御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×宮藤官九郎」 第3話

冬の寒い日に、ルノアールで初対面のおふたり。舞台出身の宮藤さんは、いかにして放送作家になったのか?勝新太郎は何かどうすごいのか?など、ふたりしていろんなことを語り合ううちに少しずつ話は具体的になっていき、脚本を書くにあたっての方法論や、果ては松本人志が語ったという「ダウンタウンの漫才の作り方」にまで話は及びました。「おもしろい」に至る手法のヒントが、あちらこちらに詰まった対談です。
取材・文/サガコ

インタビュー

第2話

2004.01

コメディの原点・男子校

高須

みんなが思ってることだと思うけど、
宮藤くんの仕事量ってスゴイよね!
ドラマに映画にバラエティにって、めちゃくちゃな量やってるでしょ?

宮藤

あー、それは違うんです、違うんですよっ。
脚本書いてる時期は、結構バラバラなんです。
それが完成して公開される時期がかぶったりとかするから、
一気にやってるように見えちゃうんですけど。
映画とかは2年ぐらい前の脚本がもうすぐ公開されたりしますし、
もう1本、今ちょうど映画が公開されてるんですけど、
そっちは今年の夏に書いた脚本だったりするんですよ。

高須

そういうことかぁ。
でも、すごく仕事やってるように見えてしょうがないよ。
今日、仕事の現場で木村さん(吉本の芸人・木村祐一さん)と話してたんだけど、
テレビ雑誌をふぁ~と見てたら、宮藤くんのページがあって、
木村さんが仕事の数確認しながら
「めちゃくちゃな量やってるなぁ~、すごいなぁ」と。
果たして筆が速いのか、なんなのか。
どうやったらこんなに脚本をいっぱい書けるんだって、
ふたりして不思議がってたのよ。
宮藤くんのスピードが知りたいな。
脚本、どれくらいで書き上げられるものなの?

宮藤

んー、ものによりますね~。

高須

例えば、連ドラの1話分っていうと、どんなもん?

宮藤

連ドラですか。
一気にこもって書き上げるってわけじゃなくて、
なんだかんだと他のテレビ番組の会議とかあって、
中断されたりするんですけど、大体3日~4日くらいですね。
とりあえず、1回書き上げるってことでいったら、それくらいです。

高須

で、そこから直しが入るよね?

宮藤

ですね。いろんな人の意見を聞きながら直します。
早いと、1話分が完成するまで1週間くらいかな。

高須

うわ、それは速い! すごいね。

宮藤

連ドラって撮影が始まってしまうと、
書かなきゃ間に合わない状況に追い込まれますからね。

高須

それでもさ、どうしても何にも頭に浮かんで来ない時ってあるでしょ?
「あー、もーっ、なんっにもわからな~いっ!」
って、どうしようもなくなる時ってあるでしょ?(笑)

宮藤

はいはい、ありますね(笑)。

高須

そういう時は? どうしてるの?

宮藤

そんなときはもう、
プロデューサーの人から出してもらったアイディアとか、
そういうのをどんどん使って書いてしまいますね。

高須

そういうのって自分の世界を邪魔されそうで
いやだったりとかしない?

宮藤

そんなことないですよ。
ちゃんと話を聞いて「いいな」と思ったら、
素直に使います。素直ってのも変だけど(笑)。

高須

そうかぁ~。
ドラマの脚本って、数えるぐらいしかやったことないのに、
俺はそのへん反発したりするからなぁ。

宮藤

でも、なんでもかんでも聞いて、
受けいれてまんま書いたりできるわけじゃないですよ?
例えば、ドラマの撮影だとたまにあるんですけど、
役者さんのスケジュールがどうしてもとれないから、
ここのシーンをその役者さんがいないようなシーンにできないか? とか
相談されちゃったりする。

高須

あったあった!
『明日があるさ』の時ってね、
役者さんと違ってほとんどが自分のレギュラー番組を持っている芸人さんだから、
終日スケジュールが押さえられなくて、
「このシーンでは藤井さんと東野さんはダメなんですよ!」とか言われて、
よくへこんだっけな。
そんなの、脚本を書いてる側にしてみたら、ぜんぜん知らないことなのに(笑)。

宮藤

「これじゃおもしろくないからこう変えよう」っていうのならまだしも、
スケジュールがあわないから脚本変えろっていうのはどうなんだ?って
思ったりしますよね。

高須

また脚本は1カ所変えてそれで OKってわけじゃないからね。
そのシーンにあわせて、他のところもいじらないといけなくなってきたりする。

宮藤

場合によっては意固地になっちゃって(笑)、
「困ります。このシーンには居てもらわなくちゃ!」とかって
その場は抵抗したりするんですけど、
あとになって冷静に考えてみたら、
その役者さん、ここのシーンには居ない方がおもしろいじゃん……
って、突然気づいたりとかしちゃって(笑)。

高須

あるある(笑)。

宮藤

でも、1回堂々と「そんなのは困ります!」って言っちゃった反面、
「あの~、やっぱりその方、このシーンにはいなくていいですよ。
僕、脚本書き変えますね~」なんて言いづらくてですね。

高須

言えない言えない(笑)。

宮藤

ですよね(笑)。そんなことはよくあります。

高須

集中して脚本書きたいなぁとか思わないの?
カンヅメになるとまではいかなくても、
1日のスケジュールの中で
テレビの会議なんか入っちゃうと、集中削がれたりとかしない?

