雑誌企画から放送作家の道を拓いたそーたにさん。ほのかにふわんとした狂気を感じる対談でもありました。テリー伊藤さんの持つ「眼」の凄さについて、そして「放送作家として考える病」に罹患している僕ら、という話がとても刺激的です。そしてラストには、高須さんからのたっての要望で「そーたにさんオススメの映画選」のオマケ付き。
インタビュー
第3話
1999.06高須
放送作家になりたい人へのアドバイスというか、一種のヒントとして教えて欲しいんだけど、
企画を考える時ってどうやって考えてる?
そーたに
良く訊かれるんですけど、何て答えたらいいのか…。
喫茶店に行って考えます、って答えるでしょ。
そしたらね、でもどうしてそんなに思いつくんですか? と重ねて訊かれるわけですよ。
そんなこと言われても、それが仕事で必須だからでしょ、
としか返しようが無くて困るんです(笑)。だってそうじゃないですか。
仕事じゃなかったら、そりゃ切羽詰まって考えたりもしないだろ、という話で。
高須
そうそう、分かる分かる!仕事やから出すしかないもんなぁ、企画。(苦笑)
そーたに
仕事なんだから、一生懸命やってるだけですよね。
遊びでやってて、『あぁ今日は出なかったんだ。そういう日もあるよね』
なんて環境じゃないし、そんなことあり得ないわけですし。
高須
あー、分かるな。その感覚、すっごい分かる。
そーたに
ただただ僕らは必死なだけなのにね。
高須
若い作家の子が
「高須さん〜…僕、これからちゃんと作家でやっていけるんでしょうか、
食っていけるんでしょうか。どうやったら今以上なんてできるんでしょうか」
と言うのを聴いたりするのよね。
そーたに
うんうん。
高須
それはつまり、今自分が抱えてる以上の仕事を引き受けるなんて、
脳みそがオーバーヒートします、ということを不安がっての言葉やと思うんよ。
で、それって分かるんだよね、自分も経験してきたから。
まず4本レギュラーを抱えた段階で一回目のピークが来て、
もうあかん、もう無理っ、これ以上はでけへんっ、というのになって、
7本でまたピークが来て、もうこれ以上は気が狂う!!!! という感覚が来るのよ。
そーたに
あ、4本、7本っていうの分かる〜。(笑)
高須
10本なんて頭おかしいヤツのやることだ〜っ、と思えて、
脳がもうキャパシティいっぱいいっぱいになるのが実感で分かるのね。
でも不思議なことに、ある時からフッと別の場所が空いたりすんのよ。
もっと考えられる場所ができてきたりして。
そーたに
もうそれはずっと考えてるからじゃないですか、考えて考えて。
例えば7本やってて、最初はハードでもそれを体に覚えさせれば、
そのうち慣れて来てそれが普通になってくる。すると、もっと自分をいじめたくなる。
かっこよく言うと、脳の再配置が起こってるんじゃないかと、覚えたての言葉だけど(笑)。
環境が脳を変えると。
高須
あと、番組増えて会議の数が増えていくと、
緊張の回数が増えるって事になるでしょ、必然的に。
人前で企画を発表せなあかん、でも恥をかくわけにはいかない、という
プライドに似たような感覚が手伝って、それを乗り越えたいっていう欲が
キャパシティの限界を超えさせたりするのよなぁ。
なんか、脳みその「筋トレ」みたいなものやと思うよ。
そーたに
そうですね、近いかも知れない。繰り返していくうちに…。
高須
なんか基本の能力の部分がトレーニングによって、
じわじわ〜じわじわ〜と伸びていくって感じかなぁ。
そーたに
僕、いつもノートを持ち歩いてるじゃないですか。
高須
はいはい。
そーたに
あれを持ってね、喫茶店とかに行って、ノートを机に広げて…
時間が許す限り、会議の合間の30分とか、何にもない時は
それこそ三時間とか四時間でも平気で、ずっといろんな企画を考えたりするんですけど、
もう楽しくて仕方がないんですよね。
高須
マジで?なんかもう、わくわくしてくるの?(笑)
そーたに
そうなんですよ。あとは手元に一冊、本とかあったらもう最高で、
休みの日なんか出かけていって、ずーっと考えてたりしますもん。
わくわくして、楽しくて仕方がなくって。
だから…おそらく考えることが趣味なんだと思うんですよね。
