御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×大岩賞介」 第4話

萩本欽一さんの座付き作家集団「パジャマ党」の1人である大岩さん。テレビがまだカラー放送になるかならないかの頃から、バラエティーに携わってこられた重鎮です。萩本欽一や明石家さんま、そしてダウンタウンという、稀代のタレント達とともに長く歩むことになった二人の、数奇な一致と時代の違いとが、じっくり語られた対談です。「若くない」というところからの大胆で冷静な打開策、そしてテレビでコントをやることについての熱いトークは必読です。

インタビュー

第3話

2001.11

大将とさんまさん

高須

さんまさんって、ずっと闘いっぱなしですよね。
僕はあれは本当にすごいと思うんです。
芸人って、そうそう闘い続けられるものじゃない。
テレビという場で、となるとなおさらですよね。

大岩

確かにねぇ。さんまちゃんは、すごいよ。

高須

紳助さんとかって、やっぱり一歩退いた感じが
あるじゃないですか。
それって、決して悪い意味じゃなくて、
年をとるにしたがって、芸能界での地位が変わっていくに従って
そうするのがベストだ、っていう戦略だったと思うんですね。
だけど、さんまさんはずっと先頭にいるでしょう。

大岩

昔は「絶対2番目がいい」と言ってたのにね。楽だから。
それが所ジョージさんに言わせると、
さんまちゃんはすでに富士山の頂上らしい。
さんまちゃんに言わせると、所さんがおだてるから調子にのって、
こうなったんだ、って。
でも、プラーっとして1番になったわけじゃない。

高須

そして、そのための苦労をものともしないし、
努力してる姿を一切見せない。
どこまでが舞台で、どこからがプライベートなのか分からない。
大岩さんは、何か知ってるんじゃないんですか?

大岩

いやー、知らないよぉ(笑)。一緒に寝てないし。
さんまちゃんは楽屋でもどこでも、あの感じだもの。
もし、彼が杉本高文(本名)に戻る瞬間があるとすれば、
本当に一人だけの空間に入ったときだけじゃないのかなぁ。
それ以外は、ずっと「明石家さんま」なんだと思うよ。
しかもそれを楽しんでるようだしね。

高須

そうやって闘い続けてる人だからこそ、
そのオーラに、ほかの芸人がびびっちゃうっていうのは
あると思うんですよ。

大岩

ああ、それはあるかもしれない。
いつまでたっても現役だからねぇ、
先輩や先生になりきらないんだよね。
「よろしくお願いします」って、ぶつかり稽古を
挑もうにも、本気出されちゃう。
それはぶつかる方の芸人さんにしてみたら、
若手じゃなくても怖いだろうね。

高須

ダウンタウンの二人も、同じようなオーラを出すんですよ、きっと。
若手の芸人にしてみれば、なんか小手先でやっても、
全部見破られてそうな気がするんですって。

大岩

あのへんの人たちは、自分がどうやったらおもしろく見えるのか、
どういう現場ならば大丈夫なのか? ってのを
本当に敏感に感じ取るじゃない?
いつも冷静なもう一人の自分が居る。

高須

そうですね。
だって客前に一歩出た週間に、その場の空気を読みとって
人の顔の僅かな変化を見て、どうやっていじろうかを瞬時に決めるでしょう。
あれって、下手な心理学者より、
人の心読みとる力があるんじゃないかな。

大岩

もちろん、その感覚こそが生命線だから当然なんだろうけど。
研ぎ澄まされているよね。
そういう意味では、彼らが絡まないっていう選択肢は
正しいんだと、僕は思うな。

高須

そうですかね。さんま&紳助とか、
そういった夢の競演って見たいけどなぁ……。

大岩

『両雄、相並び立たず』じゃないけど、
やっぱり一緒の場ではおもしろくならないでしょ。
過去にもね、55号とドリフターズが全盛期に特番で
テレビ初競演した番組をやったけど、お互い探りあいだった。

高須

ダメでしたか。

大岩

うん、期待が大きすぎたんだね。
互いにショートするし、遠慮も出るんだよ。
決まったなわばりが無くなって、勢いがなくなっちゃうんだね。
それはもう、仕方ないよ。
笑いって、そういう空気と空気のものだからさ、
うまく混ざり合うには互いが激しすぎて、難しすぎるんだ思うよ。
だから、笑いのオールスターっていうのはあり得ないと、
僕は思ってる。やるならスターになる前だね。
あるいは『タモリ・たけし・さんま・ゴルフのビッグ3』みたいな、
純粋なコントじゃなくて遊び感覚なら面白い。
それでも、さんまちゃんがうまく中和剤になっているから
いいムードになれるわけで。

