御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×高橋ナツコ」 第2話

最近は脚本家としてアニメやドラマで名前をお見かけすることが多い高橋ナツコさんも、かつては放送作家としてバラエティを手がけられていました。「放送作家は瞬発力、ドラマやアニメは持久力」という高橋さん。同じテレビの現場でも、台本でも、会議の空気はまったく別物。作り方もまったく違う。同じドラマ脚本でも、高須さんと高橋さんでは作り方が違う? 脚本家を志す人にオススメの対談です。

インタビュー

第1話

2003.02

NHKシナリオコンペ『動物家族』」

高須

さあさあ、ナツコですよ。高橋ナツコ。

ナツコ

ご無沙汰してます。今日は遅刻しましてすいません。

高須

最近ご結婚もされ、お子さんも生まれて。
しあわせ絶頂だね。

ナツコ

あ、お約束なので……(と、お子さんの写真をすすっと)

高須

おー、かわいい。しっかりした顔だねぇ。
やっぱり自分の子供はかわいい? 親バカになる?

ナツコ

親バカはいいですけど、バカな親にはなるまいと。
思いつつも、かわいいですよ、子供はやっぱり。
だけど引き目で見ると、人間としての造作は
キツイですね、この子。まぁ、生き物としてはかわいいけど。

高須

なんでよ?

ナツコ

鼻の下がね、長すぎるんですよ!ほら!(写真を指さす)

高須

あ、ほんまや(笑)。誰に似たの?

ナツコ

おばあちゃん。うちの、というより、生まれた瞬間、
おばあちゃんだったんです。しわくちゃで。
私、犬みたいに安産だったんで、しっかり目に
焼きついてるんです、あの、赤くてしわくちゃな顔が。
ホント、安産で、病院ついて30分で産みました。
で、産み落とした後「おつかれーっす」ってつい言っちゃって。
前日まで、テレビ朝日で4月のドラマの打ち合わせしてたぐらいなんで。

高須

まじかよ!? 母は強しの意味が違う…。
じゃあ、最近はこの子の面倒みて、ずっと家にいるの?

ナツコ

いや、打ち合わせで外に出てばかりですね。
シナリオハンティングでちょっと家を空けた間に、びっくりするほど成長してて、
驚かされたこともあります。
これぐらいの赤ん坊って、人生で一番成長する時らしいんで。

高須

だって、忙しいでしょう。
アニメの脚本とかも、けっこうな数こなしてるもんね。
それに加えて、ドラマもやって……。時間足りないんじゃないの?

ナツコ

足りないです……。放送作家の悪い癖が残ってて、ギリギリ体質だから、
余計に時間がないように感じちゃうのかなぁ、とも。
ドラマやアニメの制作現場って、時間も締め切りもきっちりなんですよ。
会議も5分前集合。
バラエティの会議だと、遅刻が当たり前だったりするでしょう。
先輩、あ、三木聡さんですけど、
「会議はわざと30分遅れていけ」って教わりましたから。
多分、真の意味は、
「例え会議に30分遅れたとしても、それだけテンション高めて行け」
という教えだったと思うのですが、私は言葉通り受け止めてました。
で、さらに、
「遅れた時ほど、ムッとして入れ」って言われて。
これも、言葉通り受け止めてそうしたら、ぶん殴られました。
ていうかコブラツイスト。マジなヤツです。

高須

作家はこの手を、結構使うんだよなぁ(笑)。
「極端に遅れる時は、あえてムッとして会議室に入れ!」
周りの人が勝手に「何か大変なことがあったんじゃない?」と
気を使ってくれるらしんだよね。
でもたしかに、もうこの歳になると時間守る感覚って大事だよね。
社会人として、俺は最近は気をつけるようにしてるよ。

