当時のレギュラー18本……タレントを相手にするのではなく、演出家を相手にして仕事を選びたいという海老さんとは、過去の話よりも現在のテレビについての話が盛り上がりました。もはや放送作家ではなく、テレビコーディネーターと化しつつある己への疑問符。去勢された放送作家とは? タレントと放送作家の運命的なめぐり逢いとは? 静かで冷静な対談の向こうに、売れっ子作家の「凪」を垣間見るようなひとときでした。
インタビュー
第3話
2001.04高須
海老ちゃんはどんなテレビ見て、育ったの?
海老
俺、テレビっ子じゃなかったから。
高須
あー、やっぱりそんな感じはするよなぁ、なんとなく。
どんな子供やったん?
海老
僕は小学校4年から進学塾みたいなとこに通って、
全国で3番、とかいう成績になったりしてた、真面目な子供だったんです。
で、絶対合格間違いなしって言われてた某私立中学を受験したら、
それが見事に落ちちゃって(笑)。
高須
ありゃりゃ。
海老
そのまま公立中学に通うことになったんだけど、
そこはもう金八先生全盛期だったからってもあったんだろうけど
窓ガラスとかガンガン割っちゃうような学校で。
自分は試験に落ちてこの学校へ仕方なく入ったから、
窓ガラス割ったりするような奴らとは格が違うんだ、みたいに思ってたはずが、
どうもその空気に馴染んでいって楽しくなってる自分がいて。
結果的には、学ランの裏に龍が入ってるような学生時代を過ごしてましたよ(笑)。
高須
あ、そっちの方向へ、するっと入ったのね。(笑)
でも、そこからどうして「テレビ」ていう世界に入ろうと思ったの?
きっかけって?
海老
何だったろうなー……。
足掛かりの最初は放送作家集団の
「オフィスぼくら」がきっかけだったんですけど。
高須
あ、そうか。
海老
「ぼくら」が開いてた、放送作家セミナーみたいなのに
参加したのが最初ですよ。
高須
また、なんでそこへ行ってみようと?
海老
高校生ぐらいの時にちょうどおニャン子クラブが全盛で、
放送作家としての仕掛け人・秋元康の名前が結構知られ出してて、
それで言い方としては傲慢になるかも知れないけど、
「自分にもできるんじゃないか」と思ったんですよね。
高須
それは全然まだ、やんちゃしてた時期?
海老
うん、まだ全然、あっちこっちでやんちゃしてた時期。
高須
そんなやんちゃな、龍の刺繍入ってる学ラン着てたような少年が、
一応テレビを見て、何となくできそうな気がしたわけか(笑)。
海老
生意気にも、才能があると思ってる自分がいたわけですよ。
高須
まぁねぇ、そんな時期はみんな、そういう部分あるわな。
海老
俺はそういう部分、人一倍あるから。
だから、何とかして関係者に知り合えればオーケー、と思ってた。
知り合うためだけにそのセミナーに参加してたんじゃないかな。
高須
そこまでの自分の信じるチカラは、俺には無いな~。
誰か、あのタレントさんに会いたいとか、
憧れの有名人に会いたい、とかそういう原動力は無かったの?
海老
全くなかった! 今も無いし。
高須
誰~にも興味ないの?
海老
無い。結局は面倒くさくて(笑)。
高須
海老ちゃんらしい答えやなぁ。(笑)
海老
今でも、タレントさんとご飯食べに行くことなんか、ほとんど無いもの。
芸能人にも、芸能界にも興味が無い。
チャンネルを押せば映像が出てきて、マスを抱え込んでるその装置と仕組みが
おもしろいからテレビの世界に来ただけなんだと思う。
高須
その後、そこそこ軌道に乗りだして「ぼくら」を離れて、個人になってからは?
海老
もう個人事務所で、嫁さんに経理を任せて、それっきりって感じです。
ただただ仕事するだけで、別に儲かってるって実感も無いですし。
高須
そうは言ってもなぁ、山ほどこなしてるわけで。
海老
そんなこと言い出したら、高須さんの方が実感あるでしょう。
高須
無いよ~(笑)。
高須
ばんばん話が飛んでしまうけど、今一番長く一緒にいる演出家、
「電波」の土屋さんとの出会いのきっかけって何やったん?
海老
土屋さんは、ある日突然電話がかかってきたんですよ、
会ったこともないのに。
高須
えー。
海老
「新番組やるんだけど、戦力になってくれないか」って
唐突に電話で言われて。まぁ、当時さすがに
「やりますか、やりませんか?」とは訊かれなかったけど(笑)。
高須
(笑)。
海老
でも、ノリはそんな感じで、いきなりでしたね。
あの方はディレクターとして、おそらく当時から作家の
リサーチをいろいろやってらしたんだと思いますよ。
じゃなければ、電波の作家陣なんて集まるわけないし。
高須
それは絶対そうやって。ほとんどまだ駆け出しやった作家を
あれだけ集めて、今やほとんどがチーフクラスって、異常やもん。
海老
当時は本当に、ゲリラ集団のようなチームだったから。
高須
俺はだから、すごく羨ましかったんだよ。
土屋さんが誘ってくれて、それを俺は当時、断らざるを得ない
状況だったからね。ダウンタウン以外の仕事を、うまく引き受けられない
環境だったからさ。
「電波」が始まる前、まだ編成局にいた土屋さんが、
よく「ガキの使い」の会議に「編成の人間」として来てて、
編成の立場から、意見出したりしてたのよ。
番組初期のあの頃に、土屋さんがポロッと言った企画も
結構やったんじゃないかなぁ。
俺の「テレクラドッキリ」なんかもそうだと思うんだけど、出演もしてたしね(笑)。
その頃からこの人、優秀だなぁと少し思ってた。
「フジテレビには10年は勝てないだろうなぁ」って、ボソッと当時言ってた。
で、土屋さんが引き連れたメンバーが実際に日テレを立て直した、
てのも、今や事実としてあるわけだからさ。
海老
なるほど。
高須
あの人はやっぱり、すごい演出家であり、作家なんやと思うなぁ。
高須
さあ、そんなこんなでだいぶ話したけど、今後ってどうするの?
