御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×鮫肌文殊」 第3話

作家デビュー以前の中島らもさんとの出会いから「電波少年」に至るまで。パンクバンドの大酒飲みは、いかにして放送作家になったのか? そして当時のテレビ、特にバラエティ番組が抱え始めていた数々のジレンマについて、深く、鋭く切り込んでいきます。狂いの先に見えるおもしろいを貫くことが、かっこよくも難しくなっていった時代の、とてもリアルなお話です。

インタビュー

第3話

2000.10

今のテレビ

鮫肌

そんなこんなで東京に出てきまして、リサーチャーと作家の間みたいな事をしながら、
ずっと悶々とやってたら、プロデューサーの土屋さんから
ある日、電話かかってきたんです。
『電波少年』って番組やるんだけど、どう? と。

高須

それって、東京出てきてからどのくらい経った頃?

鮫肌

ちょうど一年半ぐらい経ってからです。
その頃は、今でこそ『電波少年』って言ったら有名番組ですけど、
始まったばかりの頃は視聴率も低くて、今
では名前聴いたら「知ってるよ」という作家でも当然、まだまだ若手の頃ですし。
俺自身も若手作家と言われてましたけど、土屋さん的には
「放送作家と言うより、本を出したり、エンピツ賞を取ったりしている違う人種」
という立ち位置での抜擢だったみたいです。

高須

いわゆる「違う血を入れる」ってヤツかぁ。
ちょうど俺はそういう話を聞く度に羨ましいなぁ、と思ってた時代だなぁ。
まだまだダウンタウン色から離れられない頃やったから、
なんか吉本の専属放送作家と思われてたみたいで。
そういう新しいバラエティに入っていく若手をええなぁ、ええなぁ、
と見送ってばっかりやったなぁ。

鮫肌

これに関してはラッキーやったんですよ、本当に。
今でこそ「電波」の作家、みんなレギュラー10本以上とか、
そんな人達ばっかりですけど、当時はみんな結構ヒマだったから。
俺も俺で、まだネタ出しのコツも分かってなかった時代ですから、
19時からの「電波」の企画会議(ネタだし)のために、
昼の11時から必死で企画考えてましたからね。
図書館行って、一週間分の新聞読んで、
アポ無し取材のネタ探しに8時間以上かけてあたふたしてて……。
例えば最近「リストラ」という現象があちこちで起こっているらしい、
という記事を読んで、じゃあこれを企画にするにはどうしたらいいか?
どうアレンジするとバカバカしくなるか? あっ、そうだ。
「松村から社員にクビを言い渡して欲しい社長募集!」ってのはどうだろう?
と考えて、アポ無しロケ企画にまで持っていくのに四苦八苦なんですよ。
テレビの企画に落とし込むまでに、めちゃめちゃ時間かかりましたね。
まぁ、その8時間ていう時間をしっかりと取れるぐらい
ヒマやった、言うのもあるんですけど(笑)。
今から考えると、毎週毎週よくやってたなぁ、と思いますよ、ほんまに。

高須

「なんかおもしろそうな気がするぞっ」という発見からの、
後は集中力でネタを組み上げていく作業がなぁ、しんどい時はホンマにしんどいよなぁ。
ネタ出しって絶対筋トレみたいなもので、訓練していくしかないよ。
毎日とにかく考えてると、ある時すっと企画が出てくるようになる。
俺も最初の頃は、喫茶店でずーっと腕組んで唸ってたもの。
なんにも出てこぉへんぞ〜、どないしょ〜、って。
思えば、それは集中力がまだまだ身に付いてなかったんやと思うけどね。
今はそれを、訓練でやっと身につけたって感じやなぁ。

鮫肌

コツを掴むまでは、ホント、訓練訓練ですよね。

高須

さっき、鮫ちゃんの簡単なプロフィールを見せてもらっててんけど、
『からくり』とか『ガチンコ!』とか、すっごいやんか。
視聴率20%以上の番組たくさんあるやん。
俺は、昨日たまたま新しい番組の会議に出てたんやけど、そこで出たある意見がね、
「芸人さんでは20%狙えないでしょう」っていう意見だったんよ。
「芸人のお笑いがメインで、20%取れてる番組なんて、今無いですよ」と言うわけ。

