御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×松井洋介」 第3話

大阪時代からの後輩にあたるチャダこと松井さんが対談相手ということで、いつもよりも砕けた関西弁が飛び交う元気な回です。ダウンタウン浜田さんとのドラマティックな再会がなければ、松井さんの作家人生は閉ざされていた? そして『ワンナイ』や『トリビアの泉』が高視聴率を叩き出していた時代のコントに賭けた熱い思いや、抱えていた矛盾とは? 真夏の対談は、熱を帯びました。
取材・文/サガコ

インタビュー

第3話

2003.09

チーフディレクターとして

高須

さあ、チャダの作家論など聞いていきましょう。
最近のテレビと、放送作家の在り方については、
どんなふうに考えてる?

松井

うーん……おもしろいことを考えても、
それが素直に数字につながってくる時代では
なくなってきたじゃないですか。
自分がずれてきたのか、時代がずれたのか分からないんですけど。

高須

『ごっつ』の頃は、企画がおもしろければ、それが会議を通ってた。
会議の仕方も
「おもしろい企画はどれだ? これが一番おもしろい。
じゃあ、これをやりましょう」っていうパターンだったよな?

松井

そうですね。おもしろいことをやればそれが数字に反映されて、
「ああ、やっぱり数字良かった。おもしろいことを考えたらええんや」
って思ってましたね。

高須

分かりやすい流れやったよね。

松井

僕は放送作家とはそういうもの…つまり
「おもしろいことを考える職業なんだ」って認識してましたね。
それが…最近はなくなってきたじゃないですか。

高須

うんうん、なくなってきたね。

松井

まずコント番組が減ったでしょう。

高須

更に、コントをつくる時には
「おもしろいものを」っていうんじゃなくて
「こんなキャラクターを作ってください」とか発注が来たり。
キャラクターありき、みたいな。
それっていいことなのかな?

松井

いいことかどうか……ですか。
うーん。

高須

どう思う?

松井

……別に良くも悪くもないんじゃないかと思うんですよ。
でも、世間がどうであろうと、
自分の「これがおもしろい!」っていうところだけは
曲げないでいよう、って思ってるんです。
世間の流れに寄せていってまで、コントを作る必要はないんじゃないか…
っていう気がするんですね。

高須

なるほど。

松井

「こういうことがおもしろいんじゃないか?」って思いついたときに、
例えばそこへ至る入り口を、今風にしてみたりだとか、
そういうことは確かに考えてるんですよ。
かといって、それをすごく世間に寄せて
特に企画ものの番組にあることなんですが、
「F1(20代女性)層が見る時間帯だから、
料理ものを題材に考えてみようか?」とか
そういうスタートラインについては、そこまでしなくてもいいんじゃないか?
と思いますね。
逆にそれで番組がこけたら、目もあてられないじゃないですか。

高須

たしかにそうなんだよね。

高須

最近、テレビつくってて、
自分がチーフっていう立場になったりした時、
特にどんなことに気をつけてる?

松井

ディレクターとか演出の意見を尊重しよう、
とは思うようになりましたね。
若い時は、自分が下の身分だから、逆に
「いやいや、こっちのほうがおもしろいでしょう!」とかって
自分の意見をぽーんと言えて、ものすごく気楽だったんですよ。
責任もなかったし、感じたままに結構勝手なことを言えてたんですけど、
チーフになったらそういうことをあんまり言わなくなりましたね。
上に立ってる人間が、思うままにあっちへこっちへ意見ぐらつかせたら
絶対やりにくいって分かってきましたから。
だから、ディレクターの意見を尊重して、その上で
ちょっと違うな、て思うところを「こっちじゃない?」って
軌道修正するような感じに、自然となってきましたね。

高須

ふんふん。

松井

まず、僕がぐらついてはあかん、と。

高須

上がぐらついたら「何がしたいねん?」って
下の若い人達は思ってしまうからなぁ。

松井

そうなんですよ。
で、チーフの作家とディレクターとが、ばっしばし意見が対立しても、
それはまたやりにくいでしょ。

高須

そう。
今はどうなの? やりやすい?

