御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×加地倫三」 第5話

『ロンドンハーツ』や『アメトーク!』などのヒットで、テレビ朝日のバラエティに新風を吹き込んだ加地倫三さん。「やるキッス」や「ブラックメール」など、数々のひりつく企画はいかにして生まれ得たのか?そしてテレビ業界、バラエティ全体が元気を取り戻すべく、加地さんが抱いていた強い思いとは……?ナインティナインさんとの絆や、芸人とディレクターと作家のプロ意識にもグッとくるものがある対談でした。
取材・文/サガコ

インタビュー

第4話

2005.09

『ロンドンハーツ』が築き上げたもの

高須

さて、加地くんがバラエティのディレクターとしてひとり立ちをして、
『ナイナイナ』から『ロンドンハーツ』のスタッフに入ることに。
その経緯って、どんな感じだったの?

加地

『ナイナイナ』のあと、まず『リングの魂』に関わりました。南原さんにもいろいろな
ことを教わりましたね。格闘技も好きでしたし。そのあと『スポコン』っていう
スポーツをテーマにしたゴールデンを試みて、これが玉砕しまして……(笑)。

高須

え、それって、何曜日の何時からやってた?

加地

月曜8時ですよ。だから、高須さん『HEY!HEY!HEY!』で、真裏でした。

高須

うわー、そうや。そんなこともあったっけ(苦笑)。
それで『ナイナイナ』が終了して、そのまま『ロンドンハーツ』へ?

加地

当時『ナイナイナ』のプロデューサーだった板橋さんが、
『ロンドンハーツ』でもプロデューサーをやるってことで、
そのまま引っ張ってもらったという感じです。
社内では、別の超大型バラエティ番組と『ロンハー』とで、僕のドラフトが
行われたんですが、平城さんが間に入ってくれて
「加地の好きなほうをやればいい」って言ってくださって。
で、『ロンハー』を選びました。好きなことができそうだったから。

高須

別の番組のほういかなくてよかったなぁ。そっち、大失敗してたもんなぁ(苦笑)。

☆素人企画で見えてきた「軸」

高須

『ロンハー』が話題になって、グーッと上がった企画っていうと、
俺はやっぱり「やるキッス」を思い出すなぁ。

加地

いろんな方面で、いろんな意味で話題になっちゃいましたけどね(笑)。

高須

でも、叩かれようとなんであろうと、話題になるってことは、
それだけ衝撃的ってことだったんだと思うんだけどね。
たけど、まぁ……今さらだけど、ひどい企画だなぁとは思う。

加地

好きな彼女に、金目当てでキスさせるんですもんね(苦笑)。
おもしろいっていえばおもしろかったんですけど。

高須

いや、企画しといてなんだけど、ひどいなぁとは思う。
深夜で企画書出したときに「ダメ、上がダメって言った」って言われて
ボツになったはずの企画なんだよ、もともと。
それがどうしてゴールデンで通るねん、とは思ったけど(笑)。

加地

深夜でやるならまだしも、倫理的に、まぁ、うん。

高須

あんなんゴールデンではやったらあかんかったなぁ、確かに。
まぁ、もはやひとつの伝説というか、思い出になってしまってるけど、
でも、あれで『ロンハー』の方向性みたいなものはしっかり見えたと思うんだよ。
元気のいい芸人・ロンドンブーツのエッジのきいたところと、
テレ朝の持つ独特の「こんなんやっちゃっていいの?」というような
冒険心のあるテレビ作りの感じとが、うまく出せてたとは思う。
『ロンハー』の恋愛を織り交ぜた企画方針も、あれで固まったっていうか。
「やるキッス」と「スティンガー」のヒットが、
番組の方針を決めたように思う。

加地

確かにひとつラインが見えた気はしましたね。
で、「やるキッス」がなくなってしまったので
小さな企画をちょこちょこ試してみて、これじゃない、あれじゃないと
しばらく模索したんですよ。「上京ラブストーリー」とかやってみたり…。
で、そういう企画をやるうちに、ナレーションの大切さとかを、
僕は学んだように思いますね。

高須

というと?