高須
それはすごいなぁ。俺はそこまではないなぁ。
そーたに
しかも自分の番組だけじゃなくて、やってない番組の企画まで、
自分で自分にお題出して考えてたりするんですよ。
『もしも俺がニュースステーションの企画を考えるとしたら』とか(笑)。
で、(仕事の企画考えるよりも)そっちのほうが楽しかったら、そっちを重点的にやる、と。
逆に「イマイチだな」と自分にダメ出ししたり…。
高須
なにしてんの(笑)。
そーたに
ほんと「何してるんだ」っていう話でしょ。
だって、仕事でもなんでもないんだもん。(笑)
でもね、それって昔、仕事の本数が制限されてた頃についたクセなんですよ。
暇つぶしに他の番組とか新番組をやってる空想をしてたんです。
あと、俺は外で通用するのかっていう不安もあって。今は昔ほどではなくなったけど、
それでも「今日は昨日見た映画について考えよう」とか
「あのタレントでCMを作るとしたら」とか、
とにかく考えよう、考えよう、としちゃいますよね。
高須
それもすごいなぁ。いつも分厚いネタ帳持ち歩いてるもんなぁー。
そーたに
趣味なんですよ、もうきっと「考える」という趣味。
あと、自分にまだ余力があるっていうのを確認したいのかもしんないけど…。
高須
俺も考えるのは大好きだけど、自分の関わってないモノに関しては一切考えない方なのよ。
そーたに
あー、僕とは逆ですね。
高須
あと、俺は会議で考えるのが好き。
会議が楽しかったら、それがストレス発散になってたりしてる部分があるなぁ。
そーたに
なるほど。
高須
とにかく会議中にあっちこっちに思考が飛んで、誰かが発した言葉に
ぴくぴくっと反応して別のことがポンッ、と思い浮かんだりとか。
そういうのが多いかなぁ。どっちにしても、考えることに関して中毒入ってるとは、
自分でも思うよ。そーたに君とは、また微妙に違うかもしれないけど、
「放送作家」という趣味であり、仕事であり…みたいな。
そーたに
中毒というか、ちょっとした何かの「患者」っぽい。
高須
あー…患ってるかもなぁ、俺ら、確かに。
高須
俺ね、『人気者でいこう』を始める時に「そーたに君みたいな作家が要る!」と思ったのよね。
新しい血が、ダウンタウンの新天地、というか
浜田・松本の新天地に向かおうとする今に必要だ!とね。
そーたに
あー、そういうのすごく嬉しいです。
高須
今まで自分が「ダウンタウンの座付き」とかいろいろ言われてきた中での
葛藤ってすごくあって、それを言われる度にすごく微妙な心持ちにさせられててさ、
嬉しくもあり、切なくもあり、それを喜ぶべきなのか否か、全く分からなくて、
でもどこかで微妙に微妙に悔しくて。
あの作家さんの「らしさ」がこのタレントさんに合ってる、とかって感覚で、
番組の作家をあの人とこの人って決めたりする事ってあるやんか。
ちょっと座付きに似たような感覚で。
そーたに
はい。
高須
でもなー、それって、それだけでは絶対にダメだと思うのよ。
だって、同じ雰囲気の人間ばっかり集まってしまって、
そのタレントの「らしさ」まで限定してしまったりするでしょ。
そーたに
なんだかんだ言い訳したって、視聴者は「番組」で「タレント」を判断しますもんね。
高須
だから、そういう「らしさ」も残しつつ、何か新しいことを、と思うのならば、
俺は全く別のトコロから新しい作家、今までそのタレントさんと組んだことのない
作家というのを新しい血を入れる、という意味で入れる方がええんちゃうかなぁと
思ってたりすんのよね、番組作りという点で。
そーたに
僕はそうやって、高須さんに「この番組にお願いしたい」とかって
声をかけられたりしたことが、すごく励みになってたりするんですよ。
高須
あ、ほんまに?それは嬉しいな。
そーたに
正直いってプロデューサーやディレクターに言われるよりも、
同じ作家に番組へ誘われる方が僕は嬉しいです。すっごい嬉しい。
だって、純粋に同業者じゃないですか。
考え方の癖とかも同じライン上で理解した上での「一緒にやろう」という言葉は、
それはすっごいことじゃないのかな、と思いますもん。
それに話は戻りますけど、僕、高須さんは「座付き」と思ったことないなぁ。一度も。
高須
そう?
