御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×加地倫三」 第6話

『ロンドンハーツ』や『アメトーク!』などのヒットで、テレビ朝日のバラエティに新風を吹き込んだ加地倫三さん。「やるキッス」や「ブラックメール」など、数々のひりつく企画はいかにして生まれ得たのか?そしてテレビ業界、バラエティ全体が元気を取り戻すべく、加地さんが抱いていた強い思いとは……?ナインティナインさんとの絆や、芸人とディレクターと作家のプロ意識にもグッとくるものがある対談でした。
取材・文/サガコ

インタビュー

第6話

2005.09

これからのぼくら、これからのテレビ

☆俺、泣きたい。

加地

あ、そういえば。俺、やりたいテレビがひとつあったの忘れてました。

高須

お、なになに? どんなバラエティ?

加地

いや、バラエティではなくて、学園ドラマなんですけど。

高須

ドラマ! しかも学園モノ!(笑)
いいね、いいねっ。

加地

もうお笑いとか全然関係なく、学園ドラマっていうのは本当にいいなぁと
思うんですよ。中村雅俊さんとか、武田鉄也さん、水谷豊さん……
あとはやっぱり『スクールウォーズ』ですよ!

高須

お笑い好きに『スクールウォーズ』見て育ったってヤツ、多いよね。

加地

あれって、どうしてなんでしょうね(笑)。
だから、学園ドラマを見て育った世代って言うのもあるんでしょうけど、
自分でも撮りたいなー、楽しそうだなーっていうのは心底思うんですよね。
あと、子供がいるから「こういうのを見て育ってほしいな」というのも
あるような気がします。
ほら、今、世の中が荒んじゃってるじゃないですか。うちの子供には、
まっすぐで気持ちいい学園ドラマを見て育ってほしいという思いも
あったりするんですよ。

高須

でもさ、今年『ごくせん』がヒットしたじゃない?
そういう世の中の期待は、絶対にあると思うよ。
必要なんだよ、学園ドラマの存在って。

加地

ですよね! 歳とってからでいいんで、やりたいんですよ。
『愛しあってるかい!』とか、ああいう真正面のコメディ学園ものとか、
すごく好きでしたし。ちょっとお笑い要素も入れられるでしょうし。

高須

それはいい!
明らかに仮想世界なんだけど、見ている時間だけはひたれる感じがいいよね。
俺、「未来日記」やったり、『ハニカミ』をやったりするのって、
その「ひたる」っていうのを大事にしたいからなんだよ。
てれくさいし、涙とかって恥ずかしいな~って思うんだけど、
でも、心のどこかで「泣きたい」という欲求を持ってる自分がいる。

加地

泣くの好きですよ、俺も。

高須

泣きたいよね? そういう欲求あるよね。好きなんだよね、俺も。
顔をぐちゃぐちゃにして泣きたくなるときない?

加地

ありますあります。
今、教育テレビでオンエアしてる『MAJOR』って野球アニメ知ってますか?
バカらしいほどまっすぐな、っていうストーリーがたまんないんですよ。
大切な話の回は、1人でビデオに見入っちゃうほどで。
そういうまっすくなものを、心のどこかで求めてる。
だから、学園ドラマがやれたらいいなぁと思ってるんです。

高須

いや、全然アリだと思うよ、それ。おもしろいと思う。

加地

バラエティでも、だからちょっと「泣きたいな」と思っちゃうんですよね。
おもしろいだけじゃなくて、最後にうるっと来させたい。
昔『電波少年インターナショナル』で、キャイーンがダジャレ言うためだけに、
ドイツとオランダの国境を目指す企画があったんですよ。
「これ、ドイツんだ? オラんだ!」っていうためだけに、
それぞれが別れて国境を目指すっていう。単純だし、馬鹿げてるんだけど、
最後の最後でほろっときちゃうんですよ。そういう企画がすごく好きで。

高須

笑いにも「涙」は必要なんだと思うんだよね。
それで浄化して、綺麗に終わるのかな~ってみせかけて、
また最後の最後で笑わせる、まさに王道の構成だよね。

加地

そうですね。ドラマだと、直球で勝負できるから、おもしろそうだなーと。
いつかやってみたいですね。

☆フジテレビに一番でいてほしい

高須

加地くんがこのままどんどん番組を作っていけば、
きっと作家も若手芸人もついてくると思うよ。
バラエティでどんどん強くなっていくテレビ朝日っていうのも、
僕はいろんな意味で期待してるよ。だから、がんばってよ。

加地

ありがとうございます。そう言っていただけると本当にうれしいです。
でも、俺、思うんです。
テレビ全体のバラエティを活性化させるためには、やっぱり
フジテレビが一番で……トップであるべきなんじゃないかと。

高須

んー、それはやっぱり巨人が強くないとプロ野球が盛り上がらない、みたいな
ことかな?