加地

素人同士のやりとりで笑いも少ないし、的確でないので
どうしてもダラダラっとしちゃう部分を、
ナレーションでてきぱき見せていかないとダメなんだなって、
ようやく理解した時期だったと思います。
ナレーションで振る、フォローする、振る、フォローする……。それまでは
ナレーション入れるのキライだったんですけど、そこで変わりましたね。

高須

でも、そういうつくりを学んだ加地くんがチーフディレクターになってくれて、
すっごく楽になったよ、仕事として。どんな企画をやるにしたって、
番組のなかにビシッと1本筋が通ってる気がして、
すごくやりやすくなったもん。
ひとつの番組にいろんなディレクターがいるからこそ、
テレビってすごく難しくて、
誰かがやり方や道筋を決めないと、番組の軸がブレて、よくない結果になる。
それを加地くんがしっかり統一してくれた気がしたなぁ。
みんなの個性がすごーく光ってる企画があるとして、
バラバラなものを四つ組み込むより、
誰か一人の息がかかっていて統一された企画を、
しっかり1本オンエアするほうが
視聴者にも絶対に分かりやすいと思うんだよね。
それにディレクターによって演者の活かし方って違うから、
それぞれに任せてしまうと演者も損をしてしまう結果になることが多い。
ばらついてしまって、視聴者に自分たちのカラーをアピールできない。
だから、加地くんが仕切るようになって、軸が通ったことで
結果的に番組にもロンブーにとってもよかったんだと思う。

加地

そこまで言っていただけると、うれしいです。

☆叩かれつづけても

高須

ちなみに『ロンハー』がしっかりと見えてきた! って感じたのは、いつぐらい?
最初は迷いながら造ってたと思うんだけど、
ある日「俺の演出はこっちだーっ」て、分かった瞬間があったの?

加地

うーん……難しい質問ですね。
やっぱり「出川さんシリーズ」ですかね。

高須

あー、あの企画はよかったね。
リアリティという一本の線で、素人恋愛企画で押してきたロンハーが、
タレントを使うことで、少しハートウォーミングな路線を打ち出した時だよね

加地

本当に素人恋愛企画はやりつくしましたもんね。

高須

確かにやりつくした! そして、行ききっちゃった……。
「スティンガー」「ブラックメール」「トライアングル」
「アイドルトラップ」……。

加地

ですよねぇ。

高須

だけど、ドッキリと素人ロケのノウハウはしっかりと残ったよね。
それは財産だと思う。
素人さんたちにばれないようなネタフリの作り方とかは、もうADたちにまで
浸透してるしね。それは番組として財産だと思うな。

加地

それはそうかもしれないなぁと。仕事を簡単に済ませようとするんであれば
「それ。仕込みでいいじゃん」ってなるところを
「いかにして素人さんに気付かれず、ちゃんとドッキリを成立させるか」って
ところで努力して、その方法を考えようとしますからね、俺らは。

高須

そのへんだけは誇れるよね。仕込み、一切しなかったもん。
で、仕込みじゃないから、当然撮った後に「放送しないでください」って
言われれば、それでお蔵入り決定。
それで陽の目を見ていないVTRが何本あることか!

加地

しょっちゅうでしたねぇ……。ロケの途中で「あ、『ロンハー』でしょ」って
ばれる事もありましたしね。それで、もうロケ終わりになりますし。

高須

それなのにヤラセヤラセって、まぁ、よく言われたっけ(笑)。
むかつくよなぁ~。
どこぞのしょぼい番組みたいにヤラセなんかするかよ、と!

加地

見比べたら、ヤラセのVTRとそうじゃないVTRって、
すぐ分かると思うんですけどねぇ。

高須

そこが普通の視聴者にはまったく伝わらないみたいよ?
よーく見ると、絶対に顔が違うから! ホントに違うから!
こう熱弁を振るうのも変な話だけど、そこだけは僕らは守ってた。

加地

ですね、うん。

☆崖っぷちを見てきたからこそ

加地

去年『ロンドンハーツ』って、死にかけたじゃないですか。
いわゆる素人恋愛ものにも一区切りついてしまって、
他に軸となる企画を探したんだけどなかなか見つからなくって。
緊急会議開いたんですよね、あの時。

