取材当時『仕立屋工場』などのヒット番組で「放送作家以上・以外」の分野に積極的だったおちさんとの対談。そんな環境の中で「放送作家はバカにされている」と気づき、そのうえで「放送作家とは?」と突き詰める二人の姿勢が印象的な場となりました。笑いの演出論についても興味深くて具体的な話が沢山登場しました。
インタビュー
第2話
1999.08高須
僕がハッとした演出っていうのはさ、
『ごっつえぇ感じ』でやった『ごっつの車窓から』っていう企画でね。
おち
はいはい。
高須
電車に乗ってその風景で笑おう、という。
ダウンタウンの二人が電車に乗って、板尾さんとかホンコンさんとか今ちゃん等が
その列車の沿線で、各々ネタを仕込んで待ちかまえている。
その列車が自分の持ち場を通過するのに合わせてネタを披露するっていう企画でね、
それはもう見る側にしたら一瞬のことなんだけど、その不自由さが面白い。
結局それって、すごく単純なフレームイン・フレームアウトショーなんやけど、
電車の窓からという、パブリックなシーンでみるから面白さが倍増してみえる。
おち
なるほど。
高須
ようするに、たった一瞬の一変化で笑う、ポイント勝負のゴングショー。
同じネタでも派手な登場音と共に舞台の上で、
いくらテンション高くやられてももう、その空間自体が面白くないし、
視聴者はネタではなく、ベタなゴングショー形式に飽きてしまってて、
緊張感がなくなってるのよね。それを客席が動く、という逆の発想と、
それによって生まれるスピード感で、見る側の緊張感は、
よりいっそう高められるし、客席が流れていくことで、
ネタとしてストーリー的なモノも演出できたりして、
視聴者の想像を膨らませて面白くなると思うのよ。
おち
うんうん、そうですね。
高須
つまりゴングショーの形が松本の中では「電車に乗って」という形に変換されて、
そうなったことによって、それはもういろんな要素が付加されてたりする。
一瞬で通り過ぎてしまうことで、ポイントまで迫っていく距離感・スピード感の
楽しみも出るし、実際に通り過ぎてしまった時の「むなしいバカバカしさ」を
無意識のうちに、松本は演出の頭で考えてるのよね。
おち
そうですね、考えてる段階で確実に演出の頭ですよね。
演出家としてすごい発想の転換ですよ。松本さんて、やっぱり凄いですよねぇ。
高須
松本って結構、コントも自分で演出してたりすんのよ。
この部分はこういう画にした方がいい、とかね。
その時のあいつは、演者というよりも、自分自身もコマとしてみて動きを考える
演出家になってるんじゃないかと思ったりする。
その演出能力が松本の優れてる部分で、
なにより自分を客観視できる能力が他のタレントと全然違うと思うよね。
おち
松本さんの何がすごいって、そのセルフプロデュース能力。
いまの「演出家としてすごい」という話とかぶりますけど、
コントとかのそういう現場のみならず、自分自身を
客観的に演出するチカラにものすごく長けてる人なんじゃないか、
と僕は常々思ってるんですよ。
高須
うんうん。
おち
自分自身の姿を映す、俯瞰のカメラみたいなモノがあるとしたら、
それの性能がハンパじゃなくすごくて、精度が高いんだと思うんですね。
僕は、今の時代だったら、そのセルフプロデュースカメラのすごいのを
持っている人は松本人志さんと木村拓哉さんじゃないかな、と思うんですけど。
ホント羨ましいですよ、あの人達のカメラ。
もー、そんなの、俺のカメラなんて…(笑)。
高須
いや、あかんで。俺らのカメラ、なんかすっごく型番も古いし、
フォーカスもあまいし、その2人と比べたら、そりゃあ(笑)。
おち
まずは、カパッとレンズの蓋から外しとけ、みたいなね。
…かろうじて救いなのは、自分たちを客観的に映してるカメラのその性能について、
自分自身で「多分大したことねぇな」って意識できてるってことかなぁ…。
だってそれすら思えてなかったら、ただただ迷走するばっかりじゃないですか。
高須
それはそうかもね。主観だけで走ってたら、
全く周りが見えて無くて、ろくなことにならないもんね。
おち