加地

ですね。ちょっと似てます。テレ朝はもちろん一番を目指してますし、
数字だけで言ったら横並びで一番取ってたりすることもあります。
だけど、お笑いの部分ではテレ朝が巨人、という図式は
あまり想像つかないんですよ。
俺個人の意見ですけど、
テレ朝はできれば、阪神タイガースの立ち位置にいたいんです(笑)。
だから、王者たるフジテレビの番組でなんか、こう……パクリとか
そういうのは勘弁してほしいんですよ。王者がそんなことしちゃいけない。
フジテレビにはどんどん新しいことをやっていてほしい。
勝手な期待かもしれませんけど、それを追いかけることで
周りの局も成長していくというのが、理想形です。

高須

俺もそう思うよ。フジテレビだけは、一歩先を行くべきだと思う。
バラエティに関しては、特に他局の模範でないとね。
まちがっても、他の局でやったことのあるような番組を
形を変えてオンエアするとかやるべきじゃないと思うんだよね。

加地

そういうの見てると、どんどん哀しくなっちゃうんですよ。

高須

王者の地位を守るっていうのは、視聴率を取るってことだけじゃないからね。

加地

目先の利益に目がくらんだら、この業界自体が崩壊してしまう。
何の未来もなくなってしまうと思うんです。

☆バラエティをつくる者として

加地

俺、バラエティをつくる人間として、今、僕らの番組を見てる若い世代に
「テレビっておもしろい! こんなテレビ作ってみたい!」って
思わせられなくなったらダメだと思ってるんです。
おもしろそうだなーと思われるためには、絶対に新しいことを
やり続けてなきゃいけない。かっこよくなきゃいけない。
そこは信念を持ち続けるべきところだと思うんですよね。
そうしないと、すべてがダメになってしまう。
この世界に希望があると、若い人たちに思われなくなってしまったら
バラエティに未来はない。

高須

すごく大事なことだと思うよ。
いいディレクターってくだらなくてバカバカしいところに、
数千万とかっていうお金を使ってしまったりする。
それは一般的に見たら無駄遣いでしかない。
でも、それがテレビに数秒映りこんだだけでおもしろいと信じたなら、
やりきっちゃう。
テレビってすげぇな、バラエティってすごいんだなって、
思わせられる一瞬って、そんなところにあるんじゃないのかな。
ただ金を使ってるっていう意味じゃないよ。
「ここだっ!」って演出に、踏み切れるかどうかだと思う。
そのためには時間がかかろうが、お金を使おうが関係ない。
おもしろさのために、自分を、そして芸人を「信じられるかどうか」だと思う。
企画じゃなくて、そういうところを、どんどんマネしてほいよね。

加地

そうなんですけど、目標にしすぎて悩むこともあります。

高須

というと?

加地

リスペクトしているだけに、演出とか画面作りとかが、
どうしても似てきたりしてしまうんですよ。
一時期、飛鳥さんの編集に似てきちゃって、それですごく悩んで、
矢部さんに本気で相談したこともありました。
アーティストが尊敬するバンドの曲調にどうしても似てきてしまう、というのと
同じような現象だとは思うんですけど。

高須

その時の、矢部の答えは?

加地

「お前が自覚して、わかってるんだったらいいんじゃないの?」と。
それでやっと開き直れました。
あの人が前を歩いていてくれるから、俺たち全力で追いかけられる。
だから、こじんまりまとまっていてほしくないなって、すごく思います。
やっぱり魂があると思うから。

高須

そうだね。だけど一ついえるのは、
飛鳥が日本のバラエティのすべてってわけじゃない。
他にも新しいものを作ろうと戦ってるディレクターはいるしね。

加地

ですね。

高須

飛鳥がつくりあげたものは確実にある。
だけど、飛鳥には撮れないものも沢山あるはずだからね。
ディレクターとしてのネームバリューが大きすぎて、
飛鳥はもう失敗ができない。
失敗できないってことは、しっかり(企画が)見えないと手がだせなくなる。
飛鳥が思い切れるところがある一方で、思い切れないところもあるってこと。
革新的な企画って失敗の中に隠れていることが多いからね
だから、テレビ業界を目指す人には
飛鳥のつくるバラエティはもちろんだけど、加地くんのつくるバラエティも
見ていってほしいし、深夜帯でも、バラエティー以外でも
志あるディレクターのものはみんな見てもらいたい。
彼らが少しずつ芽を伸ばし始めてる時期だからね。
深夜番組とか、若手がつくってる番組を見て「これは…!」っていうような
テレビマンのかっこよさを見つけていってほしいと思う。
加地くんは?これからテレビ業界目指す人に、なにを期待する?

加地

そうですね。いろんなものをたくさん見てもらって、何がおもしろくて、
何がダメなのかちゃんと理解してほしいですね。
最近、テレビのルールがめちゃくちゃじゃないですか。
某ネタ番組は芸人のコントにスーパー入れたり、信じられないようなことを
平気でやってる。ホントはそれはとんでもなく失礼なことなのに、
それを当然だと思って見ている人が多いはず。
だから、せめいお笑い番組を作りたいと思う人々には、
それがダメだという認識を持っていてほしいです。
あとは、いろんな規制とかに負けないで、おもしろいと思ったことは
どんどんやってほしいですね!
笑いが好きな人に1人でも多く、この業界に入ってほしいです。

おわり

ディレクター

加地倫三 さん

1969年生まれ46歳
ロンドンハーツ・アメトーークの演出兼ゼネラルプロデューサー
他に三村&有吉特番、キリトルTVなどの特番も担当。

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