御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×小松純也」 第4話

『夢で逢えたら』『ごっつえぇ感じ』『笑う犬の生活』などを手がけてきたディレクターの小松純也さん。劇団そとばこまち時代のお話から、あの歴史に残る『ごっつ』最終回に至った急展開の真相まで。真剣に笑いを追いかけ続けた『ごっつ』時代のダウンタウン……その強い信念に基づいた彼らの素顔から、黄金時代を支えたディレクターの苦悩とこだわりと、そして何者にも代えがたい幸福の話をお届けします。
取材・文/サガコ

インタビュー

第3話

2002.01

二人の凄さを思い知った日 ~トカゲのおっさん~

高須

小松が一番気に入ってるコントって、なに?

小松

……「トカゲのおっさん」の一番最初の、長いヤツですね。

高須

なるほどなぁ。

小松

あの話が決まった時に「うわぁ、えらいことになったなぁ」って
心底思ったんですよね。
アトランタオリンピックのマラソン中継の裏だったんですよ。
で、何をやっても数字は悪いに決まってる。
みんなはマラソンを見るだろう。
それだったら、いっそのこと60分で一本のコントって
でけへんかなぁって、松本さんが言いだしたんですよ。

高須

「トカゲのおっさん」自体は、そんなに長いコントの予定じゃ
なかったんよな?

小松

そうです。
普通のコントの中の1つとして設定と台本が上がってきて、
そのためのセットを組んで、普通に撮るつもりだったんです。
リハも終わって、さあ後は撮るだけだって時に、
タマリに行って
「本番、よろしくお願いします」って言おうと思ったら、
松本さんが
「小松……ちょっとスゴイことやろうと思ってんのよ……」って
ぼそっと言い出して、「え、なんですか?」
「いや……うん、でも、どーしようかなぁ……」とか呟いてねぇ(笑)。
で、これを一本長回しのコントにしようって言い出したんですよ。

高須

それ聞いて、どう思った?(笑)

小松

いや、どうもこうも……(笑)。
「おもしろいですねぇ」って。
そこから急遽、ネタの練り直しですよ。
あ、でもその時に僕は、
浜田さんすごいなぁって思ったんだったなぁ。

高須

え、どんなことがあったの?

小松

松本さん、浜田さんを交えて、
ネタを30分用に練り直してたんですけど、
どうしても煮詰まってきてしまったんですよ。
松本さんを中心に、その現場にきていた作家とか
僕とか入っていろいろネタを出すんですけど、
どうも話が流れていかない。
そしたらね、いきなり何も言わへんかった浜田さんが
仕切りだしたんですよ。
「これは、松本がこんな風に台詞言うやろ?
そしたら、俺がこれこれこういう風に返せるやんか。
それやったら、問題なく次にいけるやろ?」とかってね。

高須

へぇ~。

小松

僕は
「あ、これはダウンタウンの別のスイッチが入ったな」と
思って、びっくりしましたね。
「うわっ、こんな風におもしろくなっていくんだ!」って
目の当たりにしたわけですから。

高須

なるほどね。
漫才つくる時とか、そうやねん。

小松

そうなんですか。

高須

俺、あの二人が漫才つくる時、一緒に居ったりしててんけど、
二人居てるやろ?
まず松本が
「浜田、こんなんしようと思ってんねんけど…」って言うと、
「うん、うん、ええよ~」って。
で、ある程度ネタの雰囲気だけ説明すんねんけど、
それを松本は相方の浜田を見るんじゃなくて、
俺に向かって喋んのよ。

小松

へぇ~、なるほど。

高須

これ、対談読んでる人達には伝わるかなぁ、分かるかなぁ?
で、浜田も松本を見ずに、また俺に向かって
ツッコミを入れるのよ。(笑)
コンビ同士でやってると気恥ずかしいから、
俺を挟んでネタを詰めていく。
そうしながら、二人ともアドリブを少しづつ入れてくる。
第三者の俺がどういうリアクションとるか見て、
ネタを膨らましていく。
で、最初はネタそのもののビジョンが見えてる松本が
主導権握って、話を進めていくねんけど、後半になってくると、
浜田の方がネタのだんどりを仕切っていくねんな、
不思議なことに。
「それやったら、俺がこう突っ込むわ、
そしたら松本のさっきのボケ生きてくるでぇ」って
どんどん進め出すのよ、
そしたら、松本も浜田の言った突っ込みのフレーズに触発されて、
自由度の高いボケがどんどんテンポよく出てくる。
そうすることで、お互いが次のステップに
斬り込んでいけんのよね。
松本が煮詰まると、浜田が整理する。