松井

僕は全然やりやすいですよ。
それにこれからどんどんそういう状況になっていくんじゃないですか?
自分が歳をとっていくにつれて、現場は若返っていくんですから……。

高須

俺はチーフの作家をやるのって、そんなに好きじゃないのよ。
セカンドぐらいがちょうどいい。チーフはもう、すっごく気を遣うから。
ディレクターに気を遣うの、イヤなのよ!(笑)

松井

うははは! そんな正直な(笑)。

高須

いろんな事言いたい。やりたいようにやりたい。
だけど、あんまりにもディレクターを否定してもダメだし……。
こっちには積み重ねた経験があるからこそ、
一回やってみてダメだった事とか、身に染みてたりする。
それを若いディレクター達は経験がないから
「やってみたいんです」って、ばーんと言ったりするでしょ?

松井

あぁ~(笑)。

高須

だけど「それはもう、無理なんだって!」ってことが分かってる。
でも、それが分かっていても、
とりあえずディレクター達の言い分を聞く時間が要るでしょ。
その時間っていうのが、すごくしんどかったりするのよ~。

松井

なるほどなるほど。

高須

だけど、その一方でね、そういう風に経験則だけで
ものを言ったり、時間を惜しんだりしてはだめだなぁとも思い始めてる。
経験があるが故に、おもしろいことに対して壁をつくってしまっていて、
「こういう時、素人じゃむずかしいよ」とか
「こういう時、演者はやりにくいはず」とか
「この現場ではそんなにおもしろいことはおきないよ?」とか
予測して言っちゃう。
結局、それが飛んでいくことを妨げてる場合があるんじゃないかと。
経験で「この翼では、飛べないよ」って言っちゃってるのよね、
チャレンジする前から。

松井

うんうん。

高須

『トリビア』の企画を、俺は昔、
フジの小松に雑談の中で聞かされたんだよ。2年くらい前かなぁ。
「深夜にダウンタウンでなんかやりたいっすねぇ」ってあいつが言いだして、
「高須さん、僕、考えてることがあるんですよ。
なんかすごくくだらないこととか、けったいなことがあって、
それをみんなで「へぇ~」って言いながら見るような。
そういう番組がやりたいんですよねぇ~。
ねー、くだらないでしょ~?(笑)」って、小松は言ってて。
俺は「ふ~ん、ちょっとおもろいなぁ」返してね(笑)。
確かに「くだらんなぁ」とは思った。
思ったけど、それがまさかこんなに数字取るとは思ってなかったのよ。
それって、経験則で見てしまってたんだと思う。
ディレクターである小松が手がける番組って、年に一本か二本。
俺ら、放送作家は年間10本とか番組を手がける。
圧倒的に出会う演者の数、企画の数、スタッフの数が違うでしょ?
経験だけでいくなら、絶対数をたくさんやってる人間が有利になる。
だけど、実際にヒットはそういうところから生まれるわけじゃない。
だからね、本当に、本当はね、人の話を聞くときには
学校出たての大学生のような気持ちで……。
まっさらで聞かなきゃダメだなあ、と(笑)。
経験が真っ先に「そんなんあかんって」って語りかけても、ぐっとこらえて、
「おぉ、そういうのもあるかもなぁ!」って新鮮な思いで、全てを聞く。
まずは聞く。聞くべしと。
だから、チャダの言ってる「ディレクターの意見を聞く」っていうのは
すごくいいと思う。いいと思うよ。
…思うんやで?……思うんだけどさ……。
………やっぱりイヤやねん!めんどくさいねん!(笑)

松井

叫ぶほどに(笑)。
わかりますよ、それもすごく(笑)。
僕だってそんな聞こう聞こうって、ちゃんとできてるわけじゃないですよ?
気分屋ですからね(笑)。

高須

でしょ?

