御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×合田隆信」 第6話

先日、復活特番となった『学校へ行こう!』をはじめ、『ガチンコ!』など、アイドルが全力で取り組むバラエティを数々成功へと導いた合田隆信さん。彼は芸人バラエティを潰した戦犯だったのか?その背景にはTBSが抱えていたジレンマや、芸人に対するコンプレックスや憧れなどがたくさん渦巻いて……!?本音で語られる失敗談も含め、胸を熱くするお話がいっぱいです。
取材・文/サガコ

インタビュー

第6話

2002.01

がんばってくださいね、僕の分まで

高須

ゴウちゃんがどう思ってるかは分からないけど、
俺はダウンタウン一派の中でも、異質なところにいたでしょ。

合田

はいはい、それは分かりますね。
異質というか、微妙というか。

高須

ダウンタウン一派って言われる所以の強い毒の部分っていうのかな。
執拗なまでに笑いにこだわり続ける姿勢みたいなものが、
良いところもあれば悪いところもあると思ったから、
俺は自分でバランスを取ろうと思って、それで今の自分なんだよね。
けど、ほら、三木聡さん、いるでしょ?

合田

はい。

高須

この人はその強い毒の部分、
「笑いへのこだわり」だけで来てるみたいな人やんか。
その純粋さたるや、その精神、努力たるや、ほんまにすごい!
ただ、その三木さんの持ってるテイストが、どれほど
放送作家として活かされて、必要とされ、成功してるかっていうと、
それはとても微妙やったりするんよ。
つくってるものの本数は決して多くないしね、三木さんは。
けれど全部の作品のその質とか、目線とかは常に一貫した
こだわりがあって、ホントにハッとするようなもんばっかりやねん。

合田

そうですね。

高須

だけど、今、ゴウちゃんと三木さんが組んでも、きっと
良い番組は出来ないやろ?

合田

今はきっと、仕事として成立しないでしょうね。

高須

成立するとしたら、純粋に夢を持ってる者同士じゃないと。
例えば、CXの小松とか、さ。

合田

『TV’SHIGH』なんかは、あの二人ですよね?

高須

そうそう。ああいうのが作れてしまうのよね、あの二人だと。

合田

なるほど……。

高須

作家のバランスと、ディレクターのバランスってものが、
二重に噛み合わないとダメだから、テレビって大変なんだよなぁ。

合田

それは絶対そうですね。

高須

そこへ数字が絡んでくる……自分たちの情熱や理想が絡んでくる……。
笑いを愛したはずの自分が笑いを切り崩すっていうのは、なぁ……。

合田

それを思い続けられるっていうのは、
高須さんがフリーの作家だから、っていうのも
あるんかもしれませんねー。

高須

んん?

合田

小松さんとの対談でも言ったんですけど、
僕がそういう笑いへのコダワリであるとか、夢を言えるとしたら、
それはもっとTBSがチカラをつけて、業界一位になってからですもん。

高須

いや、それはもう充分なところにまで成長したやろ?

合田

まだですね、業界視聴率もまだ三位ですから。
小松さんは「生きにくい世の中になった」と言ってました。
つまり、フジテレビも今、バラエティ視聴率が伸び悩んでますからね。
誰かが大きな番組で、ゴールデンでガーンと数字を取ってれば、
その恩恵でもって
「じゃあ、一方でこういう番組があってもいいよね?」って理屈が通る。
それで夢とか情熱とか、チャレンジとかセンスとか丸出しのお笑い番組を
作ってもよろしい、っていう環境ができあがる。
それが自分にとっては一番生きやすい場所なんだって
小松さんは言ってました。

高須

なるほどなぁ。

合田

僕は小松さんと違って、そういう性分でもないんです。
大体、僕は「有名になれたら何でもいい」ってタイプの人間ですから(笑)。

高須

うーわっ!(笑) 分かりやすっ!!(笑)
でも、ゴウちゃんそれは前から言うてたよね、俺は覚えてるよ。
『生生生生』の時も、
「高須さん、僕、ガツーン!! と言わしたいんですよねぇ、みんなを!」
って言ってた、言ってたわ(笑)。

合田

そうなりたいっていう自分がいて、会社っていう環境があって、
全部を円滑にかなえようと思ったら、
だから、僕には今みたいな方法しかなかったんです。
才能のことも含めてね。
フジテレビにいたりしたら、きっとまた違ったかもしれませんけどね。

高須

小松みたいになってたかなぁ?

合田

無理ですって、才能が違いますから。無理。
僕はもう、数字を外したくないんです。怖くて。
元々が臆病者ですから、冒険はイヤなんです。
そんな性分ですから、
ひとつ成功を収めてしまった今後、どんどん振り幅が
小さくなっていくかもしれない。
もう『ガチンコ』みたいな番組はつくれないかもしれないなぁって
思ったりもしますけど、
視聴率をとれるものを、とりあえず作り続けていきたいと思ってます。
僕よりも少し下の世代のディレクター達にも、
申し訳ないとは思うけれど、そういう番組作りを叩き込んで
数字の取れる演出になっていって欲しいと思ってます。
そして、十年後のTBSにバケモノみたいなディレクターが出てくれば、そ
れでいいかなって。
僕の中では「企業人」っていうことが、とても大きな割合で
心を占めてるんですよ。それはもう、強烈なほどに。
昔、会社を馬鹿にされてた時代があって、
ようやく今、少しずつ風向きが変わり始めた。
フジテレビの人達がTBSのバラエティの話をしはじめたっていうのは、
その証拠ですよ。
で、僕はそれを何とかキープしたい。
それができれば、安定した視聴率っていう結果の上に初めて、
「文化としてのテレビ」を語るヤツが出てきていい環境になるんです。
小松さんが言ってた「生きやすい環境」ですよね。
「分からなくてもついてこい!」っていう番組を発信できる環境、
みたいなことですかね。