小松

そうなんですよね。
今まで一言も喋れへんかったのに、
「いや、それは違うで」ってビシッときっかけ
入れてくれはったりしますもんね。
整理整頓しはるんですよ、絶妙に。
僕はそれを「トカゲのおっさん」で初めて見たんですよねぇ。
……それまで結構『ごっつ』はやってたはずなんですよ。
五年とか、六年とかダウンタウンって人達と一緒にやってて、
その時それを初めて体感したんですから。
まぁ、秘密を見たっていうか、真髄を見ちゃったというか…(笑)。
で、47分のオンエアがある番組で、実に37分がコント、って
前代未聞のものが出来上がったわけです。
VTR止めてから松本さんが
「あー、一時間行かれへんかったなぁ~」って笑いながら
言ったんですけど、その時はスタジオが、もう、
完全に一つでしたよね。

高須

拍手したくなるような感じやったもんね。
あの時に糸井さん(糸井重里氏)が、
あのオンエアの「ごっつ」を見て
「すごい!あれこそが本物の芸だ。
ああいうものをテレビでやられちゃったら、
誰も勝てないよね」って
俺に言うてくれたんよ。

小松

あれはね、立っていてネタをつくる人じゃないとできない!
台本書いてどうのこうの、という領域ではないですからね。

高須

で、その才能っていうのは、芸人そのものの才能とはまた別やろ?
フリートークもでき、ネタも作れて、演じることもできる。
とにかく、たくさん引き出しがなければでけへんことやん。

小松

現場に立ちながらその場で考えることが出来る人じゃなけれ
ばああいうのはできないんです。
不意に一度やってみて「おもしろいっ」って発見したことを
もう一度計算して、今度は思いつきじゃなく、
冷静に組み立ててから、再現しなくちゃならない。
しかもそれがおもしろいかどうか、判断しながらやってる。
その有様がカメラの前で次々再現されていくのを
見ていたわけですよ、僕らは「トカゲのおっさん」で。

高須

うんうん。

小松

「これはえらいもんをやってるなぁ~」って、
しみじみ思いましたよねぇ。

高須

だって、そんなことのできるヤツら、他に居ないじゃんか。(笑)

小松

居ませんねぇ(笑)。
あの現場自体が、まぁ、有り得ないと言えば
有り得ない現場だったわけですよ。だって
「何分になるか分からないけど、とりあえずやろうか~」なんて(笑)。

高須

俺な、作家にとっては最低で、一番いけないことやな、て
思うんやけど、
誰もがアイツ(松本人志)を頼ってしまうやんか。

小松

はいはいはい……。

高須

絶対に、自分よりも他の誰よりもおもしろいことを
アイツが言う! ってみんながそう思っていて、
自分が考えることをどこか諦めるし、
やめてしまうし、待ってしまうやん?
期待するねん、誰もが。
そして、アイツは必ず、みんなが期待したもの以上のものを
返そうとするし、また返してくるやんか。
それに俺は、常にびっくりするし、作家として嫉妬してしまう。
「なんじゃ、こいつは!!」って(笑)。
星野さんもね、それをすごいって言うてたわ。
「何がすごいって、常に期待を裏切るのがすごい」って。
星野さんが現場で本番前に
「人志、大丈夫か? できるか?」って訊くねんて。
そしたらアイツが
「たぶん」
と言う。
すると、星野さんはオチも何にも聞かずに
「よし、やろか」ってスタートさしてしまうらしい。
そんな時、絶対に星野さんは自分が期待してる以上の笑いと結果が
やってくるんだ、と。
それを毎回もたらす松本人志っていう芸人は、本当にすごい、と。
三木さんも同じ事を言ってたなぁ……。
『一万円ライブ』で、初めて本格的に構成を
担当してくれたときに、
松本のネタやコントをつくるスピードに、びっくりしてたもん。

小松

あ、それはそうでしょうね。
三木さんの作り方とは、明らかに違いますもんね。

高須

そう、もう、とにかくむちゃくちゃ速い、速すぎるって言ってた。
一回打ち合わせしただけで、7つもネタができてきてる、と。
しかも、その7つがどれも決してダメではない。
それが、松本人志のすごいところだ、ってね。

小松

うん。ほんまに速い。

高須

コント設定の切り口を、あれだけのスピードで
何種類も出せるっていうのは驚異的だって。

小松

松本さんはだから、作家としても天才ですよね。

高須

いや、ほんまに優秀な作家。
びっくりしっぱなしだもん、俺、ずーっとね(笑)。

第4話へつづく

ディレクター

小松純也 さん

1990年 株式会社フジテレビジョン入社 第二制作部=バラエティ制作センター
2010年 バラエティ制作センター企画統括担当部長
2012年 株式会社スカパーJSAT 編成担当主管
2014年 フジテレビ バラエティ制作センター部長
2015年 現場復帰を願い出て、株式会社 共同テレビジョン 第二制作部部長・プロデューサー(現職)

演出
2001年 2005年 FNS27時間テレビ総合演出
ダウンタウンのごっつええ感じ 
一人ごっつ・松ごっつ
笑っていいとも!
初詣爆笑ヒットパレード
他多数

企画した番組(兼ねて制作・チーフ演出含む)
フジテレビ現行
ホンマでっか!?TV
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