御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×そーたに」 第3話

雑誌企画から放送作家の道を拓いたそーたにさん。ほのかにふわんとした狂気を感じる対談でもありました。テリー伊藤さんの持つ「眼」の凄さについて、そして「放送作家として考える病」に罹患している僕ら、という話がとても刺激的です。そしてラストには、高須さんからのたっての要望で「そーたにさんオススメの映画選」のオマケ付き。

インタビュー

第2話

1999.06

『元気が出るテレビ』作家予備校

(どうやって作家になったのか、というお話が続いております)

高須

「作家予備校」っていうのは、一体どういう選考基準だったの?

そーたに

んー、純粋にネタでしたよ。

高須

あ、じゃあネタをいくつか出して……。

そーたに

うん、今やってる仕事とほとんど同じ事を要求されてましたね。

高須

そうなんだ。

そーたに

例えば、『元気が出るテレビ』のネタ考えてきてね、っていうことですよね。
とりあえず僕が選考された段階では、ネタを考えてきた20人ぐらいが
マンションの一室に呼び出されるんですね。
で、行ってみたらそこに伊藤さん(テリー伊藤氏)が居らして、
画用紙にマジックで各々のネタのタイトルだけを書いて、
それを壁にだーっと貼り付けて、個人個人が自分のネタを説明していくっていう、
勉強会みたいなことをやってたんですよ。

高須

へぇー。

そーたに

で、ネタに対して伊藤さんが「それはおもしろい」と言うモノもあれば、
説明をしても何も言われずに素通り、ということもあり、
みんなは緊張しながらネタを読んで〜、ということの繰り返しで。
『元気』の『失恋傷心バスツアー』なんてその頃に広川君ってやつが出した企画だし。
割と実戦的な勉強会でした。それが週に一、二度の割合で五、六回あって、
そして確かその途中で今度はテレビの方の募集で来てた人達のオーディションがあって、
田中(直人)とかまた20人位が僕ら(宝島組)と合体して…。
そんな流れで二ヶ月ぐらい経った、八月ぐらいかなぁ。
いきなり「じゃ、番組を振り分けるから」と言われて(笑)。

高須

それもすごいなー。

そーたに

君はこの番組とこの番組、はい、君はこれとこれ…って、どんどんと。

高須

えっ、じゃあもうその時から作家としてプロ扱いやったん?

そーたに

そう…なるんじゃないでしょうか。
自分の中にそれほどの意識があったかどうかは別とするなら、
プロ扱い、だったと思います。だから僕、恵まれてるんですよ。
最初っからギャラも出ましたし。

高須

えーーっ!! もうプロだ!!

そーたに

、ホントにその点では恵まれてるんです、はい。
僕、その一ヶ月後には『元気』と『上海紅鯨団がいく』と
『コムサ・デ・とんねるず』をやらせてもらってましたから…。
後の二つは新番組で、上の作家は二人ずつしかいなかったし。

高須

うわぁー…それは恵まれてるなぁ。

そーたに

ですよ、本当にそうなんです。だから今も当時もやってること、
要求されてることはあんまり変わって無くて、一緒なんです。

高須

ああ、作家見習いの時期にありがちな、何か資料を集めてこいとか、
ちょっとしたAD業務とか一切無かったんやー…。それは羨ましい話だ、うん。

そーたに

ホントは最初のスペシャルで一瞬だけそういう仕事があったんだけど、
いかに自分にそういう作業が向いてないかっていうのを
しっかりアピールしたらそれっきり…(笑)。
好きな事しかやらないもんっ、ていう態度をとってたらすぐに諦めてくれて…。
普通、どこかの事務所に所属して作家になったら、
三年ぐらいはリサーチをしなくちゃいけないんですよね??

高須

うん、全部が全部そうではないやろけど、そういうパターンの方が多いんちゃうかな。

そーたに

アレ(リサーチ)が嫌になって辞めていっちゃう若い子、
たくさん居ると思うんですけど分かるような気がしますよ。
自分にはその時期が無かったこと、
いまさらラッキーだったなぁって思いますもん。

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質問してもいいですか。

高須

いいよー。

-----

リサーチって作家の下積みというイメージですが、具体的にはどんなことをするんでしょう?

