『マネーの虎』を大ヒットさせ、今も続く名企画「ゴチになります」などで作家としての地位を確固たるものにした堀江さん。後輩として恐縮しつつも、『マネーの虎』のヒット要因や、ナインティナインに対する想いなどを熱く語っていただきました。居並ぶ先輩作家の厚い壁をぶち抜いた瞬間とは……?
インタビュー
第2話
2002.07高須
さて、『マネーの虎』をやって……深夜で数字を取って、話題になって。
いろんな所から、いろんなことを言われるようになった?
堀江
そうですねぇ。
どこかしらカルト番組だから、言いやすいのかもしれませんけど。
高須
でも、あの番組は言われる分だけあると思う。おもしろいと思うよ。
どうしてあんな番組をやろうと考えついたの?
堀江
前々から、テレビの画面に現金が乱舞してるような画を見たいなぁと
思ってたんですよ。
高須
俺もそんなことを思ってたりした。
バブルな番組をやりたかった。金がガンガン出ていくような、
嘘みたいな状況の番組をやりたくて、でも、それは俺にとっては
『マネーの虎』みたいなやり方とは発想がリンクしなくて。
それで、あの番組を見たときに「あぁ! こんなやり方があったんだ!」と思ってねぇ、
ドキッとしたし、悔しくもあったよね。
堀江
一回目の放送の荒い編集上がりを見て、僕自身すごく
ドキドキしました。それと同時に、その生々しさがテレビ番組として
成立しているのかどうか、不安にも感じました。
高須
『TVライフ』のコラムにも書いたんだけど、
俺はあの、金を、札束をドンドンっ! と置く、
あの独特の変な「間」が大好きなんよ。
そしたら、それを書いたらまた堀江は律儀にメールで、
「いや、僕もそこにこだわってたんですよ。
細かいところまで見てくださってるんですね。うれしいです」って
これまたオヤジ転がしのように持ち上げるメールをくれたよねぇ(笑)。
堀江
転がすつもりはなかったんですが。
高須
オヤジのとこも否定せぇよ!(笑)
堀江
あっ、すいません(笑)。
ホントに細かいところまで見てもらってるんだなぁって
純粋に嬉しかったんです。
誰もそんなちっちゃなところ、言ってくれませんでしたから。
高須
あぁ、そう……えっ、ちっちゃいところ!?(笑)
なんかそれって、全体が把握できない、ダメ作家ってこと?(笑)
堀江
いえ、ディテールを鋭く突かれたという意味でっ(笑)。
高須
分かってるがな(笑)。
堀江
ホントにすいません、僕の言い方が悪くて。
高須
そんなマジで返されても…ごめん、ごめん(笑)。
堀江
だけど、そういう細かい「間」にはこだわってますね。
人間は現金を目の前にすると変に殺気立つというか、
その緊迫感を沈黙の「間」で表現したくて……その辺の編集には
すごく時間かけてやってもらってます。
高須
やっぱりそうかぁ。あれはディレクターが優秀だと思う。
見てても「この間にこだわってるんだろうなぁ」とか、
「ザラザラした感じを残して、チャンネル止める編集してるなぁ」とか
分かるもん。それは絶対必要だよね。
堀江
スタッフががんばってくれてるんです、すごく。
生のスイッチングじゃ出せない「間」とか、気まずい空間を、
編集でうまく出してくれてますからね。
高須
ディレクターのチカラで以て、こっちが思い描いた以上の世界に
なることってあるからねぇ。
「ここまでやってくれたんか!?」とか、イメージの異なる部分が重なり合って、
すごくいいものができたりすることもあるしね。
「虎」では、最初から、いろんなイメージをディレクターと打ち合わせたりしたの?
