御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×山名宏和」 第7話

松尾貴史さんらとの出会いを通じて、放送作家としての幅を広げていった山名さん。テレビのことを深く考えつつ、二番バッターとしての存在感や、逆に作家が持つブランド力についての話で盛り上がりました。そして当時のテレビやメディアを取り巻く社会的な環境がいかに「やってはならないこと」をやっていたか…「恋空」などの具体的な例を出しつつ、真正面からテレビはどうあるべきか、作家はどうあるべきかを語らいました。

インタビュー

第6話

2008.11

高須光聖がキク「高須光聖×山名宏和」

視聴者の順応、作り手の順応

高須

山名は自分から見て「山名宏和」という放送作家は
どんな作家だと思っているの?

山名

自分から見て・・・バッターだと2番とか。
野球は全然見ないから、野球に例えてもしょうがないんだけど(笑)
まぁ、なんというか、いい感じに繋いでいく感じ。
確かに大ハズシしないっていうのは、そうだと思うし
多分、使い勝手はいいと思うんですよ。
それなりにまとめるし、ちゃんと台本も書くし、締め切りも守るし。
だけどウチで言うと鮫肌さんとか、もっと先輩だとそーたにさんみたいに
場外ホームラン打つタイプではないから、なんかこう・・・
いつもポテンヒットみたいな感じで。

高須

そうなんや。

山名

あとはこう、夢を語るみたいに話が大きくなった時に不安になるんですよ。
そこらへんは用心深いっていうか、小心者っていうか。
広げるのはいいけどどっかでまとめなきゃいけないな、っていう神経は必ず働く。
だからあんまり大冒険はしないタイプなんですよ。
冒険するタイプの人の隣にいると
「いや~、そっち行かない方がいいんじゃないですかね」って風に
言うようなポジションは合っていると思いますけどね。
あと、勉強するからいろいろな手数は増えていきますけど。

高須

引き出しはあるし、こういう時はこういう会議の仕方をする、
っていうのもあるし、カンフル剤もどこで打ちゃいいかっていうのも
なんとなくわかるしね。

山名

そういう感じだと思います。
幸いにして今まで仕事が途切れずに続いているんだけど、
結局、いろいろな事が流され流されここまで来たので、
流れ着いた果てでこうしてちゃんと食えてるのは、
実はラッキーとしか言いようがないんですよ。
だから、よく放送作家志望人に「どうやってなったんですか!?」
「夢はなんですか!?」みたいなこと、聞かれるじゃないですか。
そういう時、なんて答えていいかわからないんですよ。
僕の場合、フワフワしているうちに、今の場所に流れ着いたので。

高須

そうかー。俺最近ね、
「放送作家って。全然おもろないなー」って思い始めた事があったのね。
いや全然面白いのよ、もっというと面白かったの。
ただ色々見てると『自分で決断できない哀しさ』はあるな、って思ったわけ。
それがここに来て嫌になってきたというか…。
それまでは優秀な演出家と作るのが楽しみだったんだけど、なんだろうね…
型破りな演出家がテレビにいなくなってきたような気がしない?
作家の自分がビックリするような映像美とか様式美でもって
企画を実現してくれるような人に出会わない。
昔はあの作家とあの演出が新番組するらしよって聞いたら、
ワクワクしてチャックして、「あぁ~やられたぁ~」とか思って嫉妬してたけど。
今は嫉妬させてくれる演出がいない。
かと言っていつまでも同じ人とやっていてもダメなような気もするし、
で、そうなってくると、じゃ~自分でやるしかないかと思うわけ。
自分の決断でものごとを全てやらなアカン年齢に来てねやろなきっと。
自分のフラストレーションがそこでしか発散できんとこまで来てるのよね。

山名

なるほど…。

高須

テレビも時代と共にどんどんどんどんやれることが限られてきて、
テレビ自体のルールみたいなものも年々改訂されてる。
で、ルールが改訂される度に俺は、
ああ、やっぱし出来へん事が多いな、テレビを
愛してるとかテレビを考えなアカンとかキレイ事言ってるけど、
こんだけルール
改正されていくと、そら昔みたいなありえない世界感でテレビを作るなんて
無理やなぁ~って思うわけ。
で、この間月亭可朝さんがストーカーかなんかで捕まったやん。
俺は人から聞いた話やけどニュースで月亭可朝さんの昔の映像が流れたんやって。
「♪ボインは~」って歌ってるやつ。
その「♪ボインは~」って唄っている月亭可朝さんから
カメラがすぅ~っと引いたらスッポンポンでオッパイを出した女の人が
オブジェのように両脇に立っていて、カメラを見て笑ってるわけ。
で、その後ろには客がずらぁ~っといて、客おばちゃん達も大笑いしてんのよね。

山名

うんうん。

高須

ありえへん世界やん、今で言うと。まあ明らかに女性をモノとして扱ってるし
後ろにいるお客さんもおっぱい出していることが悪いとも思えへんし
演出のひとつとしているから全くもってテレビが悪びれる事もなく
それが当たり前やんかって感じやねんけど、今では考えられへんやん。

山名

そうですね。

高須

で、そらそうやわ、そんなんがアリやってんから、
その頃のテレビってなんでもアリやったんやろね。
今のテレビはそんな事ありえへんもんね。
もちろん女性の裸を映すのがテレビの新しい扉を開けていく事にはならんねんけど、
それだけ無秩序だったような気がする。
たかが二十年そこそこでこんなにもルールが変わってるねんもん。
きっと自分の中でテレビのルールを何度も更新させて、
そのルール内で順応させて今テレビ作ってんなって思うのよね。
たぶん俺順応できてなかったら、テレビで今使ってもらってないと思うのな。

山名

確かに、みんな順応してますよね。

高須

でもこれ(順応力を持つこと)が、最近嫌になってきてんのよね。
その順応力ってまだ必要か?と。
そんなものに神経をすり減らしてものを作っていていいのかと。
あと何年面白いものを作れるかどうか分からないのに、
そんなルールといつまで向き合ってるんだとね。俺なんかは思うわけ。
山名なんかは今後の自分の立つ位置とか?どういう表現者でありたいとかある?

山名

テレビの放送作家ってどんなに
いい企画を立てても、そこには作品性はあまりないじゃないですか。
まあ、場もわきまえずに作品性を主張するのも、どうかとは思うんで、
放送作家が作品性のある仕事ができる場所って限られてると思うんですよ。
でも、できることなら作品性の高いものは作っていきたい。
もちろん、今までどおり二番手三番手のポジションで番組を作りつつ、
同時に作品性のある仕事はしたいですね。

第7話へつづく

放送作家

山名宏和 さん

1967年東京都生まれ。
古舘プロジェクト所属。
現在担当中の主な番組は、『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『この差って何ですか?』『たけしの健康エンターテイメント!みんなの家庭の医学』『ガイアの夜明け』『TheCovers』など。完全なる雑食系放送作家

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