高須

やったなぁ…「もう終わるかもしれません会議」。数字も下がってきてたしね。

加地

俺、あれを経験してるから、今のところ『ロンドンハーツ』に対する
恐怖心とかって何もないんですよ。1回死にかけた、
あの崖っぷちを見てるから、何でもできるなってそう思えてるんですよね。
「格付けしあう女たち」が企画として出てきたのも
ホントに偶然でしたし。

高須

「もうだめだーっ!」って煮詰まって煮詰まって、
ギリギリまで追い詰められたときに出るんだよね、ああいう起死回生の企画が。
今までの経験上、だいたいそうなるなぁ。
「とりあえず……一回やってみよ」っていう企画が、
いきなり軸になっちゃうこともあるしね。

加地

「格付け」なんて企画段階では、結果がどう出るか
まったく分かりませんでした。
でも、撮ってみたらすごくおもしろかった。
会議で「こういう風になりました」って編集したVTRを
皆さんに見せたとき、手ごたえがありましたからね、確かに。
で、二本撮りしてたのも、すごくラッキーだったと思うんですよ。
一回目オンエアして、数字が良かったんで、
撮りだめしてた分を翌週にすぐ放送できたから一気に企画が定着した。
これからの『ロンハー』はこっちだ、って。

高須

あれはホントに、幸運というかなんというか。寿命が延びた瞬間だったね。
番組としても「スタジオ物」と「ロケ物」、
どっちもできるってことを示せたしね。
加地くんはスタジオも大丈夫なんだって発見もできたし。

加地

スタジオのトークがしっかり撮れてるとしたら、『アメトーク』で
トーク番組をたくさん撮ってきたからかもしれませんね。

高須

どっちもできるっていうのは、すごく貴重だよ。
たくさんの番組で、いろいろなスタイルを経験すれば
「この番組は、どうしてダメなのか」っていうのを考えて、
答えが出せるようになるからね。ひとつしか手法を持ってなかったら、
それ以外のことはできなくなっていくでしょう。
加地くんはきっと「この番組は、ここがこうだからダメだ」っていう答えを
導き出せてるディレクターだと、俺は思ってる。

加地

なんか俺よりも俺のことを知ってる感じじゃないですか(笑)。

高須

だってさ、俺達作家は「この演出家が何を考えてるのかな?」って、
すごく気にしてるよ?

加地

そうなんですか?

高須

ちょっと偉そうに聞こえるかもしれないけど、
この演出家に、この企画を撮ることができるのか?撮れたとしても
おもしろく観せられるのか?要はその演出家にふさわしい企画かどうかを
見極めて、企画を投げたりするからね。
それであきらめることとかも何度もあるし。

加地

なるほど。そうか、そういう風に見られてるんだなぁ……。
僕にとっては、作家さんとこうやってお茶を飲んだりとか、
一緒にごはん食べたりする時間が、
すごく自分のディレクターとしての「肉」になってる
感じがするんですよ。
『ナイナイナ』のAD時代に
作家の中野さんとごはんを食べてて出た話なんですけど、
「日テレの土屋さんは、「こういう企画を書いてきてくれ」と、明確に企画の
方針を話してから宿題を出してくれる。だから、作家はすごく書きやすい」
って聞いたんですね。
ただ「なんか書いてきて」では絶対にダメだと。
あと、やたら「新ネタ」の宿題を出しても、
ロケやらないとテンションが下がるとか……。
そういうことをAD時代に聞いて、血肉にしようとしてました。
自分がディレクターになったらこうしよう、ああしようって蓄積してたんです。
ディレクターは絶対に作家さんの特徴を見極めて、
言い方は悪いですが「うまく利用」しないとダメなんだって学びました。

高須

すごく大事だと思うなぁ。
そういうコミュニケーションの中でしか受け継がれないことって
絶対にあるからね。
ディレクターと作家が、どっちも切磋琢磨していかないと、
いい番組なんて絶対に出来上がらないんだから。

第5話へつづく

ディレクター

加地倫三 さん

1969年生まれ46歳
ロンドンハーツ・アメトーークの演出兼ゼネラルプロデューサー
他に三村&有吉特番、キリトルTVなどの特番も担当。

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