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高須光聖がキク「高須光聖×久保田智子」 第9話

TBSで報道からバラエティまで幅広くこなされる久保田アナ。広島の出身で標準語のアクセントを学ぶ過程で相当苦労され、ストレスからじんましんになったりと、アナウンサーならではのいろんな話を語ってくださいました。『ニュース23』での筑紫哲也さんとのお話や、お仕事での失敗にまつわるトークは笑えて学べて、必読です。

インタビュー

第8話

2005.12

高須光聖がキク「高須光聖×久保田智子」

★気持ちを切り替える

高須

今後やってみたい番組とかは?

久保田

『NEWS23』が大好きだったんですが実現しました。
筑紫さんがとにかく好きなんで(笑)。

高須

筑紫さんって、アナウンサーとしてだけでなく、
人としてもいいよね。どういうとこがいいのやろ?

久保田

筑紫さんは70歳なんですけど、いろんなことに
興味をもっていらっしゃっていて、ニュースもやるけど、スポーツもやるし、
文化も取り上げるんですよね。本当に幅広く、筑紫さんの力で全部やるっていう。
テレビって、バラエティー・スポーツ・報道って、
きちんと分けがちなんですけど、そんな筑紫さんを見ていて
あんまり垣根を作るもんじゃないな、と思いました。

高須

その状況の中でも特別こんなことをやってみたいっていうのは?

久保田

今もできる環境にはあることなんですが、
例えばヘルシンキに行ったとき、デジカメを渡されて、
自分で取材してカメラをまわして、自分でリポートさせてもらったんですね。
人が少ないだけに、自分ができることもすごく多かったんです。
こういう表現の仕方を私はすごい好きなんだなーと感じましたね。

高須

作るほうも好きなんだ。モチベーションはどうやって保ってんの?
最初のうちは刺激があるし、やる仕事も初めてのことが多いから
吸収することも多いだろうけど。でも毎日やってるとそのうち、
1年経ち、2年経ち、イヤなこともありったりしながら、
自分の限界ではないけど、得意不得意が分かってきたりとかするでしょ。
そうするとモチベーションが下がってくるじゃない、スーッと。
そういうときはどういう風にモチベーションを上げてんのかなって。

久保田

久米宏さんとか、勝負をしている方を見るとすごく鼓舞されますね。

高須

なるほどな~。よし、やるぞ!と。

久保田

そうですね。ダラダラしていてもしょうがないな、って。
でも、割り切れることは割り切っていいと思うんですよ。
モチベーションがなかなか上がらない日は、番組中はしっかりやって、
そのほかの時間は自分の時間としてきっちり割り切る、とか。

高須

仕事場ですごいイヤなことがあったときとか、それを引きずるほう?

久保田

30分くらいは引きずります(笑)。

高須

全然引きずってないわ、それ(笑)。

久保田

30分引きずって、どこかで麻痺するんですよ、まあいっか!って。

高須

どういう風に麻痺するの?どうしてもその日一日は良い状況の
自分に戻りづらかったりするやん。

久保田

私は一日引きずってしまうことはないんですよ。
でも、落ち込みはじめると30分間、とことん落ち込みますね。
廃人状態です(笑)。ほんとにもう誰も話しかけられないくらい。
トイレに引きこもっちゃうくらいの落ち込み方ですよ。
で、それを自分でも止めないんです。

高須

もう、どんどん落ち込め!と?

久保田

落ち込んでるんだからしょうがない、と割り切る(笑)。

高須

で、落ち込んで、30分たったらなんとなくいいか、って思えるの。

久保田

そうですね。一度下まで行っちゃうと、あとは上がるしかないっていうか。

高須

ええな~。でもやっぱり普通は30分では切り替えれないよね。

久保田

仕事していて感じたのは、私自身すごく短期集中型というか、
一気に集中できるタイプなんですよ。落ち込むなら、集中して落ち込むみたいな。

高須

なるほどな。でも、好きな仕事とか責任がある仕事ほど、
失敗が残ってくるやんか。そのときに、“いいや、明日変えよう”って思うのか、
“いいや、所詮こんなミスはたいしたミスじゃないんだ”って思うのか、
“いいや、私は別に仕事だけが人生じゃないから”って思うのか。どれなんやろ?