鮫肌

厳しいっすね(苦笑)。

高須

アイドルを前に出して、スタッフが番組全体の色づけをまるまる担当する、
という形式ならば、数字の取れる番組のカタチは見える。
けれども芸人さんが前で、ということになると、見えてこないというわけ。
これは一体、どういうことなんだ!?と。でも考えてみたら、
作家としてのやりやすさ・やりにくさで一方的に言わせていただくとするならば、
「おもしろさ」だけを重視するのは、今やしんどかったりするやんか。(苦笑)
芸人さんが面白く見えるスタンスだけを重視してたら、企画の摩耗が早くなるし、
それに面白い事だけを追求し始めると、どんどん大衆から離れていってしまう。
笑いって基本的に裏切りやから、やっていくうちにドンドン深くなる。
もともと、芸人さんって世間の人と笑いのレベルが違う人達なんだから、
そうなると一般視聴者の意識と、ますますかけ離れたものになってしまう。
今の視聴者が見たいと求めているのは、純粋な「笑い」の他に
「楽しさ」とか「身軽なムード」っていうのがあって、
それはまた、芸人さんでは表現しにくかったりするなぁと。
そうして、いざ「こんなお笑いの無いテレビって、どうやねん!」と
はっきり言われてしまうとね、胸がきゅぅ、と痛んだりせぇへん?

鮫肌

分かります、分かります。

高須

だけど「芸人さんの番組」というだけで
明らかに視聴者のハードルも高く設定されてしまったりするようになっていて、
つらいというか、なんというか……。そして、言われんのよ。
「高須さんこそ、高須さんのような人こそ、
 芸人を愛していかなくちゃだめなんじゃないですか?」とね。
そしたら、胸がまたきゅぅっとなる(苦笑)。苦しーぃ感じになる。
鮫ちゃんはどう思う?
こういう現状で、芸人でバラエティ(お笑い)、やろうと思う?

鮫肌

んー……。例えば俺『からくりテレビ』やってますけど、
これは完全にコーナー担当の作家なんですよ。
だから、さんまさんとは実際に面識はなかったりするんです。
その「からくり」でコーナーのお試し版というか、
作ったパイロット版をさんまさんに見てもらって判断を仰ぐ、という会議が先日あって。
プロデューサーに聞いた話なんですけど、その会議の時、
局のタレント打ち合わせ室を使って見てたから、
部屋にはいっぱいテレビが並んでたんですって。
そこには、同じ時間帯にオンエアされてる、各局の番組が横並びで映し出されてて、
それを見ながら、さんまさんが言ったらしいんですよ。
「うわぁ〜、見てみ! 今やってるバラエティー、全部画(え)一緒やで」って。

高須

そうそう、そうなのよなぁ……。

鮫肌

つまり、定点観測のCCDカメラの絵があって、テロップがのって、
サイドスーパーも入ってて、加工されて、っていう画面。
なるべくスタジオのやりとりは少なめにして、
タレントには、VTRを見ている時のリアクションだけもらう。
とにかくVTR、VTRで持っていこうとする作り方。
どこもかしこもそればっかりだ、と。テレビの悪いところって、
一つのやり方がヒットしたら、そこに向かって一斉に流れるじゃないですか。
まさに、今がその一つの流れのピークだなぁ、と。
芸人さんでの番組が作りにくい方へ、作りにくい方へと流れてるし、
視聴者の多くもそれをテレビに望まなくなってるというか。

高須

はいはい。

鮫肌

高橋さんというベテラン作家さんから聴いた話なんですけど、
昔はこんなに作家が忙しいなんてことは無かったんですって。
こんなに個別の打ち合わせが日々繰り返されるなんてことは無かった。
今じゃディレクターに「どう思う?どう思う?」と尋ねられて、
それについての解答はあんたらディレクターの仕事の範疇やろ!
という事まで尋ねられて、求められる。
もう、どう考えたって仕事量が増えてるわけですよ。
最近じゃ、テロップをどうしよう、なんてことまで訊かれますからね。何
百枚ものテロップを画面に打ち込むってことも、昔じゃ考えられないことじゃないですか。
放送作家もそこにがんがん巻き込まれていってる、っていう感じですよ。
まるでそれが当然みたいになってきてるんですよね。

高須

俺も含めて、今の作家に「どんな番組が好きだった?」とか
「何を見て、テレビの世界に入ろうと思った?」と尋ねるでしょ。
答えは必ず「ひょうきん族」とか「ドリフ」とか『夢で逢えたら』とか。
そこに出てくるのはやっぱり芸人さんがやってた、バラエティーやったりするのよなぁ。
でも、「えっ、その割に今作ってるの違うじゃないですかー」と言われて、
またぎゅっ、と胸が詰まってしまう。

鮫肌

苦しいですよね(笑)。

高須

どうしたらええんやろか、と思うのよ。
だって、どこ見たって需要が無いやんかー。

鮫肌

そうですねー…うーん。
だけど、僕らも放送作家である以上、現実見ないで番組終わっちゃったら
生活できないわけじゃないですか(苦笑)。
そこらへんがね…理想と現実っていうか、にがいですよね。