そーたに
うん。こんなこと言うと偉そうに聞こえるかも知れませんけど。
高須
いやいや。
そーたに
今だって実際、いろんなタレントさんの番組を構成してるわけですし、
そこでまた、きちっと自分の色を調節できてるじゃないですか。
俺はね、それが高須さんは見事だなぁって思うんですよ。
「自分を出す、出さない」の調節つまみを持ってるじゃないですか、高須さんは。
高須
えっ、どういうこと?
そーたに
つまみっていうのは
その番組に対してどれだけの力で投げるかというレベル設定みたいなもので、
決してそれは手を抜くって事じゃなくて、
肩の力を抜いて投げた方が良くなる事もあるじゃないですか。
作家性や自分をどれだけ出すかっていうつまみ。
で、それは番組によってそれぞれ違ってて、
今やってる番組については云えないけど、過去の番組だと…、
例えばー、僕だったら「元気が出るTV」は100%でやっていい。
高須さんだったら「ごっつえぇ感じ」は100%でやってたでしょう?
高須
はいはい。
そーたに
そういう現場現場での「果たして自分は、ここではどのくらいかな?」
という感覚がとても適切に判断できる人だな、と思ってるんですよ、
いくつかお仕事一緒にさせていただいて。
で、うまーく調節して、バランスを取ってるなぁ、と。
集団作業の中でまとまりとか考えたら、絶対にどこまで押していくか、
どこで引くかって大事じゃないですか。
僕が思うに、引く事を知ってる人って自分に対して自信があるんですよ。
で、結局それがその人の器というものだと思うんです。
高須さんはそういうつまみとか、バランスとか、押し引きに対して
…冷静って言うのかなぁ。うん。
高須
嬉しい言葉をありがとう。だけど、それもまぁ善し悪しあるのよなー、現場次第でねー。(笑)
そーたに
(笑)。
そーたに
あのー、高須さんはいつ辞めます?(笑)
高須
えっ! 作家を?
そーたに
2000年までは頑張ろうとか思ってませんでした?
高須
思ってたなぁ。
そーたに
僕もね、2000年までは何とか現役でいよう、そしてその後は
海外行ってのんびり暮らせるといいな、とか思ってたんですよ。
ま、海外と思ったのは最近で、その前は裏日本の国道沿いのコーヒーショップの
マスターでもやるかと思ってたんだけど。過去を隠しながら。
でも、いざ2000年をこうして迎えちゃうと…ねぇ(苦笑)。
高須
やりたいこと、まだまだあるしなぁ。
そーたに
きっと40歳になったら…海外…コスタリカとか…。
高須
行けるかぁ〜?
そーたに
テレビなんて、もう〜見たくない! とかっつって(笑)。
高須
いやー、無理やと思うで。(笑)
そーたに
(笑)。
高須
こうしていざ考えたら、俺は崇高な考えとか喋りながらも、
結局ただ、自分が褒められたいから作家やってるのかもしれないなぁ…。
「テレビを変えたい」とかって、全部飾りでさぁ、ただただ褒められたくて、
ただただ自分が楽しくいたい、それだけかもなぁって、最近。
そーたに
僕は…自分はどうなりたいんだろう、と考え続けてる場所が
作家という位置かなぁって。どうしたいんだろう、何が本当は自分にあるんだろうって、
ずっとずっと考えて此処にいる、という気がしますけどね。
答えが見えたら辞めるのかもしれない。
高須
んー…分からんなぁ、こればっかりは。
理想があってもさあ、生活があるやん。
そーたに
ねー、おいしいご飯食べたいですもん。
高須
いつになったら、見つかるのかな?