久保田

どれもあります。どれもありますけど、仕事は仕事で、
自分の生活とのリズムはつけなきゃいけないなとはすごく思いますね。
でも、なんだろうな。まず、自分がそのミスに気づいているってことは、
“まだ大丈夫だな、まだ直せるな”っていう風に感じるんです。

高須

なるほどね。俺なんかはその日は一日ダメなんだよね。
で、どうやって自分を変えるかっていうと、3つ方法があるんやけど、
1つは俺がやったんじゃないんやと思うのね。俺にやってくれって言ったから、
俺がそれを受けただけの話なんや、と。俺の責任やねんけど
失敗しようがしまいがいろんな人が「あなたでやります」って言ったんだから、
やっぱり俺だけの責任じゃない!って(笑)、言い聞かせる。
責任分担じゃないけど、そう思うようになったら、
気持ちが少しラクになったり。
2つ目は、失敗しようがこういう経験をできる立場にあることが
うれしいなって思うと辛さも半分になる。
3つ目は、見てる人もテレビをぱっと見たくらいで、そんな頭ん中に
残ってないやろな、と思う。

久保田

私もそれはすごく思います。

高須

で、また半分になって、大丈夫か~!と思えるのよね。
そうして一日くらい経てば、いろんなことを頭の中で整理できて、
ようやく立ち直れる。アナウンサーはどうなんやろ。
どう頭の中で整理をしていくんかなと思って。

久保田

キム・ジョンイルをキム・デジュンって読んだときは、
相当落ち込んだんです。キリっとした顔してやってるけど、
中身ないじゃん、バカじゃん、って思われることがショックで(笑)。
間違えたこともすごいショックなんですけど。そういう風にキリっと
見せようとしてた自分がすごく恥ずかしくなるというか。
でも、そういう状況になったとしてもしょうがない!って思うようにしてます。
そのミスは絶対直さなきゃいけないし、勉強が足りないことを
自覚できたのもいいことだし。ただ、無難になんでもこなせればいいと
いうもんでもないから。時間をかけながら段階を踏んで学んでいこうと。

高須

そうだよね。

久保田

見てる人はそこまで…。

高須

見てないよ。

久保田

そう、その瞬間は「あちゃー」って思ってるだろうし…私も思うんですけど、
それでもそんな人の人生を左右するようなミスじゃない、と前向きに考えるようにして。

高須

そうそう、俺もそう思うようにしてる。最終的にはそこに持っていくよね。
次に取り返しゃあいっか!って。で、翌日になったらなんとなく忘れてる。
俺の場合は、やっぱり一日はかかるんだけどね。切り替えにかかる時間が
長かれ短かれあの引きずりはやっぱりイヤだよね。

久保田

そうですね。

★自分を表現する・しない

高須

僕は作る側やから、演者にこんなことやってって求めるけど、
演者と作る側の温度差っていうか、僕ら作る側にはわからへん部分もあるやんか。
例えば、本当は自分っていうアナウンサーはこんなことはしたくないし、
こんなコメントを本当は言いたくないのに、っていうときもあるやろ?
そういうときはどんな感じで喋るの。

久保田

うーん…

高須

アナウンサーとして、言われたことをちゃんと表現することに
徹しようと考えるのか。自分らしい何かを入れようと思うのか。

久保田

ときと場合によるかな…。その場の雰囲気を変えるための
言葉とかは割り切って喋りますね。でも、時間もあって自由にできるところでは、
自分なりの感じたことを入れたいな、と思います。

高須

俺さ、自分は出るほうじゃなくて作るほうやから、
どっかで気を使ってしまうねん。例えば、誰かMCがいたとしたら、
MCのイメージも踏まえた上で極力その人がやりやすいように作るんだけど、
その人がやりたいって言ったことでも、それじゃ全然番組にならへんからってときは
闘うときもあんねん。でもやっぱり、それぞれに“イメージ”っていうのがあるやんか。
例えば、“女子アナ”にもみんなの勝手なイメージがあるように。
でもな、作る側としてはイメージは大切やけど自己品質は必要じゃないと
思ってしまうねん。あの番組の横にいてくれればいいとか、
笑顔をつくっていればいい、とかな。その中で出る側として、原稿をただ読むんでもなく
「久保田智子」っていう自分を表現せなあかんってなったときに
「アナウンサーの久保田智子です!」っていう自分の軸がどこにあるかを
どうやって表現してんの?

