御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×武内絵美」 第5話

『ミュージックステーション』など、テレビ朝日の顔ともいうべき番組に次々と出演されてきた武内アナにインタビューしたのは2006年ごろのこと。ステキな居酒屋で、女子アナとして課せられる様々な番組への柔軟な対応や、アナウンサーの仕事の楽しさ、難しさについて楽しく語っていただきました。キーワードは「緊張感」。

インタビュー

第4話

2006.06

本当に「おいしい仕事」なの?

本当に「おいしい仕事」なの?

高須

アナウンサーって、番組ごとにまったく違うことを要求されるでしょう。
そのへんの切り替えの難しさって、ないの?

武内

私は今年の4月まで『報道ステーション』ではスポーツ、
『スーパーJチャンネル』では報道ニュース、
『愛のエプロン』ではバラエティの仕事をしていたんですけれど、
まずバラエティだと基本的な進行の台本はあっても、
実際にはあってないようなものじゃないですか。
全部の流れの中で自分の言葉で話さなくちゃいけないですよね。
一方で、ニュースはひたすら原稿。
自分の言葉で伝える部分なんてほとんどないんですが、
その原稿の伝え方がとにかく難しいですね。
いかに内容を把握して分かりやすく伝えるか…だから、
バラエティとニュースは、ほぼ正反対のことですね。
そして、『報道ステーション』のスポーツについていえば、
これは「ふたつの中間」という感じですね。自分の言葉も必要だし、
原稿も的確に伝えなくてはいけないし。
その場の雰囲気に応じて、アドリブで会話をしながら、
「VTRふり」のコメントなど決まったことも言わなきゃいけない。
だから…それぞれに本当に難しいんですよ。

高須

武内としては、どれが一番やりやすいの?

武内

私は…うーん。あのぉ、正直に言うと、
このアナウンサーっていう仕事にそんなに向いてないと思うんですよ。
だから、どれが得意でやりやすい…なんて事もなくて…。

高須

そんなことないやろ!向いてるから仕事があるんやし。
ちゃんとテレビに出て伝えてるわけやんか。

武内

そこのところに自信が無いというか…。
確かに、この仕事をしていて良かった、とか楽しいと思うときはありますよ。
会えない方に会う事が出来たり、行かれない所へ行かれたり。

高須

そりゃそうやって。こんなに華やかで楽しい仕事はないよ。
この対談を読んだ人は、「女子アナっていいなぁ」と思ってると思うよ。
今までの仕事の中で「アナウンサーになって良かったなぁ~」と思った
出会いとか、出来事ってどんなこと?

武内

やはり、なんといっても、アテネオリンピックですね。

高須

オリンピックか~!いいなぁ!

武内

ギリシャに1ヶ月間くらい行っていたんですが、それぞれの競技場が遠いので
時間的な制約はありますが、自分で移動時間も考えて予定を立てれば、
一日にた~くさんの競技を見ることができるんです。楽しかったですねぇ。

高須

どんな瞬間が一番熱かった?

武内

やっぱり北島康介選手が金メダルを取った瞬間とかっ!!…興奮しましたよ。
あと、事前の取材から柔道で金メダルを獲得した
谷本歩実選手をずっと応援してたんですよ。
やはり谷亮子選手などに比べると知名度はありませんでしたが、
取材でお会いしたら、とても明るいし、お話していて楽しいし、
何よりも気持ちが熱くて強い選手だったので
「絶対に何かやってくれそうだ」と思っていたんですね。
勿論、金メダルなんてそう簡単に取ることが出来るものでは無いという事は
分かっていたんですが、試合が始まると見事な「1本勝ち」を決めてどんどん
駒を進めていったんです。そして見事に金メダルを獲得したんです!
その時は本当に嬉しかったです。

高須

そういう選手に直に触れて「あっ、この人今何かが下りてるな」って感じたり
思えたりするのもアナウンサーの特権やもんね。

武内

そうですね。
世界の頂点に立つ選手たちの姿を間近に見ることが出来て、感動的でした。
あとは、開会式など、とにかく雰囲気が楽しかったですね。
オリンピックならではの、あのお祭りの空気が。

高須

あと、素人考えみたいになるけど、
食べ物のレポートとかで美味しいもの食べられるのもよくない?

武内

取材でおいしいものを頂くのは、嬉しいですけど全く楽しくないです。

高須

なんでよ?

武内

だって、本当に本当においしいもの食べているのに、
目の前でカメラが回っているから「なんか的確なコメントで伝えなくちゃ」
なんて余計なことを思ってしまうので、
心の底から味わって楽しむことが出来ないんです!!

