのかな。
想像させる遊びが、お互い好きだからね。
『気分は上々』にしても「未来日記」にしてもそこを面白がって作った番組だから。
今後もふたりで作るもんってそこを面白がるものになるんだろなぁ。

高須

それがテレビであっても、映画であっても、はたまた他の何かであってもね。

杉本

なんだかんだ言うても、テレビって結局『オリジナリティ』でしょ。

高須

うんうん。

杉本

人の二番煎じに可能性を見る、ってことは有り得ないから、
やっぱり一番最初に何かを発想して、一番最初にやった人間の勝ちだったりするからね。
だからこそ、他の人達が「それってやったことないよね~」って
不安がるような企画を圧倒的にやっていきたいと思うよ。
それをやっていかなあかん。
そこが一番、鉱脈としてでかいわけやし、持続力もあるし。

高須

そのわりに「未来日記」は早やく消費しすぎた感、あるけどな~(笑)。
頑張りすぎて、乗っけすぎたかなーと。

杉本

それはあったなぁ(笑)。

杉本

人とは違うことをする。人とは違う切り込み方をするっていう、
ホントにそれだけのこと、全ては。そのための努力を惜しまないことだけ。
俺にはそれしかないもん。例えば「見せ方」ていう部分だけにこだわっても、
俺はきっと片岡(飛鳥)ディレクターとかに負けるだろうし、
コントを撮れって言われても、俺にはきっとできないし、
小松(純也)ディレクターに勝てないと思う。
だとしたら、ディレクターとして俺にできることは、
ただただ新しい視点を、新しい企画を見つけだしていくってことだけやと思う。
そこで生き残ってる気がする。

高須

やっぱし、杉本ちゃんは言葉が好きで、会話が好きやんか。
それってすごい個性だと思うよ。会話系の企画というか、
人間の核の部分を見せていく企画に乗ってくるから、この男は。
で、人間って結局どれだか科学が進歩しても、哲学的に進化しても、
最後の最後はどうしようもないことしかできない。
それは例えばタンカーが座礁して、油が海岸を真っ黒に汚した時に、
結局人々がひしゃく持って、人海戦術で油を掬っていくしか無かった、みたいなことでね。
二十一世紀目の前にしても人間にしかできないことをするしかなかったというか、
単純作業が全ての機械とかを上回ったわけやん。
俺と杉本ちゃんの感じるおもしろさってそういうところなんだろなぁ、と思うのよ。
大学教授とかその道の技術者のプロとかが、大学教授のくせにプロのくせに、
いざという時、ものすごい危機状態の時は「こんなことしか考えられへんのかい!」
ってことしか考え出せなくて、ああ、人間って結局はすごく原始的なことしかできないのかぁ、
っていう、そういうもどかしさとかをね、描き出すのが好きなんよなぁ。
二人で「人間って最後の最後、やっぱり単純でおもろいなぁ」って共通して感じられるんだよ。
恋愛でもそう、切羽詰まったりする一瞬もそう。
その瞬間瞬間の、人間くささっていうのがたまらんかったりする。
そこをほじくり返すようにして見せるテレビを作りたい。

杉本

例えば「トーク番組やりましょ」って言われても、
ただの普通のトーク番組っていうのを素直にやることはできないよ、俺には。
さらっと人間の本質部分を見逃していくような流れのトークなんて、
おもしろくないと思ってしまう。
おもしろくなければ、やってて気持ちよくないからできない。
で、「もっと違うことやろう!」って意気込みすぎて、
手を加えすぎて結果的に失敗することも、確かに多いから……。
だから多分、俺はそんなに優秀なディレクターではないのかもしれへんな。

高須

でも、そうでなかったらホームランは打てないよ、きっと。
空振りするほど全力でいつも振り切ってこそ、ホームランの可能性はそこにあるわけで。

杉本

今でもね、連ドラの演出やったりしないか? みたいな話があったりしてね。

高須

いいね~、やれ、やったらいいよ~。

杉本

いや、でもそれにかかりっきりになりたくはないのよー。
絶対バラエティやっときたい。
で、バラエティもやりながらさらっとドラマもこなす、ぐらいにやっときたい。

高須

かっこいいなぁ(笑)。

杉本

バラエティーのディレクターでドラマに転向して、ズーッとそっちの方へ進む人いるでしょ。
ディレクターってどっかドラマや映画に憧れてるから、
それはそれで選ばれし人だと思うけど。
で、俺も例えばそれをやってしまったらさ、
「あ、結局杉本くんも最終的にはドラマとか映画とかやりたかったんだね」って
思われそうやん。
そこでピリオド打たれてしまうというか、終着点みたいな、高尚なイメージがあるでしょ。
だからこそ、俺は絶対バラエティやっていたい。
「あいつ、どーしたいねん、何を撮りたいねん、それで結局!」って思われたい。
バラエティが足掛かりやった、みたいに思われるのはどうも悔しいというか、
本意じゃないんよね。つまらんこだわりかもしれんけどさ。

高須

終着点を決めたくないわけか。それも俺は、全然いいんじゃないかなぁ、と思うよ。
笑い・バラエティやっときたいっていうの、モノヅクリって意味で大事だと思うし。
……まぁ、テレビの仕事がどうしようもなくなったら、
いざとなったら水商売があるからな、お前さんには!(笑)

杉本

おぅ! いつでもいけるなぁ!(笑)

お二人の一致ポイントはたくさんあるようでした。
「こんな画が撮りたい!」という欲求の高さとか、
「こんなことがおもしろい!」というポイントの似通り具合など
テレビ作りのポイントポイントが、非常に心地よく会話できる二人、という印象でした。

おわり

ディレクター

杉本達 さん

京都市出身。にっかつ芸術学院卒業。ウイルスプロダクションを経て、bladeinc.を設立。バラエティ番組を中心にドラマ・PVなどの演出家として活躍。
TBS『ウンナンのホントコ!』内の企画『未来日記』を企画・演出し、『映画版未来日記TheFutureDiaryOnTheFilm』では監督を務めた。
「俳優塾」なる新人俳優ユニットを率い、毎週ワークショップを開催している。

代表作(バラエティ)
『カノッサの屈辱』(フジテレビ、1990)
『TVブックメーカー』(フジテレビ、1991)
『ウンナンの気分は上々』(TBS、1996)
『ウンナンのホントコ!』(TBS、1998)
『フードバトルクラブ』(TBS、2001、2002)
『マジック革命セロ』(フジテレビ、2006、2007、2014)
『写真物語』(フジテレビ、2006、2007)
『CHOICE』(フジテレビ、2012)

代表作(PV)
SMAP「この瞬間、きっと夢じゃない」

代表作(ドラマ)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『そして、くりかえす』(1998内村光良主演)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『奇数』(2000柳葉敏郎主演)
「世にも奇妙な物語春の特別編」『これ……見て……』(2008戸田恵梨香主演)
『課長島耕作』(日本テレビ、2008高橋克典主演)

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