そーたに
いつですかね?
高須
はぁぁぁ〜。
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最前線の人には、最前線の人のため息があるんですね。
最後におまけ的に、映画に詳しいそーたにさんからオススメを教えていただきました。
〜そーたに氏おススメ 『しみじみとする映画編』〜
【バウンティフルへの旅】 (監督/ピーター・マスターソン 1985 米)
監督もあまり有名じゃないし、普通のビデオ屋にはまず置いていないが(三軒茶屋のTSUTAYAにはあった)、あの黒澤監督がホメていた位、とてもいい映画。老人の旅モノでは、僕は【ストレイトストーリー】も好きです。(こっちは滅茶苦茶、素直な作りだけど)
【チャンス】 (監督/ハル・アシュビー 1979 米)
ピーター・セラーズの遺作。僕の憧れの生き方がここにはある。
【太陽の少年】 (監督/チアン・ウェン 1994 中国)
かつての大林宣彦や岩井俊二を百倍天才にしたような映画。少年の頃の記憶が、鮮やかに甦ってきます。【冬々の夏休み】も大好きですが、こっちはメジャーだからいいや。
【穴】 (監督/ジャック・ベッケル 1960 仏)
人間はコワイなってのを痛感させられる映画です。昔の名作って意外に退屈なのが多いですが、これはかなりおもしろい部類に入ります。
【プレイスインザハート】 (監督/ロバート・ベントン 1984 米)
ちょっと思い出しただけでも、ジワッと涙が出てくるような映画。
【子熊物語】 (監督/ジャン・ジャック・アノー 1988 仏)
主演は熊。助演も熊。でも他の動物映画と一緒にしてもらっちゃ困る。崇高な映画。
【永遠と一日】 (監督/テオ・アンゲロプロス 1998 ギリシア)
素晴らしすぎて言葉では書けない。テオ・アンゲロプロスは映画の神様だと思う。話は変わるが、画面の中に赤と黄と青が入ってくる映画は、力のある監督であることが多い。
【気狂いピエロ】 (監督/ジャン・リュック・ゴダール 1965 仏)
学生時代、一日五回見た。そんなに立て続けに観ることができたのは【ピアニストを撃て】と【天空の城ラピュタ】位。死に向かっていく美しい映画。【ソナチネ】も同じ死の匂いを感じました。
【私は二歳】 (監督/市川崑 1962 日本)
同じく学生時代にオールナイトで観てブッ飛んだ。先日もビデオで観たが、やっぱり面白くて、同じところで涙が。
【ヒアマイソング】 (監督/ピーター・チェルソム 1991 英)
【トト・ザ・ヒーロー】 (監督/ジャコ・ヴァン・ドルマル 1991 ベルギー)
(あぁ、映画だなぁ...)という感じの、とてもいい映画。
【ガタカ】 (監督/アンドリュー・ニコル 1997 米)
人に映画を薦める時、「ガタカは好き?」って、真っ先に訊きます。そのYes.Noによって答えを変えてしまう位、自分の中では好きな映画。
皆様の映画ライフにひとしずく、どうぞ。
そーたにの湯 おしまい
おわり
放送作家
そーたに さん
1964年生まれ。石川県出身。
現在、「アメトーーク」「ロンドンハーツ」「世界の果てまでイッテQ」「マツコ有吉の怒り新党」「ミラクル9」「有吉ゼミ」「ワイドナショー」「ビートたけしのTVタックル」「さまぁ〜ずさまぁ〜ず」「関ジャム」「内村さまぁ〜ず」など十数本の番組を手掛ける。