御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×武内絵美」 第6話

『ミュージックステーション』など、テレビ朝日の顔ともいうべき番組に次々と出演されてきた武内アナにインタビューしたのは2006年ごろのこと。ステキな居酒屋で、女子アナとして課せられる様々な番組への柔軟な対応や、アナウンサーの仕事の楽しさ、難しさについて楽しく語っていただきました。キーワードは「緊張感」。

インタビュー

第5話

2006.06

恋愛と、存在感。

恋愛と、存在感。

高須

アナウンサーって見られる仕事でもあるでしょ。
いいことがあったり、逆に悪いことがあったりしたら顔に出るもの?

武内

うーん、どうでしょう。人によりけりじゃないでしょうか。

高須

俺、こないだ作詞の仕事をする機会があって
「恋愛」をテーマに詩を考えることになったんだけどさ。
もう気が変になるくらいに人を好きになったりとか、
その人のことを思って3日も眠れない…みたいな熱い感情を久しく経験してないもんだから、
書けないこと書けないこと…(笑)。

武内

えっ、昔はあったんですか?そういうすごい恋が?

高須

あったよ!昔はめっちゃあったよ!

武内

すごいですね!私、そういうの全くないですよ!

高須

うそつけ!一回くらいあるやろ!

武内

ないです、ないです、誰かを想って3日も寝られないなんて一度もありません。

高須

いや、本当に3日も寝られないわけじゃないけど(笑)。
でも、眠ることができないほどに気持ちが動いてる時期ってあるやん。

武内

それは、つきあい始めてから、ですか?

高須

いやいや、片想いの時とか。

武内

ふーむ……なるほど(笑)。

高須

……「なるほど」言うてるで、この人(笑)。
武内……恋とはそういうものよ?(笑)

武内

私はどちらかというと冷静なほうですから(笑)。

高須

俺、笑いならさ、毎日でも書けるのよ、コントとか企画とか。
だけど作詞で「恋」を書けって言われると、
その気持ちを分かってないと絶対に書けないんだなって思ったね。
恋愛をしてないと表現できないのよね。
映画を見ても、芝居を観ても自分の表現としては還ってこないというか。
詩を書くのに汗が出るのよ、イヤな汗が(笑)。
笑いを書くときには苦しいことはあっても、そんな汗はでないもの。
情報として恋愛を理解していてもダメなのよ。
その中に身を置いてないと、生きた言葉が出てこない。

武内

AIK Oさんの歌詞ってスゴイですよね。
いったいどうやったらそんな詩が書けるの、というくらい。
「その愛しい思いを、そう表現するのか~」わかる分かるみたいな。

高須

たしかに彼女の歌詞はいいね。俺も聞いてびっくりすることある。
だけど、それはやっぱり経験してるから書けるのよ、きっと。

武内

アーティストの方は感情を表現して何かを伝える事が大切だと思うんですけど、
アナウンサーはそういう感情を出しすぎない方が良いと私は思うんです。

高須

恋をしては仕事に良くない影響が出る、ということ?

武内

いえ、そうではなくて…なんていうんでしょう。
恋はしてもいいんですけど、それが顔に出たり、
表現として表にあまり出してはいけないと思うんです。
例えばニュースを読んで伝えるときには、自分の存在感を消した方がいい。
淡々と伝えすぎるのもダメだとは思うんですけど、
あまり感情が入りすぎるのもよくないんじゃないかな、と。
例えば男性のアナウンサーのネクタイがちょっと曲がってるだけで、
見ている人は「あ、この人ネクタイ曲がってる」っていうことに気が行ってしまって、
ニュースからは視点がずれてしまいますよね。
だから、服装や衣装にも極力気を遣います。
自己主張であれ、何気ない仕草であれ、存在感を醸し出しすぎると
ニュースを読む者としてはよくない、と思うんですね。
視聴者の方はニュースを知ろうとしているのに、その邪魔になってしまうわけですから。

高須

うんうん、わかるわかる。

武内

もちろん、時にはアナウンサーにだって自分の言葉で話す事は必要だし、
私はこういう存在ですよっていうアピールも必要だとは思います。
でも、ニュースを伝える時には極力、視聴者の方がニュースの内容に
集中できる環境を作らなくてはいけないと思います。

高須

それはすごいな!確かにそうだわ。
「この人、こんな恋愛してるんだろうなー」とか思ったりしたら、
その人の読むニュースはもう聞けなくなるもんね。
歌手や役者であればそこで感情移入できるけど
ニュースには感情移入いらないんだもんね。