ナツコ

バラエティの制作の世界は
変すぎるって外に出てみて分かりますよね……。

高須

会議室にお菓子とかあるもんなぁ(笑)。
ある知り合いの先輩作家なんて、まず会議室に入ったら、
ADにお菓子のダメ出しから始めてるからね。

ナツコ

いるいる(笑)。

高須

未だにグラビアアイドルが何人も載っている雑誌を広げて、
この中でエッチするとしたら誰か? ってのを
「せ~の」で指さしあってるからね(笑)。変な職場だよ。

ナツコ

プロデューサーのお見合い相手の写真が並んでたこともありました。
「女の目から見てどうだ?」みたいな。
それから、大人のおもちゃが並んでたこともあったな。
それをセクハラとも思わず、「へぇ~」って見てた。
狂ってますよね。

高須

普通の企業とかの会議では考えられないことだもんなぁ。

ナツコ

普通の企業は、スーツとか着てますもんね。
バラエティーはたまにディレクターが上半身裸だったり、
あ、TBSの合田さんはトランクス一丁だったこともあった。

高須

ナツコって、この世界に入ってどれくらいになるの?

ナツコ

二十歳の時…大学2年生からはじめましたから、
もう13年くらいになりますね。

高須

この業界に足を踏み込むきっかけは?

ナツコ

脚本家になりたくて、中学生の時から投稿とかしてたんですよ。

高須

へぇ~!

ナツコ

有り得ないようなお話、いっぱい書いてましたね(笑)。
今も取ってあります。生き恥として。
それで、大学2年の時にNHKで学校放送番組、
いわゆる教育テレビでシナリオのコンペみたいなのをやってて、
応募をしたんですよ。
私は考えすぎてしまう癖があって、
教育テレビだって頭では分かっているんだけど、
ぎゅーっと考えすぎちゃって、できあがったシナリオは、
それはもうNHKでは到底ありえないようなシナリオで、
違う方向に力一杯書いちゃってた(笑)。

高須

どんなの?

ナツコ

動物家族っていうタイトルで、
ライオンのお父さんがコアラのお母さんと結婚したはいいけど、
なかなか子供に恵まれない……なにしろ相手は木の上ですから。
でもお互いとても好きあっていて、子供も欲しいし、
結ばれたいんだけど、お互いの習性がジャマをして。
で、結局、子供はコウノトリが運んできてくれて、
なんとか二人は子供を授かるも、すぐに巣立ちしてしまって。
とにかく夫婦は結婚しても、結ばれない分、
相手を熱烈に恋焦がれる……みたいな。
よく言われるマンネリ夫婦じゃなくて、
一生熱烈な夫婦像を描きたかったのかもしれないし、
ま、実のところよくわかりません。

高須

俺も昔ね、配役が全員真っ裸なんだけど、
必ず役者の股間だけは何かで隠れて絶対に局部が見えない。
これをワンカットで見せる台本を絵コンテ入りで書いたなぁ。
男性が振り向くと、たまたま猫がいいタイミングでテーブルに歩いてきて、
股間を隠したり、あり得ないことばっか書いてたな(笑)。
俺の話はいいとして……それからどうなったの?

ナツコ

で、当然、コンペには落ちたんですけど、
プロデューサーのひとりが別の機会に声をかけてくださって……。
「君、なんか辛いことあった?」と(笑)。
おっしゃった意味は深く考えず、喜び勇んで紹介された現場に行きました。
それで、学生時代は教育テレビのシナリオをやってたんですよ。

高須

そんなはじまりだったんだ。
そこから、ずっとフリーなの?

ナツコ

事務所に所属しないか? みたいなお誘いは何度かありました。
2回くらい会社にも所属したこともあるんですが、
どっちもすごく短期間でしたね。

高須

女の人ってそんな風に、結局フリーでやってく人多いよね。

ナツコ

会社がつぶれちゃったり、考えが甘くて流されたり、
意味もなく立ち止まったり、いろいろあって。
なんとなくですけど、自分のペースみたいなものをみつけると、
フリーになっちゃう人が多いのかも。
バラエティーの世界は特に、女性が上に立つのって難しいとこ
ありますよね。

高須

そんな風に教育テレビをやって。
実際に、民放で最初に手がけた番組っていうと?