宮藤

そのへんは…なんて言えばいいのかな。
脚本を書くのって、自分ひとりの世界に入るじゃないですか。
それがね、ある程度までならいいんですけど、
一定超えちゃうとしんどくなっちゃうんですよ。
だから、番組の会議とかが逆に定期的にあって、
外で、自分とは違う人達の考えに触れられるって言うのが
僕にとってはいい刺激と気分転換になるみたいで。
僕は、こもっちゃうとだめですね、たぶん。

高須

質問ばっかりになるけど、
宮藤くんは元々、テレビが好きな子供だったの?
めちゃくちゃテレビ見てたの?

宮藤

好きは好きでしたけど、そんなに言うほど見てないような気がします。
ちょうど漫才ブームの終わり頃には、漫才は好きでよく見てました。
たけしさんとか、すごくおもしろくて。

高須

やっぱり、たけしさんなんだよなぁ~。
あの人って、不思議と側に行きたくなる引力があるよね。

宮藤

ですね~。
いま、一緒に番組やってるフジテレビのディレクターの伊藤さんも、
たけしさんが好きで、憧れて、
一時期は浅草のフランス座で働いてたらしいですよ。

高須

えーっ、まじで!?
もう伊藤と10年以上の付き合いになるけど、そんなこと聞いたことないなぁ。
『笑う犬』やったりしてる伊藤でしょ?

宮藤

ですです。

高須

『ワンナイ』のプロデューサーの伊藤?

宮藤

はい。

高須

……アイツは意外と嘘つくよ?(笑)

宮藤

あははは!(笑)

高須

笑いのためなら意外と普通に嘘つくよ?
えーっ、それ、ホントかなぁ……。

宮藤

今度聞いてみてください、多分ホントですよ(笑)。

高須

コーヒー、おかわりしよっか。

宮藤

あ、いいですか。じゃ、同じものを。

宮藤

僕が東京出てきたのが、ちょうど『ガキの使い』が始まった頃でした。
今も、毎週ちゃんと見てます。

高須

ありがとうございます。
あれもね、週によって当たり外れがあるからね(笑)。

宮藤

いやー、僕にとってはほぼ毎回があたりですね~。
高須さんが言う「はずれてる」っていう企画も、
当たりに見えたりするんですよ。

高須

あ、それ聞いてなんかホッとした(笑)。

宮藤

一視聴者として、すごく好きです。
あの番組に出てる方って、スタッフ含めて
みんな特別な人って気がします。

高須

『ガキ』一生懸命見てくれてるってことは、
『ごっつ』もかなり見てくれてたん?

宮藤

家に帰って絶対見る! とまでは行かなかったですけど、
オンエア当時、習慣として家にいたら必ず見てましたね。
最近出たDVDを見たら、かなりのコントを知ってました。

高須

覚えてもらえてるコントがあるって、嬉しいなあ。

宮藤

でも、結構知ってるつもりでも知らないコントが
ひとつふたつあったりして。
DVDはいいですね、あれ。

高須

そういう風に言ってもらえるとうれしいよ。
関わったスタッフとして、すごくうれしい。
だけど、宮藤くんの世代となると、『ごっつ』の笑いとかが、
自分の世界を構築する原点ってわけでもないでしょう?
大人になってからの番組だったと思うし。
そういう意味で、宮藤くんのコメディとかの原点って
どのあたりから影響受けてるの?
「あの世界がやっぱり好きなんだよね~」っていうような自分の原点。
そういうのって、なにかある?

宮藤

原点…。えーと、なんだろうな……。
僕は男子校に通ってたんですけど、出身が北の方でして、
冬になると教室に大きめのストーブが置かれるんですね。
その、ストーブの周りにみんなで集まって話をするんです。
今思い出すと、どんなことを話していたかっていうのは
ほとんど思い出せない。
だけど、その雰囲気だけはしっかり憶えてるんですよ。
たぶん、うまく言えないんですけど、
あの時のあの雰囲気っていうのを、
心のどこかで再現しようとしてるっていうのはありますね、
なんとなく、ですが。

高須

ほうほう、テレビや映画じゃないんだ。なるほど。

宮藤

今思いだしても、俺よりおもしろいヤツいっぱいいたなーって
思うんですよ。高校の同級生とか。
で、今になってたまに電話してしゃべったりすると、
「そうでもないな……」とか思うんですよ(笑)。

高須

はいはいはい(笑)。
そういうもん、そういうもんよ(笑)。
一流選手でも、たった1年解説にまわると、
アッという間にタダのおっさんになってるようなものだよね。

宮藤

男子校だったから、学校の中で「女の子にモテる」とかっていうのは
何の意味も為さなかったんですね。
それよりも「おもしろいか」「おもしろくないか」の
どっちかしかなかったんですよ。
強迫観念みたいなのもありましたよ。
「今日の俺は、昨日の俺よりおもしろいのか?」とか。

