『電波少年』を大ヒットさせた後、日本テレビの編成部長に就かれた当時の土屋敏男さんと、高須さんとのガチトーク。テレビを愛してやまない男たちが、テレビがヤバい!死にそうだ!と焦りだしたリアルタイムの緊迫感が詰まった対談です。それはまるでかつて輝いていた愛する人が歳を取り、変わり果て、弱っていくのをそばで見るような絶望。作家として、編成部長として、なによりテレビマンとして何ができるのかを探り、語り合う姿は、まさしくドキュメンタリーでした。
編集/サガコ
インタビュー
第2話
2003.01高須
作り手側がきちんと手間や思いをかけて作った番組を見たい! っていう視聴者が、
少しずつだけどまた育ってきてる気がしてるんですよ。ほんのちょっとですけどね。
そうしたら、まだ…まだテレビは変われるのかなって思ったりもして……。
まだ、全然確信できないんですけど。
土屋
不思議なものでね、このコーナーをやっていくたびに、俺はどんどん迷うのよ。
このコーナーで話せば話すほど、編成部長っていう立場もあるんだろうけど
テレビを作るにあたって、迷いが湧き出してくるんだよね。
日本テレビは9年連続視聴率三冠王。今年で10年目。
フジテレビが持ってる「12年連続」を抜くんだぞーっ、
それが編成部長としてのお前の給料だ~、てのが今の俺の立場。
そうなってくると「外さないようにしよう」って思うのさ。
今の俺は「作り手」の立場ではないところで、それを思うんだよ。
「外さない企画を選ぼう!」って考えるんだ。
高須
それがまた…同じ循環を生み出すんですよね、理屈で言うと。
土屋
そうなんだよ。その結果が「気持ち悪い会議」になるんだよ。
秋(2002秋)に『電波少年』が一時間になって、
そのときに俺はとにかくおもしろいことをやればいいって思った。
それだけで10年間やってきてるわけだから、それでいいんだと思った。
それ以外のやり方は知らないわけだから、やれ、裏がどうだとかそんなことは関係ない、
と思ってたんだよ。そうしてやってみたら平均が10.1%で、終わったわけだよ。
……その時に「作り手の俺」も終わった。俺というのは、
10%をとったら15%、15をとったら次は25%…っていうのを目指す作り手ではなかった。
「終わらない数字」を目指して、「終わらない数字」を取ってさえいれば
楽しいこともやらせてもらえるから、それをまず勝ち得て、
そっから「おもしろいこと」を入れていくっていう作り手だったんだ。
だけど、編成部長ともなると全ての時間帯で視聴率を取る、という使命があるわけで
「俺の番組、これぐらいの数字で終わらなければいいや」なんて
言ってられなくなったんだよ。
高須
土屋さん、覚えてますか?
土屋さんはフジテレビが全盛だった10年前に、僕に
「フジテレビはすごい。日テレは10年は勝てない」って言ったんですよ。
土屋
へぇ……そんなこと言ったっけ?