高須

出来ないもんでしょうかねぇ……『ひょうきん族』みたいに。

大岩

『ひょうきん族』なんてのは、当時はスター発展途上人ばかりが
集まっていたからうまくいったんだと思う。
あんな番組、もう難しいんじゃないかなぁ。

高須

今考えたら、よくあんな番組が実現してましたよね。

大岩

で、もう一つあの番組がやれた理由っていうのは、
裏番組として『8時だよ!全員集合』という怪物番組があったから。
あの頃のドリフターズっていったら、本当にすごかった。
誰も勝てなかったんだから、数字的にも、人気的にも。
だからもう、半ば諦めてたんだよね。
そうじゃなかったら、あんな風に好き勝手やれてないって。

高須

なるほどなぁ。

大岩

負けてもともとだっていう気持ちで、みんながやってた。
それがなかったら、ああはいかなかったよ。
今、ちょうどタリバンを攻めてる多国籍軍みたいなもんだ(笑)。
『ひょうきん族』も明確な目標がなかったら、
そんなに団結してないかもしれない。
何事も成長するにはライバルは必要だね。

高須

大岩さんは33年、作家やってらっしゃるじゃないですか。
今もたくさん番組があって、僕は本当にすごいなぁと思うんです。
僕たちの年代の作家ですら「今後どうしよう?」「どうする?」
って、不安を引きずりながらやってたりするんですよ。
いったいどれぐらいまで放送作家で食っていけるんだろうかって、
みんな、そのことを常に考えている。
大岩さんがひょっとして、今いちばん長く
「放送作家」としてやっていけてる人なんじゃないかって思うんです。
ほかの肩書きにならずに、というか……。
そのことで不安みたいなことは、無かったんですか?

大岩

無かったわけじゃないよ。
僕がこの商売で食っていこうかな、いけるかな、と
思い始めた20代の頃にね、師匠のはかま先生に訊いたんだよ。
「この仕事って、年齢的にいつぐらいまでできるもんでしょうか?」って。
僕は「仕事を決める」ってことは、
一生それでやっていくってことを決めることだ思っていたからね、当時。
そういう心づもりで「いつまでやれますか?」って訊いたんだよ。
そうしたら、先生は
「バカヤロー、おまえ。こんな商売は34歳までだよ!」って、
はっきり言われちゃった(笑)。

高須

うわ、僕もうとっくに過ぎてますよ(笑)。

大岩

俺だって彼方へ過ぎちゃってるよぉ(笑)。
当時、ものすごくはっきり言われたんだよね。
「この仕事は感覚の仕事だぞ?
そんなもん、長くやっていける訳ねぇだろっ」ってさ。
その言葉を聞いたときは、まだ25、6歳だったからね。
「あーそうか。そんなもんかー。じゃあ、とりあえずは
10年ぐらい大丈夫なんだったらいいかー」と、気楽にとらえてた。
けれどやがて、そのリミットの年代を通過していくじゃない?
その時にはもう、一切考えなくなったなぁ。
考えなくしちゃった、というか。

高須

リミットとかについてのすべてを?

大岩

そう。開き直り。ダメなときはダメ。
理屈で考えずに、もっと単純に、シンプルにとらえようと思った。
それはどういう事かって言うと、
自分が、自分で、自分の作ってるものを「おもしろい」って
思えなくなった時がおしまいなんだな、って。

高須

うんうん。

大岩

ところが実はそれって、結構な独りよがりなんだよね。(笑)
で、この自分の独りよがりを冷静に判断できなくなると
ホントの勘違いになってしまう。
だから、さっきも言ったように、優れた演者さんみたいに、
もう一人の冷酷なジャッジを下す自分を育てる。
なかなか育たないんだけど、強引にでも育てる。
そりゃあ勝手に自分のつくるものを「おもしろいっ」て思うだけなら
自由だよね。そう思わなきゃやってられないけどさ。
だけど、放送作家の仕事にも需要と供給がある。
若いディレクターがやってきて、
「いやぁ、大岩さんみたいな年寄り作家はなぁ~」って
プロデューサーに言い出しちゃう、っていうことは
実はもう既にあちこちで起こってるんだと思う。
でも、もう気にしない!(笑)
そんな無駄な時間はない!(笑)
そんなことはどうでもよくて、やらせてくれるうちはありがたい。
おもしろいことを考えて番組を現実化させヒットすることが
僕は無常の喜びだし、好きだし、興奮するんだもの。
もう面白がって一生懸命やるだけだ、と。
だって、年齢じゃないでしょう?
感覚やおもしろさが年齢のせいと言われるのは、単に面白くないから。
若くてもベテランでもつまらないものはつまらん。
新人でもおもしろいものはおもしろい!