ナツコ

民放だと『なるほどザワールド』かなぁ。

高須

王東順番組!

ナツコ

そうですねぇ。

高須

当時はフジテレビの看板番組だったよね。
結構いい番組から参加してたんだね。
それはどんな流れで関わることになったの?

ナツコ

ご紹介でしたねぇ。バラエティーの世界は、
企画コンペとかほとんどないから、人間関係って大事ですよね。

高須

ほかは?

ナツコ

ウンナンさんとかヒロミさんのコント書かせてもらったり……。
そういえば『夢で逢えたら』のコントを書かないか? という
お話もありましたよ。

高須

ああ、そうそう、女の作家さんにお願いしようって言う話は
あったような気がする。
ミッちゃんや野沢のコントなんかを、
もっと女性目線で書ける人がほしいなー、って言ってた。

ナツコ

そうそう、そんなことを言われて依頼されたんですよ。
でも、結局、その頃仕事として書いたのは、欽ちゃんの番組でした。

高須

『なるほど』ではどんなことをしてたの?
クイズのリサーチ? 問題作ったりとか?

ナツコ

んー、問題も必死に作ったんですけど、「ふざけてすぎ」という理由で
採用されないことが多くて、マジメに考えてたんですけどね。
で、実際は、ロケ台本を書くことが多かったです。

高須

そうかぁ……。俺がナツコと一緒に仕事したのって、
ホントに最近だもんね。
同じバラエティやってるようでも、
仕事のジャンルが、やっぱり微妙に違ってたんだなぁ。

ナツコ

最近でも、そんなに仕事はご一緒してないですよね。
『あなあきロンドンブーツ』とかロンブー関係だけで。
私、バラエティでいくと堀江っち(堀江利幸さん)や、
ミチスケくん(遠藤ミチスケさん)と同期にあたるんですよ。
そして、光り輝く先輩達の背中をね…
あこがれをもって見つめていたという世代……。

高須

また、絶対そんなこと思ってないような台詞を!(笑)

ナツコ

いや、ホントにね、私たちの世代って大変だったんですから!(笑)
高須さんや、そーたにさんやおちさんや、あ、村上さんもそう。
そんな、今をときめく人達が常に上にいるんですもん。

高須

そう言えば、ミチスケや鮫ちゃんもよく言ってたらしい。
「世代が揃ってしまってて、僕らの世代にはいわゆる2番手が集まってるんだ」
って。だから番組でもチーフじゃなくて、セカンドになってしまうのよね~、と。
世代のミゾってやつやなぁ。

ナツコ

そうなんですよ。上の人達から降りてきて、
現場用の台本とかこの世代がかなり書いたりしてね(笑)。

高須

みんなそうだってば!
俺らも上の代の人の台本ずっと書いてたんだから。
それが長いか短いかというのはあるだろうけどね。
ええやんかー(笑)、実力は付くやんかー。

ナツコ

そりゃあ、確かに勉強にはなりましたよ~。鍛えられました。
夜中の3時でも4時でも呼び出されるし、
書いてる量、バラエティの頃ってハンパじゃなかった。
今、私ドラマとアニメをやらせてもらってますけど、
放送作家時代の方が、締め切り多かったと思いますもん。
5時間置きに、締め切りがある、みたいな。

高須

そうだよねぇ。

ナツコ

もう、移動中の電車もワープロ膝に置いて書いてましたね(笑)。
当時だから、でっかいの。
書いても書いても終わらなかったですよ。

高須

ナツコとかはさぁ~、ドキュメンタリーバラエティー時代だから
番組のロケ台本が多かったでしょ。
俺らの時代は作りもの、ショートコントやコメディーが主流やったから
量は多くないけど、考えるのに時間がめちゃめちゃかかってた。
だって思いつかないと書き出せないだから。