高須
言ったんですよー。
土屋さんって、『笑っていいとも!』とか『夢で逢えたら』の
現場を見に来たりしてたでしょう、当時。
で、その時にたまたまぽろっと聞いたんですよ、そのセリフ。
その時代って、テレビはタレントの時代だったんですよ。
とにかく名前のあるタレントを引っ張ってくることが、数字にもつながるっていう時代で、
タレントに合う企画をやるのが高視聴率番組の作り方だった。
となると、タレント主導だから、やりたいことにビジョンを持ってる
ものづくり側としては大変ですよね。売れてるタレントだから、
作り手サイドにばんばん注文もある。そういうものを取っ払って、
なんとか自由におもしろいものを作れないか?と考え出した時に、
ちょっと素人を使って……という発想が出始めた。
『元気が出るテレビ』なんて、その走りだったのかもしれない。
そして、『電波少年』が現れた。タレントは要らない、
こっち(作り手サイド)で全部おもしろくする!って決めた番組が現れて、
それがリアルで新鮮でおもしろかった。
そして十年経たないうちに勝っていったんですよね、日テレは実際に。
そこから、企画ありきの「ワンコンセプト番組」が台頭し始めた。
僕がやった『未来日記』も、出る人を問わない企画っていうのかな…
とにかくタレントを必要とせずに企画のおもしろさで勝負する時代に突入しましたよね。
それがまた、今変わり始めてるのかもしれませんよ。
例えば、僕らが今までのようにコンセプトの強い企画を立てて、
今度はそこに何もできないかもしれない素人ではなくて、
さらに能力のありそうなタレントを乗っけたら新しい可能性が見えてくるかもしれない、と。
今、僕はそんな風に進化できないかって、考えたりしてるんですけどね。
土屋
『未来日記』は確かに、企画ありきだったよなぁ。
高須
あれもねー、ヤラセヤラセって言われて……。
土屋
うん、俺も見たときにはそう思ったよ。
高須
でも、僕はあの企画は『電波』から触発されて思いついたものですからね。
『電波』が肉体を追い込む企画スタイルだったのを、
なんとか気持ちで追い込めないかと思って考えました。
完璧にこっちがシナリオを作る。君たち、とにかくこれの通りにやってみろ、と。
それを「ヤラセ」って言われたら、もう「ヤラセ」ですよね。
その代わり、そのシナリオをやらされることによって、ひょっとしたら計算できない
人の気持ちが動くんじゃないかっていう可能性にかけたんですよ。
それは絶対にやらせではないと思ったから。そうしたら、気持ちは動いたんですよ!
僕もびっくりしましたよ、最初は。
土屋
びっくりしたんだ(笑)。予想できなかったの?
高須
少しはできましたけど、予想を遙かに超えてて、びっくりでしたね!(笑)
けれど、それはまた、失敗のはじまりでもあったんです。
企画が進んでいけばいくほど、素人がどんどん役者化していくんですよ。
企画の流れが浸透して、一般化すると仕組みが分かってるだけに
彼らは自分の感情以上に「サービス」を出し始めるんです。そんなサービスはいらないんですよ。
土屋
そうなんだよなぁ……。
高須
企画を知らない人がやってるうちは良かったんですけど、
途中からはもう、変なサービス精神がちらちらしちゃって、どんどんダメになっていきましたね。
土屋
こっちの企画にもそれはあるよ。
猿岩石のあとにドロンズがヒッチハイク行った時もそうだった。
ドロンズは猿岩石を見ているから、「はい、僕らは猿岩石をやればいいんでしょ」
の空気がどうしても出ちゃったんだよ。
その空気が漂うVTRは使えないっていうんで、旅の最初の一ヶ月間の映像って
ほぼ使えなかった。『未来日記』と違ってたのは、こっちが長くかかる企画だってこと。
海外に行って一ヶ月も経てば、本当につらいし苦しいしで、
サービス精神を忘れることができるんだな。
カメラの存在がやっと無になって、そこからなんだ、使えるVTRになっていったのは。
高須
じゃあ、その間のVTR素材はほとんど捨ててたんですか?
土屋
うん、捨ててた。
高須
うわぁ~、それもすごいですね。
土屋
で、彼らがようやく忘れて、ラストまで辿り着いたじゃない?
ドロンズがゴールした時には、次は絶対無理だと思ったね。
どんな芸人を持ってきて腹をすかそうが何しようが、
この企画はもう万人の頭にこびりついちゃってるわけだから。
んで、帰ってきたら猿岩石は歌まで唄ってヒットしちゃってるしね。
高須
あははは、そうでしたねぇ(笑)
土屋
それで、香港から何も知らないチューヤン連れてきたわけさ。
高須
うん、見ていて「なるほど、こう来たか~」と思ってましたよ。
土屋
で、アフリカまで行っちゃって、次がなすび。
なすびも猿岩石は確かに見ているけど、今度の自分はどこへも行かずに、
ただハガキ書いてるわけだよ。彼自身も
「これって、企画になるんですか?なるんですか?ならないですよね?ならないでしょっ?」
って言いながら、ハガキ書いてるわけだよ。だから、おもしろいんだよ!