高須

んー…放送作家がネタを考えるためのネタを用意する仕事。

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ネタの叩き台を作るってこと?

そーたに

そう。あと、実際に企画をたてる上での調べものとか。

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番組の最後のテロップに「リサーチャー」とか「ブレーン」って出る、
あの部分のお仕事ですよね。

高須

そうそう、リサーチってぐらいやから、いろいろ探してくるのよ、資料とか。
で、作家はそれを受け取って、考えるときの参考にしたりする、ということね。

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放送作家になろうと思ったら、その「リサーチ」っていうのを
経験しておかねばならない、と。

そーたに

それが必須だ、みたいな空気ありますよね。
高須さんもリサーチってやってました??

高須

やってたよ〜。

そーたに

ええっ!! うそっ!?

高須

いやいや、そんなめちゃくちゃ「リサーチだけ!」っていうリサーチじゃなかったけどね。
んー、なんかどう言えば伝わるのか難しいんだけど、俺は入りたての頃に、
吉本の大崎さんに「テレビの現場にとりあえず立ち会え」と言われたのよ。
『4時ですよ〜だ』っていう帯の番組が大阪で、ダウンタウンの司会でやってた頃で。

そーたに

はいはい。

高須

月〜金のそれぞれの曜日に作家が二人ずつ割り当てられていて、
その曜日毎の全部の会議に出席するように、と。
そんで、あの番組って作家もADも全部一緒なの。
会議といい立場といいごった煮みたいになってて、ほとんど区別が無くて、
AD業務も平気で作家がやって当然です、というムードでね。
必然的に人手が足りない、というのももちろんあったけどさ。

そーたに

んー。

高須

やー、もう、おかげで一週間ズタボロになってたもん(笑)。
最初の一ヶ月、給料3万円よ?
休み無しの朝七時出勤、深夜三時まで働いて、しかも休み無しで。

そーたに

一ヶ月で3万円ですか!? 一週間じゃなくて?

高須

一ヶ月で。

そーたに

そーれーはー……。

高須

笑ったもん。何かのケタ間違いかと思ったもん。
時間的にも内容的にも普通のフリーターで考えたら、
日給1万円でもおかしくないっちゅー話。
その後、次の月が7万円ぐらいになって、後は少しずつ上がっていったけどね…
二ヶ月、3万円が続いてたら辞めてたと思う。
今だから笑って言えるけど、ほんまに辞めよう辞めよう、と思ってた時期やったな。
寝る時間無いし、遊びにも行けないし、ギャラやすいし、
若者としての不満ががんがんがんがん蓄積しまくってた。

そーたに

まして、作家になりたいって強く思って入ってきた人間ならなおさらですよね、
そういう「作家外の仕事」って。

高須

そりゃそうよ。

そーたに

リサーチャーやってる間に何がしたかったのか、何のために居るのか、
ワケ分かんなくなってきちゃうんですよ。

高須

俺はその後、しばらくしたら実際に作家として月曜日と木曜日の担当を
割り当ててもらって、そっからまたしばらくしたら『夢で逢えたら』の
構成の仕事が入ってきたりしたから、まだテンポがよかった方だと思うけど…
そうでなかったら、ああいった仕事だけで何年もは無理だったと思う。
どんだけ作家の才能ある人だって、保たない。

そーたに

いや、才能があったら余計、ですよ、きっと。

高須

もちろん実際に作家の仕事をしていく中で、AD業務として素人さんの
指導してみたり客を集めてみたり、リサーチして資料集めたり
という事をさせられてたあの頃の辛さが、自分の中ですごくいい
「テレビというお仕事の理解材料」になってるのは理解できたし、
ああ、アレを経験してて良かったなー、と今でも思うで?
それでも程度問題っていうのはあると思うのよなぁ。