武内

番組や仕事の内容にもよるので、
その時々で変えなくてはならないので難しいと言えば難しいです。
スポーツの実況だとそれなりに感情込めてやらないと臨場感がでないですし、
事件や事故の現場では「皆さんが知りたいと思っている情報はこれだ!」
というのに対して、痒いところに手が届くリポートをしなくてはいけないですよね。
あと、視聴者の皆さんの気持ちをいかに理解するかという意味で、
一種の「感情移入」が必要とされる場面もたくさんあるんです。
『スーパーモーニング』という番組では、私の先輩の渡辺宜嗣アナウンサー
がMCを務めているのですが、その進行が素晴らしいんです。
例えば1つのコーナーが予定時間をオーバーしていても、
「ここは視聴者が気になってるところだ!」という質問があれば
コメンテーターの方に尋ねるし、場合によってはCMを挟んででも
「さっきのつづきですが…」ということで話を続けます。
視聴者の皆さんのニーズに合わせる、ということがいかに大切で難しいか、
ということでとても勉強になるんですよ。

高須

なるほどなぁ。『スーパーモーニング』は今、人気あるらしいね。
『ニュースステーション』がすごかったのも、
久米さんが持っている「視聴者を理解するチカラ」だったりしたから、
テレ朝が持ってるそういうイメージと『スーパーモーニング』とが
ぴったりきてるのかもしれない。

久米宏さんのスゴさと、顔の筋肉のチカラ。

高須

久米さんっていろんなカラーを持ってる人。
他のアナウンサーであるとか、アナウンサーを経て司会者になっていく人達が
自分のカラーを三色くらいしか持っていないのに対して、
久米さんは7色くらいあるようなイメージ。
怒る久米、泣く久米、笑う久米、世の中をバカにする久米…と
どれだけひきだしがあるんだろうと思うくらいに。

武内

うんうん。

高須

大概の司会者は「あの人はよく泣く人」とか
「あの人は怒るキャラ」とか
「あの人は世の中に一言物申すキャラ」とかで片づけられる。
だけど、久米さんはどれをとっても
「あぁ、久米さんってそういうところあるよね」って言えるのよ。
普通は世間を恐れるから、自分のキャラがついてきたら
どんどんとキャラを絞っていって、
ある程度固まったら「はい安心」ってなものなんだけど、
あの人は全部持とうとしてた気がする。

武内

それをまた『ニュースステーション』という一つの番組の中で
次々と色を変えながら見せていたのが、また素晴らしかったですよね。

高須

そうなのよ。昨日と今日で違うし、ニュースによって顔が違う。
だから、あれだけ続いてたんだろうね。飽きなかったもん。
いやみの言い方もうまかったよなぁ(笑)。

武内

上手でしたねぇ。

高須

日本人っていやみ言うの下手な人種だと思うのよ。
顔が引きつるし、場も引きつって変な感じになる。
だけど久米さんは、その引きつりをものすごく上手にほぐして、
自分も場の空気もサッと切り替えるのよね。

武内

うんうん。

高須

政治家とのクロストークにしても、いやみ言って、いやみ言われて
引きつった顔に動揺は出てるんだけど、それをそのまま背負っていく感じ。
普通は、動揺から逃げだそうとして変な顔になるはずなんだけど、
そこを顔の筋肉でグッと表情を変えていく。
芸人さんにもそういう芸がある。例えばちょっとすべったりして、
場の空気が妙になったりとか、「これはおもしろいんだろうか?」って
不安が一瞬よぎったときに、それを顔に出したら負けになる。
そこで踏ん張って、「いや、大丈夫!おもしろい!」と信じて、
動揺を顔に出さないように、無理矢理に顔の筋肉で笑顔にするのよ。
そしたら、場の空気はその顔に引っ張られていくのね。

武内

顔の筋肉のチカラ…。

高須

顔は感情を表現する場所だから、普通の人ではそこまでのことはできない。
やっぱり訓練された人にしか持てない能力だと思うんだよね。
久米さんはもちろん、武内にだってその力は少なからず備わってると思うよ。
表舞台で何度もそういう場をくぐってきてるわけだから。

武内

いや、私にはとてもとても…。

高須

きっとあると思うな。これから身についていくものでもあるだろうし。

武内

そういう視点で見たことなかったので、面白いです!!
高須さんって、思いもつかないような角度から物事を見ていらっしゃるんですね。

高須

まぁ、放送作家はそれが仕事やからなぁ。

第6話へつづく

アナウンサー

武内絵美 さん

1999年にテレビ朝日に入社し、
「愛のエプロン」「ミュージックステーション」や
アテネ・トリノなど夏冬4回の五輪中継に携わる。
2004年の「報道ステーション」番組開始からスポーツコーナーを担当し、
現在は報道フィールドリポーターとして取材をしている。

ON
OFF