松井

気分によっては「もうええやん~」言うて、
ロコツに時計見たりしますからね(笑)。
聞く気あれへん(笑)。

高須

ただ、心がけとして、ね。もしも学生の時に
「君、ちょっと『ひょうきん族』のコーナー考えない?」と言われてたら、
俺は間違いなく寝ずに24時間考えてるだろうし、
それが嬉しくてしょうがないはずなのよね。
それを忘れないでおこうと思うのよ。
まっさらな、大学生のような心で、聞いていく姿勢はほんとに大切だよね。

松井

うん、そうですね。

高須

最後になるけれども、
これからの自分のビジョンって、どんな風に描いてる?
やってみたい番組とか、他のジャンルのこととかあるの?

松井

今、フジテレビのスポーツの方とお仕事する機会がありまして。
サッカー番組をやってるんですよ。

高須

サッカー番組!?

松井

僕はほんとにベタな日本人でして……。
ワールドカップでサッカーにはまりまして(苦笑)。

高須

なんで!? だって、チャダといえば野球やったやん!

松井

そうです、もうジャイアンツさえあれば老後はオッケー!!
と豪語しておりましたワタクシでございましたが、
いっっっさい巨人に興味がなくなってしまいまして……。

高須

えええええ~っ、そんなことがあるの!?

松井

いや、もう、サッカーがおもしろくておもしろくて(汗ふきふき)。

高須

そのへんの一気に染まる感じもチャダらしいというか、
頑固というか、なんというか……(笑)。
そういえば、冷たかったよなぁ~。
ワールドカップの応援の時さ、みんなでお揃いのユニフォーム着て、
一緒に行こうぜ! って言って盛り上がってんのに、チャダは
「いえ、僕は嫁と行くんです」と(笑)。

松井

そりゃもう、当たり前ですよ。

高須

また出た(笑)。そろそろ飽きてきた(笑)。

松井

いや、高須さんがふってるからじゃないですか!(笑)
それでですね、ワールドカップ以降サッカーに魅せられ、
スカパー!にも加入しまして。
この1年、ほんとにサッカーサッカー、サッカー漬けですよ。

高須

ふぇ~、人間変わるもんやなぁ。

松井

で、そんな風にサッカーサッカー言ってたら、
フジテレビのサッカーを担当してる方と知りあう機会があって、
それが縁で、深夜のサッカー番組をやらせてもらうことになって、
今もがんばってます。
でも番組をやるにしても、ただ試合の結果とかを
お知らせしたりとかだけじゃなくて、サッカーをエンターテインメントとして
見せていきたいっていう思いがあるんですね。

高須

うんうん。

松井

今、抱いてる夢というか、できたらいいなぁと思っているのは
サッカーをエンターテインメントとして扱う、
1時間のゴールデン番組ができたらいいなぁ、と。
野球文化の日本じゃ、絶対にそんなのできなさそうでしょ?(笑)

高須

そうやなぁ~。
でも、分かるよ。やりたいっていうの、すごく分かる。

松井

そんな番組、有り得ないかもしれない。
だけどそんな番組を子供たちとかがわいわい言いながら見て、
楽しめる国になったら、きっと日本はいい国になると思うし、
日本のサッカーも強くなると思うんですよ。
だから、そんなスポーツ番組をやれたらいいなぁと思っています。

高須

いい夢だねえ。

松井

あとはもちろんコントも作り続けていきたいですし、
バラエティは大好きですからずっとやっていきたいです。
でも、今はとりあえず、そのサッカー関係に夢中ですね。
10月からは深夜ですが、1時間のサッカー番組始まりますし、
サッカーがきっかけで新しく出逢えた人達とも、
もう全力で仕事をしていきたいと思っています。

高須

そのへんがもう、ホンマにチャダは一極集中というか、
頑固だよねぇ~(笑)。
一度決めたら、マジで全力すぎ。極端すぎ!

松井

ですねぇ~。

-----

でも、スポーツやお笑いってところにこだわってるからって
「それしかやりません!」という心持ちではないんですよね?
例えば映画とか、ドラマとかってジャンルはどうなんですか?