そーたに

「良かった」っていうのも作家の仕事ができたから言えることであって、
先が見えないまんまでそればっかりだったら、
そんなことを思う余裕も生まれるわけ無いだろうなー、と。
だから、才能ありそうだ、っていう若い人が辞めていっちゃうのが
なんかすごくもったいなくって。
「リサーチ」っていう育成のためのハードルが、時々作家育てを
邪魔してる場合もあるんだなぁ、と、ここ最近はよく思ったりします。
あと、本当のリサーチャーさん達に対して失礼だし。
で、改めて自分の環境が恵まれてたんだなぁ、と思うんですよね、本当に。

高須

しかし、改めて考えるとそういう風にしてそーたに君や、おち君やらを見つけだして、
リサーチとかをすっ飛ばすような環境を用意したりした伊藤さんって、
ほんまにすごいよね。
俺、一緒に仕事させてもらったことはないけど、
いつも思うのはそういう「人を見る目」っていうのかな…
テリーさんのそういう直感力ってものすごいんじゃないかなぁ、と思うのよ。

そーたに

それは、ホントにそうかもしれないです。
自分が自分で言い出すとすごくおかしく聞こえてしまうかも知れないですけど。

高須

いや、そーたに君含めて、ものすごく有能な作家を何人も発掘してるわけでしょ。
そーたに君達と仕事をしていて、尚更思うんよ。
どうやってこんなことがあらかじめ分かるんだろう、と。(笑)
そりゃ何回も喋ってたら分かることは多いよ?
でも、一回や二回、場合によっちゃその本人には会わずに、
企画書だけを見てこいつはいい、こいつはいけてない、
って判断したりするんでしょ?

そーたに

確かに「作家予備校」は、最初は企画書だけですもんね。

高須

そんなん無理よ! 見抜けない!(笑)
俺、全然分からんもん。誰が才能あるのか無いのかなんて、
全然知らない人間のそんなん判断するの、全くできない。
若い人の企画書見て、それが一つおもしろかったからって
「こいついいぞ」とは、できないもん。怖いよ。

そーたに

僕だってそういうの、全く分からないです(笑)。
…本当に独特の…独特のチョイスの才能があります、伊藤さんって。
動物が本能的に嗅ぎ分けてるような。
一緒に居て思ったのは、人を見る目の独特さ、というか。

高須

うんうん。

そーたに

人を見て、その「面白がり方」「良さの見つけ方」が独特で、
直感じみてるっていうのかなぁ。
「こうだから、こうおもしろそうな気がする」っていう。

高須

あー…。

そーたに

ネタは何でもないんだけど、たまたまそのネタの補足説明で貼ってあった
写真のチョイスとか、ヘンテコな文章表現とか、
『関東大震災を体験したナマズ』みたいな普段聞かないフレーズとか
誰もが読みすごすようなところに敏感に反応して、
『だからこいつは多分こんな奴で、こんな所が優れてる」とかね。
ホントに細かくて、理屈が通っていて、独特で。
だからといって、それをこっちが狙っても簡単に見透かすし。

高須

それこそが「人を見る目」ってヤツと違う?

そーたに

そうですねー。真似できないですね。

高須

むー、俺にもそんなんあったらなー!
うまく仕事が振り分けられたりすんのにっ!

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…あのー…お言葉ですが。

高須

ん?

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…高須さんは、たとえそれができたとしても、振り分けずに結局全部自分でやりたがっちゃう気がしますけど(笑)。

そーたに

あ、俺もなんかそー思う(笑)。

高須

あら、そうか(笑)。

第3話へつづく

放送作家

そーたに さん

1964年生まれ。石川県出身。
現在、「アメトーーク」「ロンドンハーツ」「世界の果てまでイッテQ」「マツコ有吉の怒り新党」「ミラクル9」「有吉ゼミ」「ワイドナショー」「ビートたけしのTVタックル」「さまぁ〜ずさまぁ〜ず」「関ジャム」「内村さまぁ〜ず」など十数本の番組を手掛ける。

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