高須

俺らの学生生活も似たようなところあったけど、
そこまで追い込んではなかったなぁ。

宮藤

自転車通学の途中に、学校行ってからの自分っていうのを
毎朝シミュレーションしてましたもん。
「今日はどんな話をしよう。
まずは『昨日、何があった?』ってところから
入ってくるだろうから、その時にはこの話をして……」みたいに。
延々やってましたね。

高須

そうやって鍛え上げられていったんだね。

宮藤

どうなんでしょうね。今も会議の前とかそんな感じですけど、
あの頃はもっと恐怖感ありましたね。必死だったと思います。
だからこそ、大学行った時は周りの人達の話のつまらなさに驚きましたよ。
バブルの最後の方だったから、みんな就職絡みの話ばかりしてて、
「どこそこに先輩が居て知り合いになっといたほうがいい」とか。
そんなだったから、僕は大学からどんどんどんどん外れていって、
最終的には辞めちゃったんです。

高須

中退したんだ。

宮藤

そうなんです。で、それ以来です。
日大芸術学部を卒業した人に会うと、
どうしてもギラギラした目で見ちゃうのは(笑)。

高須

うははは(笑)。

宮藤

「ちくしょー、うまいことやりゃあがったな~」って(笑)。
今更ですけど、ちゃんと卒業してたらもっと違う道のりがあったのかなって
思ったりもするんです。
僕、高橋さんにお仕事を紹介してもらったのが26歳の時ですから、
スタートがすごく遅いんですね。

高須

業界デビューは遅いほうになるね。

宮藤

すごく遠回りしたのかなぁ、と。
だけど、その間に芝居の脚本書いてたっていうのがあるから、
今になってドラマの脚本書いたりもできる。
だから、まぁ、うまいこといってたのかなぁとも思ったり。

高須

そうだね。その経験がなかったら、
ここまでいろいろ手広くやれてなかったかもしれないよね。

宮藤

ですね。

高須

僕は、宮藤くんの仕事の内容のバランスの良さがスゴイと思ってて。
それって、絶対その「遠回り」が基盤になってるんだと思う。
演劇で培われた基盤が、揺るぎないもんね。
しかも、立ち位置も絶妙だよね?
自分メインでドラマの脚本がやれるのに、
深夜のお笑い番組の作家の1人にもなれて、
コントを書けるっていうのは、すごくかっこいいなぁ、と。

宮藤

いえいえいえ(苦笑)。

高須

宮藤君を見るたび、
「あぁ! 俺もそういうのがよかったなぁ!」と!!(笑)
そんな雰囲気の立ち位置になりたかったよ、俺は!(笑)

宮藤

だって、高須さんもドラマの脚本書いてるじゃないですか。

高須

俺のは、ざっくりした感じのドラマだもの。
バラエティの人間に求められる要素のドラマ、ていうのかな。
俺がいつか書きたいのは、ドラマ然としたドラマ。
だけど、そんなん書き始めたら絶対大変でしょ?(笑)

宮藤

いや、そこはどっちが大変かなんて分からないですよ。
バラエティ作ってる人が考える真面目な方面のことって、
実はすごかったりしますからね。
案外、簡単にやってのけたりとかあるかも。
映画の話をバラエティの作家さんやディレクターさんとかとしてると、
僕らなんかよりずっとたくさん見てて、知ってたりしますし。
そういうところはすごいなぁって、ホントに思いますよ。

高須

バラエティの人間は、つまるところコンプレックス持ってるからなぁ。
それって芸人が思っている劣等感みたいなものとちょっと似てるんだけど。
でもその劣等感こそが笑いの原動力だったり、自分の活力に繋がってる。
そういう意味じゃ「感情」って「エネルギー」だなって、本当に思うんだよね。
宮藤君ってコンプレックスはあるの?

宮藤

今はいろんな仕事に手を出している分、それぞれの分野のプロに対して
劣等感があります。例えば構成作家としては、
僕はいわゆる企画ものが苦手で、進行台本とかも書けないんです。
だからそういう発注にちゃんと応えられる作家さんとかすごいなあと思います。
反対に脚本家としては、王道のドラマを書いてる人を素直に尊敬するし。
あと子供の頃、漫画家になりたかったんですけど、絵がド下手で諦めたので、
絵が上手な人とか、俳優としては普通に二枚目で歯並びがきれいな人とか……。
言われてみれば、コンプレックスいっぱいあります。
確かにそれがある意味、原動力になってますね。

高須

そういうところはあるよねぇ、お互いにね。

かたや、大阪尼崎の風土に鍛えられた男。
かたや、男子校の独特の雰囲気に鍛えられた男。

「おもしろいか、おもしろくないか」それがすべて。

不思議なプライドと生き残りを賭けた厳しい環境の中で
センスは磨かれていったよう。

そして、彼らは今も、いる。
「おもしろいか、おもしろくないか」
それがすべてではないけれど、
それが最も重要な意味合いを持つ、特殊な世界に。

第3話へつづく

放送作家

宮藤官九郎 さん

1970年7月19日生まれ かに座 宮城出身

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