高須

こないだナイナイの岡村が「ライオンキング」の舞台に出る、という
「めちゃイケスペシャル」をやったのよ。
実際2ヶ月間、きついスケジュールの間を縫って、
歌とダンスの稽古をしまくっててそれは非常に、真っ直ぐに、
岡村がすごく頑張ってて、本気で努力してる姿がずーっと映ってて、
単純に感動できるねん。
だからたぶん「ドキュメンタリー」としてそのまま見せたほうが、
数字的にはいいのよ、きっと。
でも番組の使命として、笑いにこだわってるのが『めちゃイケ』なんやからって、
飛鳥(片岡飛鳥)をはじめ、全スタッフが今回も頑張ったわけ。
以前にやった「ムツゴロウ王国スペシャル」なら、
場所があっちこっち変わったり、動物がバンバンでてくることで、画的に飽きない。
でも今回はほとんど舞台の稽古場だけ。
そういう意味ではバラエティーとして非常に辛いんよ。
画的にも、やってることも、真面目なドキュメンタリーで攻めてしまって、
岡村の感動ものに仕上げたほうが勝負は見える。
だけどそれでは、岡村がただのタレントになってしまって、アイドルと一緒になってしまう。
彼は芸人だから、おもしろくなければという一点にスタッフ全員でこだわって、
結果、番組は綺麗なドキュメンタリーにはならなかった。
でもそれはアイドルが体を張る以上に、岡村が頑張ったからできてることであって、
そうじゃなかったらこだわることすら、無理なんやけどね。

鮫肌

なるほどねぇ。
『めちゃイケ』もそうですけど、「ぐるナイ」もそういう部分強いんですよ。
とにかくあの2人がおもしろいと思える、思われるようなことをやろう!
っていうコンセプトやから、また余計にね。
顕著な例というか、話があって、それは「ナイナイベット」という
ゲームコーナーみたいなもんだったんですけど、
ナイナイの2人がガチンコ対決をするから、どっちが勝つかを
ゲストの人に賭けてもらうというコーナーで、
そこで2人が「潜水対決」をしたんですよ。
どっちが深く潜れるか、ということで。ところがやってみたら、
潜水してる間は2人必死やから、どうやったって笑いが起きないわけですよ(笑)。
当然ですよね、生死をかけてやってるみたいなもんですから。
オンエアしてみたら、その2人の潜水シーンは視聴率が
ぐんぐん上がってきてるわけです。
笑いは起きないけど、おもしろくないけど、
でも画的にリアルだから視聴者は見たがるし、実際数字も上がる。
だけど、それは「やめましょう」という話になった。
なぜなら「笑えない」から。
2人がばかばかしいことをやらかしてなんぼ、の番組だから、
そのコンセプトからこの企画は外れてる、だからやめよう、とね。

高須

なるほどなぁ。それもそれでつらい……けど、なぁ! もうっ!(苦笑)

高須

さあ。だいぶ長いこと話したねー。
最後に、鮫ちゃんはこっから先どうしますか?何かやっていきたいことはあるの?

鮫肌

四十歳なんてすぐ過ぎるでしょー…。
で、四十過ぎてパンクのステージでチ◯コだ、マ◯コだと
言いまくってるっていうのも、だいぶ問題あるでしょ(苦笑)。
いや、言い続けるんでしょうけども、結局ずっと好きだから。

高須

パンクはもちろん続けていくとして、
例えば本書いたり、小説書いたりっていう方向は?

鮫肌

うーん…どうなんでしょう。
今年の四月に一冊本を出したんですよ。『鮫肌文殊の俺テレビ』って、
業界の話をつらつらとまとめたような本だったんですけど、
ぶっちゃけてしまうとそれが大したリアクションにも至らなかったんで(笑)、
なかなかこれは難しいなぁ、と思ってるとこなんです。
一冊出して、そこから物書きの仕事が舞い込むかと思えば、甘かったみたいで。
……思いはあるんですよ、確かに。
「古舘プロジェクト」のホームページでも連載してますけど、
例えばコラムとか、エッセイとかを書いて生活していければなぁ、
とは思うんですけど、いかんせんテレビの仕事と紙媒体の仕事じゃ
ギャラの相場も全然違うじゃないですか。
だから、移行していきたいと思っても、
いきなりは難しいだろうなぁというのがホンネのところです。

高須

鮫ちゃんはそういう原稿を書くのに、ものすごく時間がかかったりする方なの?