高須

確かにそうですねぇ。
そう言われると、不安になってる暇があったら、
一生懸命頑張れっ! 考えろ! という話になりますね。

大岩

そうそう。やるしかないの、やりたいんだったらさ(笑)。

高須

僕は、作家って上に行けば行くほど
楽になるものだと思っていたんです。
チーフの作家になれば、きっともっと楽ができるって
若いころにコントをしこたま書かされながら、
コントを作らないでいいチーフ作家の人たちを
恨むようにして見てたんですよ(笑)。
だけど、今自分がそんな立場になってきて思うのは、
なんて楽じゃないんだろう!って(笑)。

大岩

楽じゃないよ~。いいことなんてない!

高須

昔なら、好きなことをガンガン言ってたのに
他の人(後輩の作家)の意見も聞いてあげなきゃダメかなって
気を遣っちゃって、モノがストレートに言えなくなりますよね。
そうなると番組をおもしろくするっていう目的が
遂行できないじゃないですか。

大岩

できないね。
せめぎあわなきゃ、突き詰めていけないんだからね。

高須

でもついつい、若いディレクターには言っちゃうんですよ。
この企画を活かすのはこういう画面ではダメだし、
こういう編集じゃないだろうって。
言わずにはいられなくなってしまうんです。
「もっとこう編集して、こう見せないと
視聴者には伝わらないし、面白く無いだろうっ」って
熱くなってしまったりするんですよ。
それでそのあと必ず後悔するんですよ。
あぁ~、言いすぎたかなって。
その領域がディレクターのものだとは分かっているんです。
でも、チーフの作家として、
どこまでどう「企画」に対して責任をとるのか……。

大岩

言っちゃうのかー、そうかー。

高須

で、同じ世代のディレクターだったら、
気を遣うことなく「こう撮ろうよ」って、意見を言い合えるんですけど
若いディレクターにそれをやってしまうと、
なんか、振りかざしてる、みたいになるでしょう。
押し付けっていうか、俺は先輩だ、みたいな。
こっちはそんなつもり、全然ないのに。
で、結局控えてしまって、言えなくなっていってるんですよ。

大岩

高須くんは愛情深いんだよ。
僕はそこまで言わないで、諦めちゃうもんね。

高須

言いませんか?

大岩

だって、そうやって疲れちゃうだろ?(笑)

高須

そうなんですよねえ~~っ。
そんな自分が、一番しんどいなぁって。
だから、本当にチーフ作家って全然いいこと無いんだなぁって、
なってみて思い知りました。

大岩

うん、チーフって全然いいことないんだよー。

高須

無いですよね?(笑)

大岩

無いね(笑)。

高須

そのチーフを、ずっと何年もやってらっしゃるでしょう?
あ、でも僕は大岩さんがチーフっていうのは、
すごく良い現場だなぁって思ってたからなぁ。
一概にチーフ作家って良くない、とは言えないかもしれない。

大岩

なんだ、そりゃあ(笑)。

高須

いえね、僕は大岩さんとは『発明将軍ダウンタウン』でしか
お仕事ご一緒したことがないじゃないですか。
あの番組が数字としてすごく苦戦していて、
さあ、もうこれで失敗したら最後だっていう
ラストのテコ入れのチャンスの時に、
みんなが会議で煮詰まっているところへ、ふっ、と
「ゴングショー形式にしちゃえばいいんじゃない?」って
言ったじゃないですか。

大岩

うーん、そんなことあったかな……。

高須

僕はしっかり覚えてるんですよ、その時のこと。
それまではずっと会議を見守ってた大岩さんが、
すぅっと発言したアイデア。
すごく印象に残りましたし、実際、大胆なアイデアだった。
「ダウンタウンは素人いじりがうまい。
だったら、いっそ任せてしまったらどうかな」って。
ああ、この人はダウンタウンという演者を
よく見てるんだなぁって思ったんです。
そして実際、番組は持ち直して、数字が上がった。
頼れるチーフ作家ってこういう人のことかぁ、と思ったんですよ、僕は。
当時の僕は奇抜なことをやりたい年頃でしたから、
そういうことが全くアイデアとして、見えなかった。
見えたとしても、そんなのは奇抜じゃないっていう、
そんな理由だけで、自分の中で弾いちゃってたと思います。
でも、ゴールデンって違うじゃないですか。
そんな奇抜なことをしたって、意外とどうしようもなかったりするでしょう。

大岩

そうだね、深夜ならばまだしも、ね。

高須

ゴールデンは「マス」をとらえにいかないとダメじゃないですか。
シンプルで、分かりやすくっていうのが絶対条件ですよね。
そういったことをまっすぐ攻める勇気が僕には、無かった。
だから、大岩さんの存在はすごく新鮮だったし、ためになりましたよ。
「失敗したらしたでいいじゃないの、もう心中だよ、ここまで来たら」
って、大岩さんは笑ってて、
その余裕もなんっかかっこいいなぁ、って思ってたんですよ。

