『ロンドンハーツ』や『アメトーク!』などのヒットで、テレビ朝日のバラエティに新風を吹き込んだ加地倫三さん。「やるキッス」や「ブラックメール」など、数々のひりつく企画はいかにして生まれ得たのか?そしてテレビ業界、バラエティ全体が元気を取り戻すべく、加地さんが抱いていた強い思いとは……?ナインティナインさんとの絆や、芸人とディレクターと作家のプロ意識にもグッとくるものがある対談でした。
取材・文/サガコ
インタビュー
第5話
2005.09☆俺と『めちゃイケ』
加地
ところで、俺『めちゃイケ』は、本当にいい番組だと思ってるんですよ。
やっぱり一本信念があるし、笑えるし……。
高須
ありがとうー、そう言ってもらえるとうれしいなぁ。
加地
特に、先日の「ハニカミ」企画はすごかったですね。
やられたなぁ~、と感じました。
高須
ああ、あの誕生日企画のヤツね。ナイナイの2人が、いきなり
デートさせられるっていう。
加地
あれは新鮮ですよ。
どんな芸人でやっても成立するかも知れませんけど、
ナイナイでっていうのが、たぶん一番おもしろい。
高須
実はそもそも芸人用に考えられたもんなのよ
というもの『気分は上々』から『恋するハニカミ』って、
松本のちょっとした一言から思いついた企画で。
っていうか、松本が自分で言い出したけど、
ダウンタウンではできない企画だったんだよ。
要は「ガキ」のオープニングで
どんな企画をやったらおもしろいか、って話になったときに
「周りに第三者がいなくて、相方の浜田と2人っきりで買い物でも行ってこい
って言われたら、それが一番恥ずかしい。ケツの穴見られるより嫌やけど
見てる側はすごくおもしろいんやろなぁ」
って話し出したのよ。じゃ~それをやろうって言ったんだけど、結局
「それだけは勘弁してくれ」言われて、企画としてはボツになってしまった。
それを生かしたのが『気分は上々』、そしてその発展系が『ハニカミ』。
多分、カメラマンやスタッフが入らずに2人っきりを過ごすのって、
芸人にとってはすごく照れくさいし、何を話していいか分からない。
その慌てっぷりがおもしろいのよね。
だからあれって、そもそも芸人用として生まれたもんなのよ。
加地
僕、ダウンタウンでやってもおもしろいだろうなぁとは
思ってたんですよ。
高須
ダウンタウンでやったら面白いのはわかってるんだけど、
松本が「それやるぐらいなら、ケツの穴見せる方がマシや」って
言い切るから仕方ないよな(笑)。
『めちゃイケ』での「ハニカミ」パロディ企画は、最初、
岡村と女性とのデートにしようって話は進んだんだけど、
「女性より相方が来る、相方とデートする」っていうほうが
絶対に恥ずかしい、絶対におもしろいって話になったんだよね。
加地
いや、企画の話を聞いただけでも「うわっ」と思いましたよ。
芸人の生理をしってる人間なら、たまらない企画だってすぐわかりますもん。
高須
俺「ハニカミ」もやってるもんだから、
本家の撮り方の細部まですごく質問されたからね、飛鳥に(笑)。
加地
昔の『めちゃイケ』を見てるような興奮がありましたね、久しぶりに。
高須
おー、それはうれしいような、厳しい意見のような(笑)。
加地
全然そんな意味じゃなくて、ここ数年、
ゴールデンでロケ企画をやっても数字がとれないから、
どうしてもスタジオものが多いじゃないですか。
『めちゃイケ』も多少ロケものが減ってはいますよね?
でも、俺自身がスタジオよりロケものの方が好きで、
それが影響してるとは思うんですけど、『めちゃイケ』もやっぱり
ロケ企画のほうが「スゲェ!」って思わされてきてるんですよね。
だから、なんかうれしかったんですよ、普通に『めちゃイケ』ファンとして。
☆テレ朝と、僕と、未来
高須
『めちゃイケ』などの刺激も受けつつ、テレ朝のバラエティのスタイルを
とりあえず作り上げて……加地くんは、今後どうするの?
どんな番組を作りたいと思ってる?
加地
んー、割と将来のこととか考えられないタイプなんですよ。
目の前の現実が何よりも大事だし、そこだけでもう必死ですね、毎日。
高須
具体的にこんなタレントさんと仕事したいとか、
こんな時間体の番組をやってみたいとかっていうような展望は?
加地
んー……そうですねー。
やっぱりまたナインティナインと仕事をしてみたいっていうのはありますよ。
だけど前も言ったんですけど、もうナイナイの番組って多すぎて、
あれだけの人たちですからすべてのやり方をやりつくしてるんですよ。
高須
まあ、番組のスタイルとして『めちゃイケ』は外ロケもスタジオもこなすし、
トーク番組やらクイズ……まぁ、それはやりつくされてる感があるわな。
しかも、彼らはそのすべてをこなすことができるだけの技量があるし、
だからこそ容易には新番組立ち上げられない。
「あの番組のパクリでしょ」って言われてしまうのは、彼らにとっても
作り手にとってもすごくツライから。
加地
そうなんですよ。
だから、時間がかかってでもオリジナルの番組を
作らなきゃいけないと思ってます。タレントさんと枠が確保できたからって、
安易に作っちゃったりしたら、とんでもないことになるのは目に見えてますし。
高須
それはすごく大事なことだよ。
そこを見誤ると、とんでもないテレビが生まれてしまう。
誰も幸せになれない番組を無理やり作ってオンエアすることほど、
バカらしいことはないのよ。
その点、今のテレ朝は「将来有望」っていえる位置にいると思う。
芸人で「テレ朝で番組やりたい」って思ってる人は多いもん。
加地
それが、とてもありがたいと思うんです。
高須
芸人の話聞いてると、みんな口そろえて
「いろんなことがやれるから、テレ朝がいい」っていう。
幸か不幸か、芸人番組、すごく増えてきたしね。
加地
それはいいことだと思いたいですねぇ。
ロンブーが深夜からゴールデンに上がったり、
ココリコの成功もあったりして、芸人のステップアップの図式が
明確に形になってる。これはすごい変化だと思います。
☆僕はクリエイターじゃない
高須
にしても、もっと野心があってもいいんじゃないの?