松井

そのへんももしお話があれば是非チャレンジしたいと思ってます。
歌番組とか、旅番組とか……なんでもやってみたいです。

高須

テレビ以外は興味ないの?

松井

いやぁ、話がないですよ~。

高須

んー、例えば「ワイフと一緒に将来はペットショップ~」とか
そういう夢とかはないの?

松井

今はそういうのはないですねぇ。

高須

俺、だいぶ昔にそんな話をチャダとしたの、覚えてるよ。
その時、君はものすごーくほっこりするようなことを
僕に言いましたよ?(笑)

松井

え……?

高須

自分が担当した番組、全部録画して、捨てずに持ってるやろ?

松井

はい、家にいっぱいあります。

-----

……それって相当な量ですよね?

松井

はい、いざ集めだしたら捨てるタイミング無くて……。

高須

俺もそれを聞いてびっくりして、
「おもしろかったヤツだけ抜粋して残しといたらええやん」って言ったのよ。
そしたら、松井大先生はね、老後に
「あー……これも俺、やったなぁー」
「このネタねぇー、こんなパターンね~、はいはい、やったなぁ~」
みたいにして鑑賞する楽しみを残すために、全部取っておくんだと。
老後はワイフと一緒に、自分のネタ鑑賞をするのだ、と。

-----

ほっこり(笑)。

松井

いいじゃないですか~っ。
『ごっつ』とか『ワンナイ』のコントを見ながら、
飲めない酒をちびちびとやりますよ(笑)。

高須

そんなこと考えるってことは、引退とかするの?
作家はいつぐらいまでやりたいと思う?

松井

歳は分からないですけど、
週に1本でも番組が持てる限りはやっていきます。
0になった時に、やめると思います。

高須

やめるか。

松井

やめるでしょうね。
自分から営業することもできないし、
かといって仕事の電話を待つのもさみしいし。
自分で何かを動きを起こす…っていうのも、苦手ですから。

高須

でも、俺はチャダは仕事が来続けると思うよ。
俺と三木さんが踏んだとおりに、生きぬいて行くに違いない(笑)。

松井

ギリギリですよ~? いつだって!(笑)

高須

誰だって、ギリギリやって!

松井

まず、僕がぐらついてはあかん、と。

松井

いやいやいやいや、周りから見たらもう、
高須さんなんて、じゅんっぷぅ~まんっっぱんのっっ!(順風満帆の)

高須

(爆笑)
そんなことないって~!

高須

あぁ、もう話し足りないくらいですけどそろそろ時間やね。
今回は頑固で意地っ張りなチャダ先生にお越しいただきました。

松井

頑固ですかねぇ~。

高須

頑固頑固! でも、そこがチャダのいいところやし、
それは仕事にもいい意味で滲み出てると思うよ。

松井

ありがとうございます~。これからもがんばります。

高須

さて、松井大先生。もう時間がないよ?
最後にバシーッとかっこいいこととか言わなくていい?
だいじょうぶ?

松井

えっ、急に言われましても。

高須

多分、対談の前半ほとんど「汗かいた」「汗かいた」で、
後半ほとんどが「僕のワイフ」「僕のワイフ」になってるよ。

松井

ああー、なるほどなるほど……なるほどね。
でも、最終的に言わしてもらっときますと、
この汗は太ってるからやないですよ?

高須

いや、誰もそんなこと言うてへんし(笑)。

御影湯松井洋介の湯おしまい
「松井さん、お忙しい中、たくさんのお話をありがとうございました!!」

おわり

放送作家

松井洋介 さん

1965年生まれ
現在の担当番組
・「さんまのお笑い向上委員会」
・「ぐるぐるナインティーンナイン」
・「ネプリーグ」
・「ナニコレ珍百景」
・「マンフト」
・「さまぁ〜ずのご自慢列島ジマング」
・「PS純金」

ON
OFF