久保田

まずは、番組で求められていることをきちんと
アナウンスすることを大切に。『NEWS23』でもそうなんですけど、
原稿をひたすら読むだけっていうこともすごく多いんです。
でも、それを私が読むことで、「久保田智子」になるというか。

高須

なるほどね。

久保田

ただ、ロケに行ったりとか、編集するようなことに関しては、
無理矢理自分を出そうとは思わないんですよ。
あまり考えずに自然にしてるほうがいいのかなあ、と。

高須

武内にも話したんやけど、オリンピックのマラソンのときに
途中で観客に止められて2位になった選手がおったやろ。
で、当然1位になった人もおって…。
現場のアナウンサーは2位の人をかわいそうって言ったのよ。
でも、「実は1位の人もかわいそうなんやないの?ほんとに気持ちよく
1位になったとは思えないんじゃないか?その人の気持ちを考えると
そのアナウンサーのコメントはいろんな人を傷つけてるんじゃないか」って
誰かが言い出して。それを武内にどう思う?って聞いたら、
武内はあることを伝えることで精一杯だから、とりあえず言われたことを
一番近い状況で伝えることに専念してるって。
なんか入れようとは思わへんの?って言ったら、そんな余裕はないからって。

久保田

私も自分からは言わないかな。私がそれを言うことによって、
それを聞いた人がそっちに気がいっていいのか悪いのかが、
まだよく分からないんですよね。それはそれぞれの考えであって、
それも勝負であって偽善じゃないと思う人もいるだろうし。

高須

俺は久保田は言うと思った。俺が感じるにはそれをいいタイミングで
言えるアナウンサーかな、と思うのよ。

久保田

言うとしても、1人でリポートしているときは言えないですね。
何人か同時にいて、「ここがこうですよね」「ですね」って、
他の人が反論できる状況だったら私も言えると思うんです。
1人でのリポートはまだまだ少ないので。これだけ取材してきたという
自信だったり、経験を積んでいるっていうのも関係してくると思います。

高須

そうね、経験を積んでくると人と違う感度でものを見てる部分もあるもんな。
そういう捉え方もあんのかって。

久保田

そうですね。

高須

ニュースって、
“大きい流れはこういうことだよ。これが正義でこれが悪だよ”
っていうのが大前提であるけど、
実際は悪か正義かも分からないものを取り上げていたり。

久保田

それも含めて“ありのまま”っていう。

高須

っていうのもあるやん。演出をかましてないっていうか。
本当の意味での“ありのまま”を伝えるのは絶対無理やねん。
それでもできるだけ素材のまま出すっていうのがニュースだったりするしな。
でもそれを、ある人の目線で、これはこうだ!みたいにその人なりの
“ニュースの見方”を言われると、それは嬉しいのね。
久米さんにはそれがすごいあったのよ、実は。

久保田

久米さんなら、ボソっと独り言のように言うでしょうね。

高須

そうやねん、うまいのよ。

久保田

“久米さんだからこんなこと言うんだな”っていう。
その“久米さんだから”っていうのがつけばいいんじゃないかな。
何も知らない人がそんなことを言っていても。何を言ってんだろうって。

高須

確かにね。メインとか自分のコーナーとかだったら
もっと言えるっていうのもあるよね。そこがあかんとこかもね。
言いやすい環境を作ることがまず難しい。

第9話へつづく

アナウンサー

久保田智子 さん

TBSアナウンサー。2000年入社、どうぶつ奇想天外、筑紫哲也ニュース23、報道特集などを経て、2013年から報道局に所属し、外信部、政治部、経済部、ニューヨーク特派員とニュースの現場で取材を経験する。現在は土曜朝「あさチャン!サタデー!」メインキャスター。

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