野心というか、展望というかさ。
加地
うーん……僕はクリエイターじゃないですからね。
バンドやってるときの話で例えると、僕は曲を作ることはできない。
だけど、できてきた曲に対して「ここはギターから入って……」
「ここはドラムの音を強調するとカッコイイ」とかっていう、
アドバイスっていうか、アレンジをやってたんですよ。
高須
なるほど、ゼロから何かを生み出すって意味でのクリエイターでは
ないってことね。
加地
そうなんですよ。
ライブでも曲順とか考えて「こうすれば盛り上がる」って
いうのはガンガン仕切ってたりしたんですよ。
ヒントがないと作れない。それってクリエイターとは、またちょっと
違うような気がするんですよね。
高須
ああ、だからこそ作家の立場としてはやりやすいのかもしれない。
人によっては、自分の考えとかヴィジョンを最初から持っている
ディレクターやプロデューサーもいるじゃない。
一緒に進んでいくときに「ここはおかしいんじゃないの?」って
意見をしようと思っても、その人の中で作品として完結しちゃってる場合は
聞き入れてもらえない。そうなると崩せないんだよね、もう。
だけど、加地くんみたいにまっさらな人であれば、
僕ら作家が生み出してきたものをまず見てくれるし、話を聞いてくれる。
それはすごくうれしいことだし、受け入れてもらってる分
みんなの目線で企画を揉むことができるから、
結果的には面白いものが仕上がると思うんだよ。
加地
僕が後輩にいつも言い聞かせているのことがあるんですよ。
「俺は、天才肌じゃない。
秀才タイプで、ただ努力したらここまで来れた。
だから、誰でも努力すればこれくらいにはなれる。ガンバレ」
と。
高須
加地くんはそう思ってるかもしれないけどさ、
努力してもできない人はできなかったりするんだよ。
だけど確かに、俺も加地くんは「伸びたなぁ」と思う。
上からの目線でアレだけど、そう思うよ。
こんなに気持ちよく意志の疎通ができるディレクターになるとは、
ちょっと思ってなかったりしたんだよ。
加地
ディレクターって、いきなり伸びるタイミングがあるみたいですね。
努力して、結果が出て、自信がついてくると急に。
後輩ディレクターの藤城も、最近は結果出してますからね。
高須
あと藤井君(現テレ朝バラエティ班チーフプロデューサー)も
よくなったなぁと思う。
生放送の『虎ノ門』を毎週やったことで
後で編集でなんとかするっていう小細工が使えない分、否が応でも現場が
どんな空気になるか、細部にわたってシミュレーションするようになったんだと思う。
頭でイメージした完成形と実際に現場で起こる現象を対比することで……
なんていうのかな……企画の落とし穴みたいなものを見分ける目が
養われるような気がするな。
この目がテレビを作る演出家として、僕は一番大事だと思うんだよね。
加地
あっ、それ分かります。
高須
でも本当にいい演出って、それだけじゃないと最近思うわけ。
加地
どういうことですか?
高須
ちょっと偉そうなこと言わせてもらうと……。
きっちり作り上げる状況がイメージできるようになると、
おかしなもので、今度は逆に企画をあえて詰めきらないで、
演者にゆるい場所を、ほんの少し残すようにすることが
できるようにならないといけない。
加地
なるほど。
高須
だって現場には、何時間会議しても絶対出てこない出来事や、
作家には一生書けないような笑いの奇跡が時々うまれるでしょ。
本当に凄い演出家って、どこか一箇所ぐらいは
「ここだ!」ってところを、いい意味で遊んでいる。
構成の段階で、笑いの神を誘惑するフリだけを作って、ほくそ笑んで
本番当日を待っている。
そういう人が、優れた演出家だと思うんだよね。
加地
自分が優れてるってわけではないですが、
俺もネタをがっちり決めて本番に臨むのキライなんです!
だって現場で一ヶ所でも違う流れになったら、そこを広げたほうがおもしろい。
でも、台本どおりに戻そうとしたら絶対無理が生じるし、
演者もやりづらくなる。だから、流れを読みながらどう広げようかな、
どう着地させようかなって、常に頭をフル回転させてます。
その証拠じゃないですけど、俺のやってる番組の台本、ペラペラですもん(笑)。
でも、逆に言うと「フリ」と「オチ」にはこだわってます。
そこさえしっかりしていれば、あとは何をやっても、どう脱線しても大丈夫。
よいオチがあればあるほど、現場の演出は楽なんです。
最高の笑いの保険があるから、安心。起承転結すべてではなくて、
「起」と「結」だけしっかりしてればいいんです。
って今の話はAD時代に片岡飛鳥さんから教わったことなんですが、
ホント、俺の演出の基本になってます。
飛鳥さんにこの場を借りてお礼を言いたいですね。
飛鳥さんがいなければ、ここまで来られませんでした。
本当にありがとうございます。
高須
いい師匠がいていいねぇ~。
今度は加地君が、下に教えていく番だよね。
第6話へつづく
ディレクター
加地倫三 さん
1969年生まれ46歳
ロンドンハーツ・アメトーークの演出兼ゼネラルプロデューサー
他に三村&有吉特番、キリトルTVなどの特番も担当。