鮫肌

生来のナマケモノですからね、とっかかるまでが遅いんです。
そして、とっかかってからは早いんです。
というか、早く仕上げなくちゃいけません、という〆切のギリのギリまで
やる気が起きない(笑)。
こないだ出した本でも200ページぐらいなんですけど、
構想立ち上げてから三年半ほったらかしにしてまして、
出版社の人にいよいよマジ切れされたんですよ。
「鮫肌さん、いい加減書いてくださいよっ!」と。
で、実質カンヅメ丸4日で書き上げました(笑)。

高須

番組の台本とかも結構書くのはやいよねー、見てると。

鮫肌

自分では分からないんですけど、そうらしいです。
もう、勢いで書く。というか、書くしかない。
だって、書き出すと言うことは既に時間がないってことなんですもん。

高須

そやなぁ。(笑)

鮫肌

高須さんもいろいろ本出したり、書いたりしてるじゃないですか。
そっちの方向っていうのはないんですか?

高須

ん〜、俺は、どうなんやろか…。
確かに何冊か出したけど、なんか性にあわへんなぁ。
今まで、いろんなコラムとかエッセイとかの話は何度かあってんけど、
なんか出版社の人と話があわへんかったら、もういいやって思ってしまう。
だから結構断った。というのは、放送作家やから、
絶対にテレビの話を持ってこざるを得ぇへんやろ?
鮫ちゃんの今回の『俺テレビ』とか、『放送作家になりたい』のような、
最初っから「テレビ」をテーマに持ってきてる場合は
自分の中でもちゃんと成立させられるんやけども、
例えばエッセイとかってテーマのない形で、「高須光聖が」ってことで書いたとすれば、
それは内容への期待値の中に【ダウンタウンのこと】【松本人志のこと】っていうのが
絶対にくっついてくる。裏話書いてくれるんちゃうかなー、という暗黙の期待が。
今はまたちょっと違ってきてるかもしれないけど、何年か前までは、
そんな部分も結構あったと思う。そしたら、それはもう純粋に
「高須光聖」っていう表現から遠ざかってしまう。
明らかに自分の意図とは違うハードルが読んでる人達の中に設定されてしまうから、
それがしんどくなるぐらいなら書かんほうがええわーって、すぐ思ってしまうのよね。
前の対談でも言ったけど、ダウンタウンがなかったら今の自分が無かっただろう、
とも素直に思うから、だけど思うからこそね……感謝しつつも避けてきた感があるなぁ。
もっともっと頑張らな、とね。だから文章よりも、自分は映画かなぁ。
ずっと大学の頃からの夢でもあるし、思いっきり自分を表現できそうな気もして。

鮫肌

いいですねー、映画。

高須

鮫ちゃんは? 映画とか、そういうシナリオとか…。

鮫肌

シナリオ、脚本とかってことなら、コントの延長で考えることは
あるかもしれへんけど、監督とかっていうのはないっすね。
というのには根拠があるんですけど、僕が使い捨てカメラを持って、
街でも行って、いろいろ撮るでしょう?
そしたら、もう全部びっくりするぐらいつまんない写真が上がってくるんですよ。
なんでこんなにつまらん写真やねん!
実際見た風景はもっと綺麗やったやんけ! って(笑)。
そんなん踏まえたら、やっぱり映像的な才能は
自分には希薄なんだろうなぁ、て思うんですよね。
だったら言葉での表現を、と思てしまいます。詩とかも好きだし……。
今、ホームページで書いてるような雑文にもっとテーマ性を加えて、
形にしていけたらなーと思います。

高須

まぁ、鮫ちゃんはいろんな意味で「どこにでも行ける作家」やと思うから、
俺はまだまだ大丈夫やと思うよ。

鮫肌

どこにでも行けますかね?

高須

行ける行ける。いろんなところへ。

鮫肌

んー、現場でも何でも、全部の物事に関して、
あわないからって蹴り倒したりはしない方ですからね(笑)、
そういう意味ではどこでもいける、ていう部分があるかも。
吠えて得する事なんて、そんなにないと思うんですよ、いっつも。
言うても俺、動物占い「コアラ」やし(笑)。

高須

あ、俺「こじか」。どっちもおとなしいもんやなぁ(笑)。

御影湯 鮫肌文殊の湯 おしまい
「鮫肌さん、お忙しい中、たくさんのお話をありがとうございました!!」

おわり

放送作家

鮫肌文殊 さん

1965年神戸生まれ。放送作家。
『世界の果てまでイッテQ!』(日テレ)などを担当。
『テレビ裏語録』(毎日新聞)などTV関係のエッセイ連載も多数。
昭和歌謡全般のディープな知識を活かして
『決定!レコ歌ベストテン』(毎週木曜20時・中央エフエムにて生放送)
パーソナリティや、
レギュラーパーティー
『輝け!日本のレコード大将』(毎月第2金曜・渋谷オルガンバー)
『歌謡曲主義』(毎月第3火曜・恵比寿頭バー)
をはじめ、DJとしても神出鬼没に活動中。
関西伝説のパンクバンド捕虜収容所の無冠のボーカリストでもある。

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