大岩

かっこいいことも何にもないよ。(笑)

高須

いや、そういう雰囲気のものって大事じゃないですか。
みんなが切羽詰まってる時に、そういうチーフがいるっていうのは
救いだったなぁ。

大岩

そういうもんかなぁ。
高須くんは、そういうチーフになってるんでしょ?(笑)

高須

なれないですよ、そんなっ。全然ですよ(笑)。

高須

『からくりTV』とかも長いことやってらっしゃいますよね。

大岩

うん、もう10年かなぁ。

高須

一つの番組を長く続けていくチカラって、なんなんでしょう?

大岩

……結局ね、こういう企画をやれば、
こういう画面になるから、こういう風に数字がとれる、
なんていう感覚自体はたいしたことないんだよ。
経験と謙虚さがあれば、誰だってそれなりに出来る。
そんなことよりも誰のために仕事してるか? ってことが、大切だと思うな。
演者のため、ディレクター、仲間のため……誰でもいい。
勿論、当然、自分のためでもあるけど。
あるいは可愛がっているADさんとか。
そういう人がいると頑張れるよね。

高須

なるほど。

大岩

あと、大切なのは「どう客観性を持てるか」ってとこだよ。
自分が妙なプロ感覚にならずに視聴者でいられるか?

高須

うんうん。

大岩

『からくり』だってそうなんだけど、
財産で食ってる期間っていうのが長いわけだよ。
一度作り上げた企画で、当たりが出て、それである程度の期間、
数字が安定して取れてる。
しかし、さて、それがいつまで続くかな、って
僕はいつも思うようにしてるんだ。
常に番組を見て、たとえばヒットしてる企画が番組の頭に
来てるとしたら、その企画に取って代われる次の企画は
何だろうか、どんなものになるだろうか、と考える。
すると、「あ、何もないぞ」って気づいてしまう。
そうしたら、もうその時点から考えださなくちゃいけないんだ。
もしかしたらすでに遅いかもしれない。
それでも、自分の頭の馬鹿力に期待する。
走り続けるってそういうことだから。
今財産があるからって安穏としてないで、
その財産は絶対に減っていくんだから、常に次を考えること。
とにかく慣れないこと。
番組なんて数字のピークを過ぎて1年後から、かならず下降する。
だから、クールに見ていないと落とし穴に気づかないよね。
だらだら長い会議してる番組もダメ。
具体性のない企画会議も長続きしないと思うなぁ。
一見、かっこいい風に喋る奴は雰囲気だけで、具体性がない(笑)。

高須

確かに(笑)。

大岩

それから、言いわけをする番組も良くないだろうな、と思う。
「裏が絶好調の鉄腕DASHだから、今は何をしたって無理」だとか、
「こっちは10年やってるんだから」とかって、
『からくり』ではあり得ないもの。裏が何だろうが、年を食っていようが、
今オンエアしてる番組はここにあって、リアルタイムで勝負してるわけじゃない?
同じリングで、無差別級の試合してるようなもんだよ。
だったら、言い訳なんてしていらんない。勝つしかないんだ、結局は。
作家だって、そうだと思う。おもしろいものを出して、人を惹きつける。
そして、視聴率の勝負に勝つ。勝つと全員気分が良い。
誰が手柄にしてもいいの。
負けると誰かが誰かの責任にする。悪口雑言だらけ。
それはホントに気分が悪いし、哀しくなるしね。
だから勝ちたいの。
その結果がつながって、番組が長続きしたり、
放送作家として自分が居続けられたりするんじゃないかな。
それしかないでしょ?
どんな仕事だって、きっとそうだと思うよ。
テレビに限ったことじゃ無いと思うな。

高須

そうですね……。
本当にそうですね。

今回は特別に、おまけ編へとつづくんであります...

第4話へつづく

放送作家

大岩賞介 さん

『踊る!さんま御殿』『世界まる見え!テレビ特捜部』
『一億人の大質問!笑ってコラえて』などの構成を手がける。
《ささやかな楽しみ》ドヘタなゴルフ。ドヘタな女遊び。超うまい店好き。超不精なFacebook。
《関心事》世の中のからくり裏事情。テレビに関わる人々の意識
  言葉「この人は、なんでこんなことを言うのか?」
《自戒》身の程知らず。評価は他人と歴史の戯れ。
《言ってみたいひと言》「カントってさあ〜」
《言いたくないが、つい言ってしまうひと言》「絶対!」
《役立たない自問》「で、お前、どうしたいの⁉️」
《マコトシヤカ》今死んでも大満足。

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