俺、松本さんがすごいな、と思ったこといっぱいあるんですけど、
その中でも印象的だったのが多分『ガキの使い』のトークでね、
「よー街中走っとるヤツ、おるやんかー」って言う話があって。
高須
ふんふん、あったね、そんなん。
おち
そしたらね、走ってるヤツがいるけど、
「でも、相手はそんなにお前のことを待ってへん!」って話をして、
俺はそれを聴いた時にホント笑って、それですごく冷静に、
そうだよなぁって、なんかめちゃくちゃ納得しちゃったんですよ。
俺ら、仕事の時とかでもつい、よく走ってるじゃないですか。
高須
走るよね。
おち
でも、松本さんのその話を聴いた時に、何だか本当に目から鱗で、
そりゃそうだなぁ、とか思ってしまったんですよね。
相手はさほど待ってねぇよなー、って。
だから、あの日以来どんなに遅くなっても歩いてますよ、僕。
あと、工事現場のおっちゃん等が全員趣味でやってたらどうする、
とかって話もあったじゃないですか。
高須
はいはい。
おち
ああいう発想がね、ホントにいっつもびっくりしちゃうんですよね。
みんなが見逃しがちだけど、どこかに記憶してる物を呼び覚ましてくれる鋭い観察力。
僕、ドラマの脚本を書いてるでしょう。『天国に一番近い男』とか、
あと『世にも奇妙な物語』とかでもそうなんですけど、
一つのストーリーの中に少なからず笑いのシーンってあるじゃないですか。
そういう時ってね、完全に自分の頭の中で
“こういう時、松本さんだったらなんて言うんだろう”って、シミュレートしちゃうんですよ。
高須
あー、おちくんがドラマの脚本書いてる時に、
俺「トカゲのおっさんのビデオ貸してくれ」って言われて貸したもんな。
おち
そうなんです。あの長いバージョンのヤツも見たり、
『ガキの使い』のトークを思い出したりして松本さんを降霊させる、みたいな…
それで考えるんですよ、人物達の会話を。
無理は承知だし、マネするって事じゃなくて、まず、それを考えてから変形させる感じです。
多分、俺はガキは一度も見逃したこと無いと思います。
オンエアかビデオに撮って、必ず見てますね。
高須
それもすごいなぁ。
おち
日頃、松本さんのトークを見て、そういう会話の間(ま)やリズムを見ているので、
物凄い参考書をタダで見せて頂いているって感じですね。
だけど自分のドラマとかでは、編集で上がってきた実際のシーンは
全然思い描いてた間とは違ったように会話が交わされてて、
もどかしかったりする時もありますね。
だから、間までは完璧にはならなくても、せめて言葉としての台詞だけは
台本と違わないように、ってやってもらったりしましたよ。
高須
そんな風にして、松本の持ってる部分をドラマへスライドさせてたんや。
なるほどねぇ。
おち
いや、もちろん俺がどんだけ頑張っても
同じようなテイストに達しないのは承知の上なんですけどね。
例えば、『天国に一番近い男スペシャル』で、主演の二人が久々に再会して、
レギュラー最終回の別れのラストシーンを振り返って
「あの時、お前泣いてたな」「泣いてないよ!」「泣いてたよ〜」「泣いてないって!」
「嬉しかったけど、ちょっと、ひいた」みたいなやりとりを書いたんですけど、
それも本当に、『ガキ』でやってた24時間テレビの後のトークを
参考にさせて書かせてもらったりしましたもん。
浜田さんに松本さんが「お前、泣いとったな」ってセンテンスを、ね。
高須
俺はねー…おちくんのすごい所って、そういうところやと思う。
俺なりの分析でしかないけど、ここの場所でひとつ起こったことを
あっ、それはこっちの場所でこういう風に使えるな、と
スライドさせる…って言うんかなぁ。要素を巧く持ち込むっていう…
スライドさせて、降ろしてくる、というその感覚がね、すごいと思う。
ドラマの脚本にしてもそうやと思うし、他で具体的に言うと、
『学校へ行こう!』の『未成年の主張』とかさ。
あれって、校舎の上で叫ぶからおもしろいやんか。
他のどこの場所で言ってみたところで、おもしろくなかったりするのよ、きっと。
で、あれは野島さんのドラマの『未成年』から来てんねやろ?