高須

そのためにはゴウちゃんが頑張らないとダメなんか。

合田

僕が、っていうのは、僕の勝手な企業人としての責任感ですからね。
今は後輩もいますから、そこまで追い込まなくてもいいんでしょうけど。
でも、どっちにしたって僕には、そんな小松さんみたいな
番組作りの姿勢って、あり得ませんからね。
視聴者にとって分かりやすいものを作る。好かれるものを出していきたい。
それを人は「電波芸者」とかっていいますけど、
電波芸者で結構。僕にはそれが全部です。
合田っていうディレクターを構成する、全てですよ。
……気持ちの部分は半々ですよ、正直なところ。
テレビっていうメディアを憂う気持ちもありますし。
これほどテレビを愛してきた日本人が、
これほどテレビを見なくなるものかよ、と思いますしね。

高須

数字自体に明確に現れなくても、
絶対、みんなテレビ見なくなってるよなぁ?(笑)
コントなんて、絶対一生懸命見なあかんもんやん?
黙ってテレビを見てる人間が居れへん限り、
コントなんて絶対報われないよ。

合田

別に視聴者を蔑視するわけじゃないですけど、
テレビに期待が無さ過ぎますよね。ひどいとは思いますよ。
選択肢がゲームや、BSや、ネットなんかに広がりすぎて、
全部の中でテレビがただの「大きな置物」になっちゃってると
思ってますしね。
情報がどうとかじゃないんですわ。
ただ、無いと部屋が暗い、ぐらいのものでしょう。だからつける。
こないだ『ごっつ』のスペシャルの数字を聞いて、
本当に家具でしかないんだな、と思いましたもんね。

高須

あれはなぁ~~っ(泣)。

合田

自分でいろいろ言ってきて、『ごっつ』の裏で
特番まで担当しておいて、今更ですけど、
あれだけは本当に、何とも言えない気持ちにさせられましたね。

高須

あっ、また裏やってたのかっ!?

合田

やってましたよ~。
でも、オンエアの週の頭まで、僕はその日の他局の編成を知らなくて、
まさか、裏が『ごっつ』とは思ってなかったわけです。
恥ずかしい話ですけど、僕はそれを知って大まじめに
「絶対『ごっつ』は18%は取る!うちの番組は、だから8%か9%だろう。
覚悟しておいた方がいい」ってスタッフ達に言いました。
ところが、フタを開けてみればあの結果です。
自分の番組の数字が良かったとか、そんなことで嬉しい以前に、
ただただ驚きましたよ。
「『ごっつ』見ないで、こっち見るのかよ…」って。

高須

それはねぇ……うーん……。
あらゆる人からメールが来たよ。ショックすぎるって内容のメールが。
そして、最後には必ず
「でも、本当におもしろかったからいいじゃないか」って
励まされてんのよね。
だけど、それはなんとも嬉しくないのよ、俺の中では。

合田

僕だったらそんなフォローは言えないですね。
そんなおためごかしじゃ、何にもしょうがないじゃないですか。

高須

俺も松本も「できたんだから、いいか」っていうのは
あったけどね。いいコントを作れた、それを見てインスパイアされる
誰かが、日本のどこかには居るだろう、それだけの物を作った。
だから、いいじゃないかって。

合田

だけど、この数字がリアルに教えてくれましたよね。
「日本人の文化レベルが如何に下がってるか」ってことを。
コントが難しくて見られない、ってことだったんですよ、
僕らの運動会の方を選んで見るってことは。
ダウンタウンの人気より、ジャニーズの方が人気あるから、とか
そんな一時の要素じゃないですよね。
『ごっつ』がコント全盛だった頃から、まだ十年も経ってないでしょう。
それで、これだけレベルが下がるものか、と。
そして、そのレベルの低さに向かってテレビを作らざるを得ないって、
一体なんて事だろうって。
だって、商業放送ですからね、テレビなんて。
客層を否定するわけにはいかないんですから。
ま、勝つためには僕は何だってする覚悟ではありますけどね。

高須

相変わらず、そこ強いなぁっ(笑)。

合田

だって、有名になりたいですから(あっけらかんっ)。
にしても、こんな日本になっちゃった以上、
テレビで作品を見せようとか、
やりたいことをやりますからついてきなさいって
やらない方がいいと思いますね。テレビを考えない方がいい。
もし、やりたいことがあるんであれば、
テレビ以外のところでやる術を考えた方が絶対いいです。

高須

厳しいなぁ……。

合田

でも、現実はそうなんだから、見つめざるを得ない。

高須

強いなぁ、ゴウちゃんは。

合田

強くないですよ! 弱いから、こうするしかなかったんです。
高須さん、頑張ってくださいね、僕の分まで(笑)。

高須

哀しいこと言うなよぉ……頼むよ~。

楽しいだけでやってるはずもないのです。
全てのお仕事がそうであるように、
華やかで結果を出せているクリエイティブほど、
驚くほど真剣に、苦しんで、作られているのかもしれません。
苦しんだからって、苦しんだ分だけその人や物が偉いとかすごい、とは
思わないけれど、
なんだか胸がきゅっとしめつけられるような対談でした。

異常なほどの、覚悟と努力。
戦争のような対談でした。

おわり

ディレクター

合田隆信 さん

1967年石川県生まれ
1990年TBS入社
学校へ行こう、ガチンコ!、さんまのからくりTVなどの演出•プロデュースを経て
現在バラエティー制作二部長

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