高須

ほんと?俺らからしたらウン万円のステーキ食ったんだったら
自然と言葉なんて、ほっといても出るやろ!って思っちゃうけど
そうじゃないんだ。
あっ!放送作家の、海外の「ロケハン」と一緒だ!
(注)(ロケーションハンティング:現地を下見すること)
みんなに、「ただで海外行けてええなぁ~」って羨ましがられたりするけど
あれは全然いいことないからね。

武内

どうしてですか?楽しそうじゃないですか。

高須

やっぱり海外ってさ、完璧に自分をオープンにしていきたいやんか。
でも、仕事があると絶対自分を完全なるオープンにはでけへんやん。
「この場所、テレビで映すとどうかなぁ」とか
「あのタレントさんやったら、ここで何言うかなぁ」とか、
そんなんばっかり気になって。なんにも面白くない。
せっかく仕事を休んできてるのに、なんにもリフレッシュできへんねんもん。
海外行くなら、自分のお金で行った方が絶対いいな、と。

武内

それはそうですね。
仕事で行っても開放感に限界あるから、完全にお休みで行った方がいいですよね。

7年目でわかったこと。

高須

しかし、7年目ともなれば周りの期待も大きい時期でしょう。
「武内だったら大丈夫でしょ」みたいな。

武内

それは感じることがあります。もう新人ではないですからね。
経験があるんだから、それなりにできるだろう、というような。
自分の中ではその期待に応えられていないなぁ、と実感する瞬間がよくあって
寝る前に思い出して、「いぃ……」と奥歯をかみ締めることもあります。
あと、単純なミスが重なったり、ニュースでうまく伝えられなかったり、
すべて自分の責任なので、嫌気がさすこともありますよ…。
でも、最近はちょっと吹っ切れてきた気がします。

高須

「もういいや、できることしかできないよ」っていうような?

武内

そんな感じですね。大きい失敗小さい失敗を繰り返してきて、
いろんな人に声をかけてもらって励まされるたびに
「あぁ、これをいい経験にしていこう」って思い続けてきたんだけど、
なかなか心底思えてはいなかったんです。ずっと後悔だけをしてました。
それが、やっと「いい経験にしていこう」って思えるようになってきたんです。
そう思うしかないんだな、って思うのに7年かかりましたね。

高須

すごいなぁ~。
俺なんて放送作家これだけやってても、なかなかそんなこと思われへん。
まだまだ後悔ばっかりしてる。
「どうしてこうしなかったんだろう、ああしなかったんだろう」
「もっと頑張れたはずなのに」って、そんなことばっかり(笑)。
どれだけやったって満足することなんてないとは分かってるんだけどね。

武内

私だって「もう一回やらせてください!」と思うことはよくあります。
でも、実はこの仕事には絶対的な評価というのはなくて、
自分で「今日は完璧!!うまくいったな!!」と思っていても
周りの人はそうは思っていなかったり、
「今日はもう焦ってばかりで最悪だ~」と思ってると、
「臨場感があってよかったね」と誉められたり…。
自分の評価と周りの評価が違う事があって始めの頃は混乱していましたね。

高須

それはすごくよく分かる。だけどアナウンサーっていうのは、
自分の意志だけで全ての喋りをこなすわけではないでしょう。
ある時には、台本に書いてあるとおりのことをきちんとこなすことが要求される。
そして、その台本のクオリティに対して疑問に思うことがあったとしても、
それをこなさなきゃいけない。
周りの評価が「番組の評価=アナウンサーの評価」になることもあるわけでしょ。
そこにジレンマとかあったりしないの?

武内

私は今、自分の周りのことだけに視野が狭まってるので、
番組のコンセプトであるとか、与えられた役割や台詞がどんなクオリティか
という部分にはまだ目が行かない状態ですね。それよりも
「与えられた仕事をどれだけきちんとこなせるか」というところに重きを置いています。
特にバラエティだと、現場で言ったことが編集されてオンエアされる。
編集の力って本当に大きくて、自分では「あのコメントは使われるな」
というようなシーンも、カットされてたり、逆に「あー、やっちゃった」
っていうような場面がとても面白くなっていたり。
だから番組そのものや台本に重きを置くよりも、
現場で「どれだけ自分が納得できる仕事ができるか」が大切かな、と。

高須

確かになぁ、編集でぜんぜん変わるからな。

武内

でも、どうあったとしても、自分が夜、気持ちよく眠りにつけるのは、
「あぁ、今日はちゃんとできたなぁ!」っていう場面があった日なんですよね。
何度も、何度も思い返して(笑)。自己満足です。

高須

あーっ、それすごくよくわかる!(笑)
だから、自分がする自分の評価って大事だよね、こういう仕事はね。
最終的にはそこをしっかり信じてないと、やっていけないもん。

武内

そうですね。

第5話へつづく

アナウンサー

武内絵美 さん

1999年にテレビ朝日に入社し、
「愛のエプロン」「ミュージックステーション」や
アテネ・トリノなど夏冬4回の五輪中継に携わる。
2004年の「報道ステーション」番組開始からスポーツコーナーを担当し、
現在は報道フィールドリポーターとして取材をしている。

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