おち
そうですそうです。
僕は野島作品が大好きで、特に大好きな『未成年』の最終回に、
いしだ壱成が校舎の屋上から叫ぶシーンが秀逸で。
それはすごく格好良かったんだけど、これを実際にやってみたらどうなるんだろう、
かなりおもしろいかもしれないぞと思ってたんですね。
高須
あれは、絵の持ってるパワーっていうのがものすごく感じられる企画。
学校の屋上で叫ぶっていう、切羽詰まったあの感じとあのパワー。
似たような場所で言えば、例えば駅のプラットホームとかさ、
それはもうそれだけで緊張感があって、絵になったりするやん。
おち
そうですね。
高須
絶対にパワーを持った絵とか場所っていうのが存在するとして、
じゃあそれをどんな風に使うか、どんな形で利用するのかっていうことを
どこまで考えられるのか、というのが演出家には必要なんじゃないかなぁ。
閃きや直感で、ひとつの出来事にパワーと緊張をもたらす場所、空間、
そして撮り方を瞬時に判断する。
プロポーズの時にムード作るのだって、そういうことやったりするからね。
だから、おちくんって、例えば映画とかで感動的なシーンがあったら、
あっ、これはあっちでこう使えるかも!って変換できるチカラっていうんかなぁ、
そういうのが人より優れてるんじゃないかなって、俺は思ってたりするのよね。
おち
うわー、そんなこと言われたの初めてだし、すごく嬉しいですよ。
高須
おそらく少なからずそういう流用というか転用というか、
そういう感覚が無ければ、放送作家として番組の数をこなせないと思うしね。
一つのことからいくつも広げていくセンスがなかったら、
絶対に10本以上の番組なんてでけへんよ。
おち
それってもう記憶力と変換能力ですよね。
何かピッと来たモノを覚えておいて、あっちへ、こっちへ、と微妙に変換していく。
それができるかどうか。テレビで思い付いた事をラジオへ、ラジオからコラムへ、
コラムから作詞へ、作詞から洋服へと言う事もありますし。
黒澤監督もそうじゃないですか。
「リア王」を読みました、それを覚えておいて、
じゃそれを時代劇でやってみたらどうかな、と思った。
それで新しい作品ができあがっていったわけじゃないですか。
高須
うんうん。
おち
だけどその事を誰も「リア王のパクリですね」とはもちろん言わない。
作った本人に言われるまで、出ドコが分からないのモノに生まれ変えさせないとダメですね。
大事なのは本気で好きって事と敬意を払う精神、あとはどこかでそれを越えてやろうと
努力する事じゃないですかね。『未成年の主張』で『未成年』の主題歌だった
カーペンターズを今も必ず流してるのは、ドラマを作った皆さんへの敬意の意味なんです。
だけど、僕が取材とかコラムで言うまで、『未成年』から思い付いたと気付く人は
一人もいなかったです。それは嬉しかった。
高須
なるほどなぁ…。人それぞれ、いろんなこだわりがこっそりと隠れてたりするんだねぇ。
第3話へつづく
放送作家
おちまさと さん
1965年12月23日、東京都生まれ 放送作家・脚本家
『ガチンコ!』『学校へ行こう!』『進ぬ!電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!』『「ぷっ」すま』『天声慎吾』『ロンブー龍』『一億人の大質問!笑ってコラえて!』『特命リサーチ20XX』『笑っていいとも!(木曜)』『三宅裕司のドシロウト』『いろもん2』『内村プロデュース』『ガキバラ帝国2000』『未来ナース伝説』など多数の人気バラエティー番組を企画構成。『仕立屋工場』では企画・構成・演出・司会を務める。(以前放送していた『東京恋人』(CX)も企画・構成・演出)
また、脚本家・越智真人として、『天国に一番近い男』(全11話&SP)『世にも奇妙な物語』(「ココリコ田中主演『逆男』草なぎ剛主演『銃男』)などを執筆。