御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×片岡飛鳥」 第4話

『めちゃイケ』をはじめ、芸人バラエティを牽引し続けるイメージが強いディレクター・片岡飛鳥さん。その硬派なまでの「笑い」に対する強いこだわりがガッツリ詰まったインタビューです。テレビ番組を作る際に必要なパッケージ感の話、若手を育てる技法についての話などは、業界のみならずさまざまなビジネスや企画にもあてはまるヒントが詰まっています。笑いを愛する、すべての人へ。
取材・文/サガコ

インタビュー

第3話

2001.01

嫌われたくないから、育てる?

高須

『ごっつ』やら『笑う犬』のディレクターの小松も
きっちり笑いを作れるディレクターとしてすごいんだけど、
下に弟子のような若手が育ってるかというと、
どうもそれも無い感じがするんだよなぁ。

片岡

うーん、人のことは分からないけど、そうなのかなぁ。
あのね、若手を育てるってことで言えば
僕が育ててるとしたら、それは僕自身の経験から来てるんだよね。
僕の師匠に当たる、三宅さんや吉田さんってディレクター陣は、
ホントはあんまり教えてくれなかったの。

高須

あはは(笑)。そうなの?

片岡

そうそう。具体的なことは一切言わないっていうか、
少なくとも当時の僕は、そんな気がしてた。
だけど、それが良かったのよ。
教えられすぎずに、20代で独り立ちしなきゃならないような流れになって、
じゃあ先輩陣に似ないようにしよう、と思ってきたから。

片岡

でも、今の自分の状況を見ると、
戸渡(めちゃイケの若きディレクター)居るでしょ、
あいつにはホントに「教えてきた」って思うなぁ。
かつてはもう、本当に手取り足取り。
彼は三宅班の空気を吸ったこともなかったし、
最初は全く笑いの要素は無かったじゃない?
だけども彼は、頭が良かった。
学習して、吸収できる力があるように思えたから、
俺は彼には教えればいいんだ、教えれば分かるだろうってことで、
とことんいろんなことを言葉にして教えてみたわけ。
だけど、教え込んだら教えこんだで、今度は
「オリジナリティ」の問題が天秤にかかってくることが分かった。
そういう意味では、俺は先輩達に具体的にはほとんど
「教わってなかった」からね。
そこが図らずも自由だったっていうのはあると思う。

高須

うん。

片岡

先輩の背中を見て、ほとんど背中だけを見て、
「俺は真似しないぞ」ってところから入ってる分、
オリジナリティに関しては入り口が広かったわけ。
それは、今になればかなり得してたと思う。
ところが戸渡がはじめて『めちゃイケ』のコーナーを担当して作った時に、
めちゃイケ流のテロップをきれいに踏襲してたのよ。
それはものすごく衝撃があった。
俺は彼に、そういうテロップにしなさい、なんて
一言も言わなかったのに、彼はそうした。
これが何とも微妙でさぁ(苦笑)。
俺が教えてしまった『めちゃイケ』ってもののパッケージ感が
強すぎたのかなぁって思っちゃったりして、やや複雑だったわけ。
彼がものすごく優秀であるとして、俺が何かを教えることができてたとして、
じゃあその次……「戸渡というディレクターの誰にも似てない色」って
何色なんだろうか、と。
戸渡ディレクターのオリジナリティーというものが、
この世界で食っていく上では問われていくよね。
ただ彼は、俺の教えたことはすごく速く吸収してた。それは確か。

高須

いや、戸渡は優秀だよ。
ホントに短期間で覚えたなぁって、作家として思ったもん。
……俺、実を言うと、番組始まったころ戸渡って人間は
お笑いのディレクターとして「向いてない」と思ってたもん。

片岡

あ、それはそうだよ。決して向いてるわけじゃないよ。

高須

でしょ?
だって、お笑い好きでも何でも無かったわけやんか。
彼は、飛鳥からいろんなこと吸収して、半ば強引に「芸人精神」を組み込み、
自らのアーティスト筋肉を「お笑い筋肉」に肉体改造したんであって、
基本的な身体は違ってた。

片岡

元々は、オザケンの後ろでパーカッションやってたんだからね(笑)。
……あ、俺と高須さんだけ分かってても仕方ないから、説明しようね。
『めちゃイケ』の戸渡っていうディレクターは、
元々ミュージシャンだったのよ。

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ええ!?