堀江
全体を劇画テイストのドキュメンタリーにしたかったので、
座りのいいMCを置くのはやめようとか、
スタジオだとテレビ的になるのでどこか現実を感じさせる
空間にしようとか、いろいろ細かくイメージは伝えました。
理想は三谷幸喜さんの『12人の優しい日本人』みたいな、
2転3転するディベートを思い描いてましたが、
それはあくまでも理想で。でも、実際にあの空間に座ると
志願者がかなりエキセントリックになることを知ってビックリしました。
僕はもっと淡々と進むのかと思ってましたので。
高須
俺は、あの回が一番おもしろかったなー……えーと、結婚式の司会者の回!(笑)
堀江
あの志願者は僕も好きです。
「希望額は888万円! 末広がりの888万円で!」って(笑)
結婚式場というハッピーな職業なのに、プレゼンが始まった途端、
Vシネの殺し屋のような形相に変わりましたからね。
高須
あれはすごかった! 見てて、もう、こわくて(笑)。
テレビって、ある種の事件性が必要やろ。
「何かするぞ、こいつは」って空気が顔中から出てた。
堀江
また出たい、リベンジさせてくれ! と番組に応募が来てるそうです(笑)。
高須
マジで? うっわー、また見たいなぁっ。
だって、見ちゃうもん、あの手の人間は。
この人は一体どういう理論武装で来るんだろう?
追い詰められたときに、どんな表情になるんだろう? ってわくわくしてしまう。
追い詰められすぎて、暴走スイッチ入った瞬間なんか、すごいやん!
堀江
目の前に札束の山があって、完璧な理論武装であの場に臨んで、
でも、予定にない事が起こるとスイッチが入っちゃうんでしょうね。
高須
素人の表情がリアルにゴロゴロと変わっていくのはおもしろい!
うまいシステムだなぁ、と思うんだよね。
いや、そりゃ、いろんな事を言う人はいるだろうけど。
堀江
まぁ、えぇ。
高須
それはそれとして、うん。
俺は好きだし、おもしろいと思うなぁ。
堀江
そう言ってもらえると嬉しいです。
高須
さて、『マネーの虎』で岩盤を破った堀江!
堀江
ですから、それは僕の言い方が悪かったですって(笑)。
高須
次の時代はどんなテレビがヒットすると思ってる?
堀江
うーん、なんでしょうね……。
今は「素人ものバラエティ」が全盛ですから、
真逆の番組をやりたいなあって気持ちはありますが……。
高須
それはコントとかの「つくりもの」ってこと?
堀江
タレント主導、というか。
高須
どんな人を使いたい、とかある?
堀江
そうですねえ、すごく魅力を感じてるお笑いの方が3組ほどいます。
高須
ほぉ、それは是非聞かせてよ!
堀江
「ダウンタウン」さん、「浅草キッド」さん。
あともう一組が「くりぃむしちゅー」が大好きで……。
高須
へぇ、くりぃむしちゅー!
堀江
はい。
高須
あー、でも分かる気がするなぁ、何かが一貫してるねー、その3組。
ちゃんとチカラのあるところを掴んでるね。
堀江
やっぱりコトバの芸人さんはスゴイな、と思うんですよ。
高須
3組とも、ツッコミがめちゃくちゃしっかりしてるからね。
堀江
でも、それにしたって次は一体何が来るんでしょうね?
高須
分かれへんやろ?
堀江
全く分からないです。
高須
でも、「お金」っていうのは確かにあるよね。絶対に。
どんなことをして素人の顔・表情を変えるか、ってことしかないやんか。
堀江
そうですねぇ。
高須
俺、素人ものは「どうやって1時間の間に顔をころころ変えさせるか」だと
思うんだよ。そのためのスイッチを探してるっていうかね。
お金に群がる人……恋愛に群がる人……。
堀江
たしかに恋愛だと、『ロンドンハーツ』とかはリアルに素人の顔をころころ
変えさせてますね。
高須
だけど、それもさんざん見ちゃった感があるでしょ?