ナツコ

そうですよね。コントって、思いつかないと、一文字も書けませんよね。
シナリオと違って、プロットポイントがどうとかいう
ある種のルールみたいなものもないし。
考えるよすがさえないと、真っ白なまま会議の時間が来てたりして。
コントの会議って、いやーな、おもーい空気が流れてること多いですよね。

高須

そんな風に書きまくっててさ、自分が
「あ、私もう、このテレビの仕事でいけるなー」と実感したのは、
どれくらいの頃? どんな番組がきっかけだった?

ナツコ

ん~~、バラエティでそれを思ったことがあったかなぁ……。
私は実感しにくかったみたいです。
だいたいが、女性の作家って、
「女の作家が必要だよね」って言って呼ばれるんですよ。
私はいつも、その部分の期待に添うようなことは
なかったですから……(笑)。

高須

でも、この世界の女性作家で残ってる人って、
そんな風に期待される女性的な仕事をしてなくて、
男の感覚で仕事できてる人が残っていってると思うよ。

ナツコ

なるほど、そう言えば、大先輩の藤沢めぐみさんが
「私って女々しいのよね~」とおっしゃってたのには笑いました。
女々しいって言うのは男性に対する表現であって……(笑)。

高須

ナツコもさ、見た目や喋りは女性っぽいけど、
中身は完全におっさんやん?(笑)

ナツコ

ぷっ(笑)。

高須

中身の、その、奥底の方がね(笑)。
だって、テレビの中でもバラエティーって、完璧な男社会でしょ。
そんなところで女性でやってられたってことは、凄いよ。

ナツコ

あ、でも最近は、そこにオバサン感覚も備わってきてるんです。
今度、久々に、オセロの……妹みたいな感じで
親しくさせてもらってるんですけど、その情報バラエティーに
参加させてもらうことになりそうなんです。
マネージャーさんから「オバサンが見る番組ですから、ぴったりです」って
ウキウキしながらお電話いただいて。
まあ、とにかく「女性作家」として仕事で呼ばれても
期待裏切っちゃってたかもしれませんね。
それが私がバラエティから遠ざかっていった理由かも。
……コント書いてる時とかはちょっと違ってたかもしれないですけど。

高須

放送作家は、どこまでいっても自分の番組っていうわけにはいかないからね。
バラエティはどこまでいっても、タレントのものであり、
ディレクターのもの。
作家が自分で「俺らしい番組だ」って思えるようなポジションに
辿り着けるのは、ホント一部だろうし、思ってたって口には出せないし……。
そうか……。それで世界をしっかりと自分で持つために、
ナツコは外の世界へと目を向けはじめたのかね?

ナツコ

そんなかっこよくはないですけど。
なんでも夢中でやってた頃は考えてもみなかった、
やりたかったこととか、自分にできることっていうのを
ちょっとだけ考え始めたって感じです。
やっぱ、私が上半身裸で会議にいたら、多少なりともその場が凍ると思うし、
きっとそれは私じゃできなかったことなんですよね。
ドラマやアニメーションの現場では今のところ、
そういう、上半身裸のディレクターとか、お見合い写真が並んでるって
光景はお目にかかってないので。行けるとこまで頑張ってみようと。
あ、ちなみに、その上半身裸のディレクターがね、
「胸毛を抜いてくれ!」とか言ったんですよ、その場にいた人全員に。
理由は眠気ざまし。抜きましたよ、私は。

高須

素晴らしい職場だ……。

第2話へつづく

放送作家

高橋ナツコ さん

ラジオドラマで脚本デビュー。
コント番組、バラエティー番組の執筆を経て、
現在アニメーション、ドラマ、映画の脚本、ライトノベル、児童書籍等の執筆にたずさわる。
近作は、妖怪ウォッチ、俺物語、GO!プリンセスプリキュア等の脚本を担当。

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