取材当時『仕立屋工場』などのヒット番組で「放送作家以上・以外」の分野に積極的だったおちさんとの対談。そんな環境の中で「放送作家はバカにされている」と気づき、そのうえで「放送作家とは?」と突き詰める二人の姿勢が印象的な場となりました。笑いの演出論についても興味深くて具体的な話が沢山登場しました。
インタビュー
第1話
1999.08高須
どう? 最近は忙しい? 儲けすぎじゃないの?(笑)
おち
いや、もう、暇でねー。今夏休み中で、もう4日目ですよ。
高須
うそーぉ?
おち
……うそです(苦笑)。なんだかずっと、バタバタしてますね。
高須
やっぱり、あの『仕立屋工場』が忙しいの?
おち
それも大きいですね。収録から編集にまで、ほとんど全部立ちあってますから、
アレへ割いてる時間は多いですよ。
高須
そこまで全部関わってるんだ。
おち
プラスで、渋谷パルコで『仕立屋印』ってお店までやってるじゃないですか。
そこまでフォローしてると、またこれが…。
高須
えっ、またこれが、儲かって!?(笑)
おち
儲かってないですよ(苦笑)。
高須
またまたぁ。そんな風に言うけど、儲かってるくせにぃ〜。
おち
何すか、さっきからいやらしいなぁ(笑)。
高須
今日はちょっと関西あきんど風にいこうかなと。
おち
いや、でも服屋って本当に儲からないんですよ。
俺は趣味で自分のブランド立ち上げただけで、それは本当に洋服が好きだからであって
利益なんか無いんですってば。お金のかかる趣味、という領域を出てませんって。
高須
そんなん言うてて、おちくんは侮れんからなー。
おち
もう何なんですかーっ、最初っから〜っ!!(笑)
高須
ま、そんな関西あきんど風はさておき。
何でああいう深夜番組、『仕立屋工場』をやり出すことになったの?
俺はそれをまず、訊こうと思ってたのよ。
すごく特殊やなぁ、といろんな面で思ってるんだけど。
おち
まず、僕はずっと以前から洋服が大好きじゃないですか。
高須
うんうん。
おち
そこが全ての起点ですね。番組よりもずっと前に自分のブランドを起こしたのもそこです。
高須
それは…おちくんの人脈にもともとそういうデザイナーさんとか、
アパレルに詳しい人が居たから、はじめたの?
おち
いや、全然いなかったですよ。
高須
自分でいろいろ考えて立ち上げた?
おち
そうです。自分でいろいろ調べて、最初っから。
高須
それもすごいパワー使ったんじゃ?ほんとに洋服が好きなんだね。
おち
まぁ好きっていうパワーだけでぼちぼちと店を運営してましてー。
あと、俺はよく服飾の専門学校の学祭とかに行って、
発表されてる生徒の作品を見たりしてるんですね。
そしたら、そのレベルがもう、本当にすごいんですよ。
デザインにしても縫製にしてもね、そのまま商品になりそうなぐらい。
だけども、この生徒の子等にはこれだけのモノが創れるにも関わらず、
それを発表したり売り込んだりできる媒体というか、方法が無くて、
多くが学祭で発表して、それだけで終わっちゃってるわけですよ。
高須
ふんふん。
おち
で、そういう作品をいっぱい見てたら何だか切なくなってきちゃって、
これは何とかしないといけないんじゃないかと。
他のクリエイティブな分野だったら、例えばバンドとかダンサーとか
オーディションみたいなのたくさんあるじゃないですか、テレビの中にも。
でも、デザイナーってそういう環境は本当に恵まれてないなぁ、って思ったんです。
そして、今表に出てきてる有名デザイナーの人達にだって、
学生時代が絶対にあったわけですよね。
ということは、俺が今見ている学生達の中にも将来のものすごい才能が
必ず潜んでるわけじゃないですか、少なからずの可能性として。
日本のセリエAは何かって考えてたら、服飾デザイナーじゃねーか?