高須

えーっと、東京ナンバーワンソウルセットっていう
バンドの人達と一緒にいて、『HEY!HEY!HEY!』とかでは
小沢健二の後ろでパーカッションたたいてた(笑)。
それが、何の因果かお笑い番組のディレクターになった。

片岡

多分、お笑いの血が流れてる人間ではなかったんだよね。
まー、今にして思えば、逆にそれがよかったのかも知れないけど。

高須

でも、今や彼もお笑い好きに。いや、お笑い好きと言うより
「芸人好き」になってしまった。
愛してしまってるやんか、「芸人」という生き物を(笑)。
もう、今までの十何年間の音楽という血を、
なんやったら捨て始めてるやん!(笑)

片岡

そうそう。あいつ、今では言うもんね。
「その企画は芸人の気持ちを分かってないんじゃない?」とか、
平気で言うんだもん(笑)。

高須

それを聞いて、俺はもう、びっくりよ(笑)。
「そんな人間じゃなかったやん!」、
「芸人なんて、アンタ、一言も言うてなかったやん!」って。

片岡

だから、スタートは遅かったの。もう32歳かな。
ちょうどいい歳になって、後れてた分は完全に追いついた。
じゃあ、これからどうしようってことだよね。

高須

そういう後進が育ってるって素晴らしいことだよね。
杉本っちゃんにも、土屋さんにも、おそらくそういう後輩は居ないと思うからね。
育てるところまでは気が回ってないと思うなぁ。
自分の個性で打ち出す感じが、一番楽しくて、快感で、
そんなことまでしてられないって感じなんじゃないかなぁ。

片岡

というか、若いディレクターがなかなか育たないってのも
分かる気がするんだ。
なぜなら、自分の番組作りのノウハウを事細かに誰かに教えるってことは、
企業秘密をばらすことになるんだから。
それは絶対怖いよ。怖いと思うもん。
しかも、若手に教えるんだよ?
追いつかれて、超えられたら困るじゃん(笑)。
でも俺はそれを逆に、ばんばん言っちゃうからね。タダで。

高須

だからー、人が受け継いでいって、育ってんのよなぁー。

片岡

俺が若い頃に自分で編集してつくったVTRってさ、
上の吉田ディレクターにばんばん切られたわけよ。
それはもう、有無を言わさず切られちゃう。
そしたら、すっごく憎んでしまうわけ(笑)。
何で切るんだ、どうして切るんだ?
理由も言われずに、ただ切られてしまうのが
腹がたって腹がたって、仕方がなかった。
俺は、それを今でもずっと覚えてるんだよ。
そうしたら、いざ自分の立場が変わって、
若手の戸渡や近藤がつくってきたVTRを見て、
手直しを入れるようになった時に、
必ず説明してやるようにしようと思ったの。思えたの。

高須

それは、下の人間にとってはありがたい話や。

片岡

15秒、このシーンをカットしますっていう時に、
何故、君たちが選んだ15秒を、俺は選ばなかったのかってことを
説明してから、切る。
それは、さっき話してたコントのセットのおぼろ豆腐を
説明するかしないかにも通じてくることだと思うんだけどね。
切ってしまう15秒の中に、確かに笑いはある。
だけど、この15秒の笑いを捨てることで、
30秒後がもっと笑えるってこともあるだろう、とね。

そうして最初は、実際にそれを編集して見せてやるわけ。
それは、時間がかかってもいいから、必ずやって見せる。
「どうだ?」
「はい、確かにあの15秒が無い方が、後の笑いが際だっていておもしろいです」
「そうか。よし。じゃあ、切るぞ?」
みたいなことから始めていくわけ。
そうしたら、納得して素直に吸収していくんですよ。

高須

なるほど。

片岡

んー……ま、単純に「嫌われたくない」って弱さが、
俺にあるってのもあるんだろうけどね。(笑)

高須

そこには、飛鳥に入ってるプロデューサーの血っていうのも
あるような気がすんのよねー、俺は。
自分だけがいいや、とかってちょっとでも思っちゃったら、
実際、自分だけがいいことにしかならないもの。
それじゃチームワークが基本のはずの番組づくりってのは
崩れていくし、何より感性が繋がっていかないんだよ。
受け継がれていかないんだよ。
番組をまとめていくのがプロデューサーってものの役割だとしたら、
飛鳥はそれも、しっかりやれてると思うよ。

第4話へつづく

ディレクター

片岡飛鳥 さん

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