「企画になってないよね?」って思ってるから、おもしろいんだよ。
高須
そのファーストリアクションなんですよね、欲しいのは。
「これ大丈夫なの?」っていう表情こそが全てなんですよ。
土屋
なすびが言うんだよ。
「これって放送できるんですか?」
「できるわけないだろー、お前が裸でハガキ書いてるだけになのに」
「ですよねぇ…」
その不安が、実は成立してるんだよね。
彼自身は不安だけど、書かなきゃ裸だし、食えないから不安なままで必死でハガキ書くわけだ。
「これ、こんなに書いてどうするんですか?スタッフさんが来て、
毎日VTRのテープ交換してますけど、放送できるんですか?」
「んー、まあ、半年くらいやったところで、6分くらいのコーナーにはなるかなぁ~」
なんて言っちゃったりしてさ(笑)
高須
最悪や…(笑)鬼や、鬼っ。
土屋
最悪だし、鬼だけどさ(笑)でも、それでおもしろくなるんだよ。
不思議なことに。
高須
そして、オンエアしてしまったら二回目はないんですよね。
次のやつにはもう、テレビにどう映るか分かってしまってるから、
同じような企画をやると無意識のうちに変なイメージが入っちゃうんですよね。
土屋
だから、どんどんどんどんダメになっていくんだよ、どうしても。
やればやるほど、だめになっていくんだよ。
ましてや女なんて使おうものなら、もっとダメだよ。
高須
あーーーー、女ね。女はダメですよね~。
土屋
ここに「鉄棒少女」がいますけどね(笑)(といって、キャスター役の羽田美香を指差す)
羽田
えぇ、だめなんですかー?
土屋
女はね……どうしても剥き出しにならないんだよ……。
高須
そう、どこかで絶対計算してるんですよ!
カメラの位置を絶対に意識して、計算してしまう。
土屋
自分でも分からないらしいんだけど、女は天性なんだろうね。
絶対に剥き出しの姿にならない。
「15少女漂流記」をやった時に、ホントに思ったなぁ。
いっくらやっても、どれだけ追い込んでも剥き出しにならないんだよ!
高須
分かりますよ~、男のほうが絶対簡単で単純ですよね。
土屋
鉄棒少女の彼女だってがんばったのよ。
占いの旅へ行った本田って子もそうだったけど、
がんばってもがんばっても「剥き出し感」が、どうしたって八割くらいなんだ。
あとの二割は絶対見せないんだよ。出てこないんだよ。
高須
女は絶対に「つくる」んですよ。
これってなんなんでしょう、潜在的にDNAの中に備わってるんですかね?
見られる生き物だ、みたいなのが。
土屋
うん、あるんだろう。「見られる生き物」っていう意識がね。
高須
それが同じことをやっても違う結果になってしまうんでしょうねぇ。
第3話へつづく
プロデューサー
土屋敏男 さん
LIFEVIDEO株式会社 代表取締役社長 兼 日本テレビ放送網株式会社 編成局ゼネラル・プロデューサー
昭和31年9月30日静岡県静岡市生まれ(58歳)
1979年3月一橋大学社会学部卒。同年4月日本テレビ放送網入社。
主にバラエティー番組の演出・プロデューサーを担当。
「進め!電波少年」ではTプロデューサー・T部長として出演し話題になる。
このほかの演出・プロデュース番組
「天才たけしの元気が出るテレビ」
「とんねるずの生ダラ」「雷波少年」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」
「電波少年的放送局」「第2日本テレビ」「間寛平アースマラソン」
「岡本太郎『明日の神話』修復プロジェクト」「NHK×日テレ60番勝負」
など多数