って思ったのもきっかけですね。
高須
うんうん。
おち
だから何とかそういう人達にチャンスを与えられるような番組を
創れないかなぁと、ずっと以前から考えてたんです。
で、たまたまフジテレビから深夜番組の企画書を出してくれ、という話が来たから、
まぁちょうど『東京恋人』も終わるタイミングでしたし、
じゃあ次を考えましょう、ということだったんですよ。
そいで企画書を書いて出したら、そのまま通っちゃった。
高須
へーっ。うまく流れたなぁ。
おち
他にもいろんな企画書があの時間帯に対して出てたみたいなんですけど、
その選考をくぐり抜けて、番組になったのが『仕立屋工場』なんですよ。
そういう意味で、非常に珍しい成り立ちの番組って言えるかも知れないですねー。
高須
おちくんも、そーたにくんと同じ…というか、『元気が出るTV』の作家塾出身やんか。
おち
はい。
高須
俺、そーたにくんとの対談の時にも、散々テリー伊藤さんの凄さを
聴かせてもらったんだけど、おちくんはどう??
作家になりたての頃って、伊藤さんからどんなことを吸収した?
おち
んー…そうですねー。
あの頃って、たくさんの作家志望というか、作家になったばかりの
若い連中が伊藤さんの現場とか会議とかに参加してたんですけど、
みんながみんな、それぞれに吸収してる事って色が違うような気がしますね。
見ていた部分が各々に違うっていうのかなー、うまく言えないんだけど、
それぞれにポイントが違ってたような気がします。
僕は…伊藤さんの背中を見て”演出論”を多く盗んだと思います。
だから今、『仕立屋工場』や『東京恋人』など自分で演出する事が出てきて、
ホントに演出家が師匠で良かったと思ってるんですよ。
あと学んだのは”総合演出力”。チーフ作家をやる事が多くなってきて、
それはつまり、総合演出的イニシアチブを握らなければならない場面が
多くなるってことですから、そういう立場の今、盗んだ総合演出論は
スーパー役にたっています。
細かい話で言えば、伊藤さんが、「現場がおもしろかったっていうのは最悪だ」
って怒ってるのを聞いた時に、何だかハッとしたのを覚えてます。
高須
あ〜、なるほどなぁ…。
おち
現場がおもしろくてどーすんだって言うんですね。
テレビになって視聴者が見るときには、それはフレームの中に映って
編集されたモノを見るわけだから、現場がおもしろくたって仕方がないんだって。
伊藤さんはロケに行った時も現場なんか見てませんでしたからね。
本番中、ずっとモニターを抱え込んで見てるんですよ。
そこに映ることが、それはもう全てだから。
高須
徹底してるなぁ〜。でもそれ、考えたら正論中の正論だよね。
そんな人もいるかと思うと現場で一人馬鹿笑いしてるダメダメディレクターもいるしねぇ。
おち
あと…『元気』のロケでね、国道沿いのラーメン屋さんを取材するっていうから、
俺現場に行かされまして、ついていったんですよ。
そのロケには伊藤さんも来てらして、コーナー担当のディレクターが
「じゃあラーメン屋の横で、お店の外観撮るところからはじめまーす」つったら、
伊藤さんが「何考えてんだ」って怒り出してね。
高須
ふんふん。
おち
「国道沿いのラーメン屋だぞ。こういうのはな、国道挟んで向かい側から撮り始めるんだよ」
って言うんです。で、みんなで向かい側に移動しながら、
俺は何で向かい側なのかがいまいち把握できてなかったんですけど、
実際リポーターが「あのラーメン屋です。では、行ってみましょうね」って前フリするでしょ。
そしたら、リポーターにそのまま国道を、車を避けたり停めたりしながら横切らせたんですよ。
横断歩道も何もなくて交通量の多い、その道路をあたふたしながらリポーターが店まで行く。
つまり、そのラーメン屋の紹介から店に行くまでに、ひとつおもしろい絵がもう撮れちゃってる、
ということになるんですよね。それで、あぁ、そういうことなのかー…と。
こういう演出の仕方があるんだなぁって。
高須
一つのネタがそこにある。でも、そこまでの演出というかアプローチで
そのネタ自体のおもしろさって全然違ってきたりするやんかー。