あとは、何を使うんだ? と考えたら、これは難しいよねぇ。
でも、感情を引き出すってことだと思うんだよ。
「お金」は確実なスイッチだからね。
堀江
そうですね。
高須
子供も大人も、お金ってものには必ず引っかかってくるからさ。
恋愛は、若者だけだからなぁ。お年寄りには訴えかけられない。
でも、お金は広い層に訴えられる唯一のツールかな、と。
最後の武器っぽい気がするんだ。
「愛してるんだ」は恥ずかしいけど、
「金が欲しいんだ」は、全ての感情を飛び越えるからね。
堀江
現金を前にした時の、気まずい顔って好きなんです。
誰も触れられないような不思議な顔になりますよね。
『マネーの虎』の場合、金を欲しがる者と金をおしみなく出す者が
札束をはさんで座ってるので、もう両者が素っ裸で顔をつき合わせて
いるようなもんで…表情は誤魔化しようがないのでしょうね。
ある日、勝手に札束をつかんでムシャムシャ食べ出すような、
クレイジーな志願者が来ないかなぁなんて期待してたりするんですけど。
高須
だって、金を持ちすぎた人間も、金を持っていない人間も
どっちもどこかで破綻してしまってる部分があると思う。
そんな破綻した人間同士がぶつかるわけだから、そりゃ衝突はすごいよね。
堀江
両者の間に目に見えないフォースが働きますね。
だけど、「金をくれ」と正々堂々と来る志願者の勇気は
素晴らしいなあと思いますよ。
そして、それをバキバキに折る虎の皆さんも素晴らしい。
だって、自分の会社の社員たちも、テレビで社長の発言を見てるわけですから。
罵倒もしてますし。
「もう出ないで欲しい」と社員に頼まれてる社長もいるそうですが。
高須
あのやりとりだけを切り取って、完全なるショーとして見せきったのは
すごいなぁと思った。
完全にそこだけで勝負しにいったわけでしょ?
俺だったら、あのやりとりの後の「後日談」が欲しい、
それがなければ成立してない、と思っちゃうからさ。
堀江
実際にそのプランが起動しているのかは気になりますよね。
僕はいつも思うんですが、
「金をもらえなかった幸せ、金をもらえた不幸せ」の番組なのかなあと。
もしかしたら金をつかんだことで、それが呪縛となり、
人生が狂っちゃう人もいるかも知れない。
今後、金をもらった人の「アフター」部分はきっちりとお見せしようと
思ってます。実は取材自体は収録後からずっと追ってますので。
高須
なるほど。それはすごく楽しみ。
高須
堀江のライバルは?
堀江
ライバル、ですか?
高須
11年やってきて、この30代前半の年齢ぐらいでライバルって?
気になる人っていうかさ。
堀江
そうですね、ライバルっていうんじゃないですけど、
単に年齢的なもので気になってるのは……宮藤官九郎とかですかねえ。
たぶん僕より年下なんですよ。
高須
へぇ! それはまたどうして宮藤官九郎?
堀江
『GO』とか面白かったですし、やはり作品を「遺してる」感が強いから
くやしいというか、なんだか焦りますね。
ほんと、自分より年下という年齢的なもんだと思うのですが。
高須
つくりものには興味があるの?
堀江
ドラマとか、ですか?
高須
いや、別に種類は限らず、バラエティではないもの。
堀江
僕はそんなに器用じゃないと思うので、
基本はバラエティの世界でいくつ自分の企画を残していけるか
という勝負だと思ってます。
でも、全然違うこともやってみたいですね。シリアスなものとか。
今やってる世界とは全く逆のものを作ってみたい、という欲求は
すごくあります。
高須
バラエティとか、お笑いをやってる人間って、
絶対どこか違うものをやりたがるよなぁ。
堀江
バランスを取りたいんですよね、多分。
そこだけを考えてっちゃうと壊れる、というか。
高須
それは業というか、宿命みたいなものかもなぁ。
堀江
そういえば、気になるというか、いま日テレの深夜で
『マスクマン!』という番組を一緒にやってる宮下仁志さんは優秀ですね。
映像のセンスがいいですし、企画にエッジをきかせてくれるというか、
作品としてちゃんと仕上げてくれるので作家として嬉しいです。
『ぐるナイ』でも一緒にやらせて頂いてますが。
高須
あー、俺もなんかの特番の現場で一緒になったことあるかも。
堀江
ちゃんとイメージしてくれる人ですね。
あと、『気分は上々』の岡田さんとか。
高須
うんうん、分かる分かる。
そういう同世代の信頼できる人間がいるっていうのは、大事だよね。
堀江
ホントですねぇ。最終的にはディレクター、って部分ありますもんね。
第3話へつづく
放送作家
堀江利幸 さん
1968年8月16日生まれ 群馬県出身
中央大学理工学部数学科在学中より放送作家として活動を開始。
現在担当している番組は、『世界一受けたい授業』『ぐるナイ・ゴチになります!』『炎の体育会TV』『林先生が驚く初耳学』『プレバト!』『ペケポン』『真実解明トリックハンター』『ポンコツさまぁ~ず』…など。