海老
……飽きてきてるんですよね、正直……。
高須
飽きてるよね? 分かるよ、その気持ちは。
テレビコーディネーターになってしまうと、情報もあって、
仕組みも分かって、テクニックもあって、タレントもそこそこ知ってて、
じゃああとは何が吸収できるか、てとこにまで
来てしまってるからね、きっと。
海老
歳とっていってもそこそこやれそう、みたいなレールは
何となく安定してそこにあるような気がして、それもつまんないかなぁって。
高須
でも作家としては、絶対に感性の部分が落ちてくるでしょ。
歳を取っていったら、必ず大勢の流れとは「ずれ」が生じてくる。
そのずれをどうするの、みたいなことって無い?
海老
俺は多分、頭ハゲ始めたら一気に坊主にしてしまうようなタイプだから(笑)。
だから、グルッと一気に、全部まとめて捨ててしまうと思う。
高須
あー、分かる分かる。俺もそうだ、ちょっとハゲたら、もうね!(笑)
海老
禿げていってるって分かってて、なおかつその毛が一本一本
抜けて減っていく、枯れていく様を見つめ続けるなんてできないもん。
それが怖いから、後退しだしたと自覚した時に
一気にガバッと剃っちゃう。絶対。
高須
分かるよ、耐えられないのよね、その現実に。
周りから噂されてそうだもんなあ。
それやったら潔く、って思うんだろうね、俺らはね。怖がりだから。
だけどさ、その坊主にするっていう「いっそのこと」な行為って
どんなことなんだろう? 作家にとって。
海老
……。
……お花屋さんになる、とか(笑)。
高須
花屋!(笑) そこまでいっちゃうかぁ。
海老
リタイアするしかないでしょう。ガバッと職種変えるぐらいしか、
夢のあるとこ行こうと思ったら、ねぇ。
高須
う~ん、そうかぁ。
高須
じゃ「放送作家」の延長線では、こうなりたいとかってビジョンは
あんまり無いの?
海老
うーん、無い……とは言いながら。
俺はこのまま、人生かけてもいいっていうようなタレントに
出会わないのかなぁ、とは思ってますね……。
高須
あぁ……そうかぁ。
海老
秋元さんには「とんねるず」という存在がいて、
高須さんには同級生ってこともあるだろうけど「ダウンタウン」があって。
ビジネス的に思うのか、情で思うのか分からないけど、
才能あるタレントと作家の、そういう繋がりってあるじゃないですか。
そういうものに俺は出会わないままなのかな、とは思ってるんですよね、
心のどこかで。
高須
なるほどなぁ。
海老
会わずに終わるのかなぁ、とも最近は思いつつ、
どこかで期待を捨てきれない自分も、まだいる。
高須
俺はもう小学校から松本と浜田を見てて、
「こいつはおもろいなぁ~」って思い続けてるからなぁ。
海老
うんうん。
高須
あいつらが芸能界入る、って言い出した時も、全然いけると思ったし、
その頃は「紳助・竜助」とか全盛の漫才ブームだったけど、
それでも絶対凌いで売れると思ってたし。
そこから来てしまってるから、俺はまた「出会った」「出会わない」
ていう領域には自分がいないような気がしてるんだよね。
偶然にも、小さい頃から「あった」ものだから。
海老
うん、それはそれでまた違うんでしょうね。
例えば鈴木おさむとSMAP、みたいなことかな。そういうものに
出会わないまま、流れ板のように演出家に呼ばれるまま
出張料理、みたいなことを続けていっちゃうのかなぁって(笑)。
そう思うと、少し寂しかったりもするんですよ。
高須
やっぱりタレントとではなく、
海老ちゃんは演出家と、っていう流れなんじゃないの?
海老
やっぱりそうなのかなぁ。
高須
それもそれで、タレントに巡り会うのと同じぐらい、
稀少なことやと、俺は思うけどなぁ。
海老
だったらいいんだけどなぁ…。
御影湯海老克哉の湯おしまい
「海老さん、お忙しい中、たくさんのお話をありがとうございました!!」
おわり
放送作家
海老克哉 さん
1965年 東京生まれ
プロレスラーへの夢破れて放送作家に
主な担当番組は「進ぬ!電波少年」「雷波少年」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」「どっちの料理ショー」「ピカイチ」「モー。たいへんでした」「あいのり」「サタ☆スマ」「メントレG」「タモリ倶楽部」「出没!アド街ック天国」等
年上の妻と娘と、ラブラドールリトリバー(オス)との4人暮らし
趣味:カジノ、麻雀、雑誌乱読、スニーカー収集