そして、そういうアプローチの仕方をやりだしたのって
『元気』がやっぱり走りやったと思うのよねー。
おち
そうですね。新鮮でしたもんね。
高須
今はもう、そういう切り口って当たり前になってるし、
一種やり方も演出として定着してしまったけど、生み出したのは伊藤さんかもなぁ〜。
おち
例えばね、今更だけど、でも未だに良く観るから言うけど、
とある場所に「初めて人が入ります!!」なんてネタの絵面で、
入ってくるリポーターをカメラが待ちかまえている場合があったりするじゃないですか。
そしたら、それってものすごい嘘じゃないですか(笑)。
高須
あ、分かる分かる。カメラマンが一番に入ってしまってるもんな(笑)。
おち
初めてです、つっといて、絵面をリポーターを待ち受けるスタイルで撮ってしまったら、
緊張感もへったくれもねーだろ、という。
そういう絵面は、自分が関わってる場合は絶対にしないように心がけてたりしますよねー。
高須
なるほどー。演出ひとつでネタ自体が生きたり死んだりするから、
そういう感覚って作家にとっても大切やなぁ。
おち
せっかく考えたネタですもん。しっかり生かしたいですよね。
高須
でもなぁ、そこに限って言えばそういう…何というか、
「演出はディレクターの仕事」っていう、仕事の分担があるやんか。
おち
はい、ありますね。
高須
けど、最近って作家が企画をプレゼンする時、この企画はどんな感じの画面にするかを
ディレクターに説明しながらすること多かったりするやん?
おち
多いです、多いです。
高須
今までは、そんなことあまりなかったけど、ここ最近多い。
俺あれって、画の撮り方やテロップのタイミングとか、イメージ通り、
もしくはそれ以上にしてくれるディレクターって少なくなってきていて、
作家が企画段階で画のイメージを話した方が、みんなにイメージさせるのが楽だから、
っていうのが当然みたいになってきたからなんちゃうかなぁ、と思ったりするのよ。
なによりそうする方が、会議でみんなに伝わりやすい。
でも一方では、作家がどこまで手出ししてええんかなー、
ということもあったりするわけで。
おち
作家という位置取りの難しいところですよねー、それって。
時代が変わって、テレビが変わってきて、作家の担う部分が確実に
変化してきてるような気はしますけどね。
今の放送作家は作家と言うよりも”環境設定士”という感じがする。
それでもテレビ作りのシステムそのものは、昔のまんまですから…。
脚本家をやって”これが本来の作家なんだ”と思いましたもん。
高須
うんうん。
おち
でも放送作家という呼び名になると、いきなり責任も不明確じゃないですか。
失敗した時にケツさえふけない感じ。
だから俺、自分一人で企画立案して自分の会社で作ってる『仕立屋工場』とかは、
全部やらさせてもらってるんですよ。
その企画の背骨の奥の方まで一番分かってるのは僕自身だし、
誰かの強烈なこだわりを見たいってとこもあると思うんですよ。
ただ、この状況が一番ベストだったりすると、なおさらその点が複雑ですよね。
高須
ますます微妙やんなぁ、そうなってくるとー。
おち
ねぇ(苦笑)。
第2話へつづく
放送作家
おちまさと さん
1965年12月23日、東京都生まれ 放送作家・脚本家
『ガチンコ!』『学校へ行こう!』『進ぬ!電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!』『「ぷっ」すま』『天声慎吾』『ロンブー龍』『一億人の大質問!笑ってコラえて!』『特命リサーチ20XX』『笑っていいとも!(木曜)』『三宅裕司のドシロウト』『いろもん2』『内村プロデュース』『ガキバラ帝国2000』『未来ナース伝説』など多数の人気バラエティー番組を企画構成。『仕立屋工場』では企画・構成・演出・司会を務める。(以前放送していた『東京恋人』(CX)も企画・構成・演出)
また、脚本家・越智真人として、『天国に一番近い男』(全11話&SP)『世にも奇妙な物語』(「ココリコ田中主演『逆男』草なぎ剛主演『銃男』)などを執筆。